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2017.12.25

販売士

リアルショップが提供できる小さな冒険

 

 女性は男性に比べるとマメで買物頻度が高いといわれています。しかし近頃では買物好きの女性客も、リアルショップと呼ばれる実際の店舗への立寄りが減少しているという傾向がみられるようになりました。
 それは買物頻度が減ったわけではありません。むしろネットショッピングやTVショッピングなど便利で気軽なメディア活用のショッピング頻度は増える傾向にありますが、街中にある実際の店舗に行く機会が少なくなりつつあるのです。
 これはリアルショップとしてはとても大きな問題で「一体どのようにすれば集客ができるのか?特に買物好きな女性客にどうしたら来店してもらえるのか?」とどのリアルショップでも頭を悩ませています。

 

マメな来店は何のため?

 雨の土曜の午前中に近所のスーパーマーケットへ久しぶりに行くと、数ヶ月前より土曜の午前中のお客様の数が増えていました。「雨が降ったからシニア層の早めの買物かしら・・・」と思いつつ買物点数が少なそうなお客様のいるレジへ進むと、前列のご婦人たちとレジスタッフ女性が3人で盛り上がっています。かなりの賑やかさです。
 Aさん「あなたもったいないわよ。あと48円なんだから何か買ってきたら。」
 Bさん「あら嫌だ。なんで、なんで?おかしいわね。1,000円いってないの?!」
 レジスタッフ「でもすごいですよ。野菜の詰め放題でこんな上手に詰め込んだ人はいませんよ。りっぱ!りっぱ!!」
 なんだか3人がてんでバラバラな会話をしていて、早く順番が来る事を当てにした私は足止めを食らいました。
 Bさんはちらっと後続の客たち(私と2~3人)に目線を送り「いいや、あと1回来ればいいから。」スタッフ「10月末までまだ10日はありますよ。じゃがいもは別の袋に詰め直しましょうね。」という会話で一件落着となり、ようやく私の番がまわってきました。
 今の騒ぎは何だったのかとレジスタッフに聞くと、9月からスタートをしたお買物スタンプラリーで1回1,000円超の買物をするとスタンプを1つカードに押され、5つ貯めると100円、7つ貯めると200円分の金券がもらえるというもの。期間は1ヶ月限りで9月と10月にそれぞれ実施されているそうです。さらに、土曜日のみ1,000円超でスタンプ2個になるので集客効果は抜群。その集客にあわせ、精肉の安売りや野菜の詰め放題を実施しているそうです。なるほど!ご婦人たちの盛り上がりは締切10日前のラストスタンプと詰め放題への執念にあったわけですね。さすが先輩女性です!!
 多忙でマメさのない私にはスタンプラリーなど無縁ですが、5,000円超えの消費で100円の得、7,000円超えで200円の得というわずかな経済性にご婦人たちの心は動いているのではなく、スタンプが貯まってくる面白さや詰め放題のゲーム性に心のツボを押されて小マメな来店をしているのではないでしょうか。

 

スタンプラリーという名の冒険

 そういえば思い当たる経験があります。以前、某ショッピングセンターの販売促進コンサルタントをしていた時のこと、半年に1度約100店の店舗を8グループに分けて、1グループから1店舗×8グループの計8店を10日間でまわると景品を贈るというショップラリーを定期的に実施しました。スタンプカードは店から配られる多種のシールを1枚づつ貼っていくと、8枚のシールで可愛い館のキャラクターカードが完成するというような楽しい工夫も加えました。
 このラリーに毎回完成カードを持参して必ず1番乗りするご婦人がおられ、館では有名人でした。早い時では半日、遅い時でも1日で8店舗の買物をクリアされ、ラリーの王者となっていました。ある時、この有名夫人とお話をしたら「私は館のファンなの。このスタンプラリーは小さな冒険みたいなもの。ちょっとした生活の刺激よ」と言っていたのが印象的でした。

 

何がリアルショップで大切なコトなのか。

 さて、皆さんはこの話にどんな感想を持たれましたか。
 家にいてマウスを動かすだけ電話をかけるだけで買物が出来るのは本当に簡単で便利ですが、時間をかけたショッピングの楽しみとは言えません。
 女性はどの世代でも買物好きだと思いますが、特に時間とお金に余裕のあるシニア世代のご婦人たちにちょっとした刺激やゲーム感覚を味わってもらえる前記のようなリアルショップの工夫のあり方は、まだまだ開発の余地がありそうですね。PCモニターの中では絶対不可能な事ですが、リアルショップだからこそお客様に面白く買物を楽しんでいただける事は沢山あるはずだと雨の日のスーパーで痛感しました。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第27号(平成29年12月10日発行)女性視点の店づくり⑫掲載)