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2022.07.01

不動産フォーラム21

ホテル新潮流 かなめは“集い方“

  

 国際的なホテルランクは1.ラグジュアリー(最高級、豪華)、2.ハイエンド(高級)3.ミドル(中級)、4.エコノミー(普通)、5.バジェット(低料金)に分かれています。実はビジネスホテルやシティホテルは日本独特の分類で、交通利便よい立地に出張を目的にしたシングルルーム主体の安価なホテルをビジネスホテル、利用目的はビジネス・観光等さまざまで都心の眺望の良い立地にダブル・ツイン等客室も多様、レストランやBar等も整っているホテルをシティホテル(価格は中級~普通)と分類されています。

 

 しかし近年は高級ビジネスホテルが生まれたり観光客が安価なビジネスホテルを利用したりと分類に境目がなくなり、お客側が質(サービス内容)や価格を目的によって使い分ける時代になっています。

  

 そんなホテル動向に新たな潮流が生まれました。ブティックホテル・クリエーターホテル・ライフスタイルホテルなど呼び方は様々ですが、テーマ性あるスタイリッシュなインテリアやこだわりサービスで個性を出し独自性をウリにする経営スタイルで、100室未満の小規模館が主流のホテルです。

 
 

●注目のブティックホテルが日本上陸 
 2020年夏、京都烏丸御池の商業施設「新風館」の核施設として「Ace hotel(エースホテル)」がオープンし話題になりました。エースホテルはシアトルで生まれ、若い2人の創業者が音楽仲間が滞在できるように古いビルをリノベ―ションして仲間や街の人々との交流の場としてフレンドリー&フランクなライフスタイルホテルを創業、今では世界で10店が誕生しこだわり層の憧れHOTELとして注目されています。

 

 エースホテル京都の特徴はコミュニティです。入口から天井の高い広々空間がひろがり、レセプションとラウンジが設えられています。そこは24時間Open空間。朝7時から開くコーヒーロースターズがあり、仲間とソファでくつろいだり長テーブルでタブレットを開き仕事をする街から人々の姿があります。フレンドリー&フランクの表れはスタッフにも。ホテルスタッフ全員がお洒落な私服の若者達でとても気さくに話しかけてくれます。

 

 さらにホテル全体がアートと音楽であふれ、各部屋には懐かしい邦楽や洋楽のレコードとターンテーブルが設置され滞在時間を楽しませてくれます。また館内ロビーにはギャラリーがあり作家のアート作品が展示されています。ゲストルームも部屋ごとにインテリアにこだわったお洒落空間です。マニュアル通りの従来型ホテルにはないカジュアルで気軽な対応と自由度があり、モダンデザインにあふれている空間力を魅力と評価するビジネスや観光の30代~40代のスタイリッシュな都会派層の常宿になっています。中にはこのホテル泊も目的に来る客もいるそうです。

 
 

●新タイプホテルは“集い方“がかなめ
 札幌にも大手デベロッパーがミレニアル世代をターゲットにしたライフスタイルホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス」が昨年夏にオープンしました。大通公園に面した好立地の1Fは道産食材を生かしたフレンチレストランで、街の人々も気軽に利用できる設えになっています。2Fは全体がラウンジ機能でその中にレセプションとカフェカウンターがあり、宿泊客がそこで仕事をしたり談笑したりと自由な使い方をしています。

 

 このホテルで驚いたのは最上階が「アウトドアリビングSAPPORO」というグランピングステージになっていたことです。ここはさっぽろテレビ塔を背景に焚火を囲んで過ごしたりテントの中でゴロゴロしたり、時には映画上映や燻製料理教室も開催されるイベント空間になるそうです。ホテル内には小さなライブラリースペースがあり、エースホテル同様に部屋にはレコードとターンテーブルが設置されテレビはなし。ステイタイムを読書や音楽やコミュニケーション(交流)で楽しみましょうという提案がミレニアル世代やZ世代の感性のツボを押しています。

 

 コロナ感染の制限がなくなり観光や出張に人々の移動が活発になる中、個性の質で存在を高める新スタイルホテル誕生は興味深い潮流であり、そこに価値を見出す新世代の人々がまた次のホテルのあり方を変えていくのだと痛感します。知人の30代女性にホテルの決め手は?と質問すると、「ラウンジのおもしろさ」と答えが返ってきました。まさに“集う“がテーマの時代ですね。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2022年7月号掲載)