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2016.10.31

不動産フォーラム21

ファッションに夏から起こった不思議な出来事

 

 いま、ファッション市場が微妙な様子になっています。静か・・・静か・・・静かすぎるほど静かになってしまっているのです。ファッションといえば毎年毎シーズン、いろいろな流行が起こりもっとも華やぐ市場であるはずなのですが、何も起こってない。一体全体どうなっているのでしょうか?

 

初夏から起こった不思議な出来事

 毎年シーズンのスタートには「このシーズンはこんなカラーが流行します」という流行色の予測が報道されます。今年の夏は「ホワイト」が流行色の筆頭に挙げられ、予測通り4月ごろからオールホワイトという切り口で全身を白のコーディネイトで楽しむおしゃれさんが街中を闊歩していました。ファッションビジネスに携わる人達は予測通りの消費者が現れるとホッと胸をなでおろし、商品が売れていくことを確認できるので「しめしめ」となるのですが、今夏はそれも束の間、「ホワイト」の流行はすぐに終わり、次の色に消費者の気持ちは移りました。そのターゲットにされた色は「テラコッタ」と呼ばれる赤茶色です。

 従来だと茶色のカラーは秋からの流行色の定番でしたが、今年は異変が起こり、初夏からの流行色となりました。街中では、テラコッタやカーキ(黄味がかった茶色、軍服の色)の色のブラウスやサマーセーターを着た女性たちを多く見かけたことと思います。

 なぜ夏から秋色が流行したのか?ここが消費傾向のポイントになるところですが、ファッションショップで客動向のポイントになるところですが、ファッションショップで客動向を聞くと「お客様からは、夏から秋色を買っておくと初秋でも着られて経済的だから、の声が多くあがってくる」と言います。生活費を工面している主婦層ではなく、流行に最も敏感な若い女性達までもが、経済的に、を主眼に流行を考えるようになってきているのです。夏から秋色が流行るという現象は今までになかったターニングポイントの始まりのように思えます。

 

合理的トレンドの楽しみ方をする若者急増

 先日、ユニクロ大型店へ買物に行きました。部屋着やら下着やらユニクロ衣料は安くて丈夫で重宝しています。レジには15人程度の列がありました。前列の客の買物カゴをのぞくと、年輩者は私と同様に家着やら下着、人前では見せない衣料品でしたが、若者達は今年流行のワイドパンツやニットやブルゾン等、日常のファッションとして買物をしています。真ん前にいる学生と思しき20代女性は、白のゆったりセーターにガウチョパンツを買って今秋のトレンドファッション出来上がり!!といったショッピングでした。

 2011年秋、ニューヨーク5番街にユニクロ大型店が進出し見に行ったときに一番驚いたのは、マネキン人形で様々な着こなし提案をしたり、ウィンドウディスプレイをしているお洒落なファッションショップとしてのユニクロだったことでしたが、最近の国内大型ユニクロでもニューヨーク同様にファッション提案を様々演出しており、こんな着こなし方か!と思うほどステキな店内演出がなされています。今の27歳以下は平成生まれ。不況・超低金利・増税・企業統合が日常茶飯事の世代ですから、買わないのも当たり前、買っても楽しみ方はコスパ重視が彼らの消費感覚の主流になっています。先日、クリーニング屋が言っていました。「今はワンシーズンの着捨て時代なので、クリーニング量が激減している」そうです。確かにユニクロファッションでは、クリーニング代の方が高くなってしまいますね。

 

厳しさを増すファッション消費

 あるファッションビジネス事業者へのアンケートによると、「7~9月ファッション消費は悪くなった」が58.8%で春から10ポイント悪化しており、秋冬の見通しも63.9%が「厳しい」と回答しているそうです。その要因は「台風や残暑による天候不調」「ビッグトレンド不在」「個人消費意欲減」「インバウンド要因減」と言われています。今はどのファッションビルでもアパレルショップの売上が昨年同様を保っている店は拍手をするほどで、どこも昨年を下回る状況が続き、売上低迷です。売上回復の見通しがつきません。

 従来だと、20代女性を核にしながら、毎シーズンの流行が起こり、ファッション消費が他世代にも拡大されていくのですが、平成生まれの“嫌消費世代”といわれるこの世代が動きを見せないことや前世代にわたってファッションよりレジャーやグルメへの関心が強化されたことにより、限られたおサイフの開き方は違ってきたと実感します。

 「笛吹けど踊らず」といいますが、だんだん笛を吹く人の元気もなくなってきそうです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2016年11月号掲載)