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2023.12.06

日経MJ

ビルにスリット 空間つなぐ-福岡・天神の「大名ガーデンシティ」-

  

 福岡市・天神エリアの大規模再開発「天神ビッグバン」。2015年に始まった事業で先陣を切って6月にグランドオープンしたのが「福岡大名ガーデンシティ」だ。約1万㎡の敷地にオフィスや商業施設、ホテル、・保育などを集積させ、地域性とグローバルな先端機能が一体となった街づくりを目指している。

 
 

緑のうるおい 異種の緩衝帯に

 福岡大名ガーデンシティは「表情豊かな」開発といえる。その1つが、天神エリアで最高峰となる高さ111mの高層ビルの魅力的なデザイン。1棟を中心から左右にずらしを入れ中央に切れ目を施す工夫がなされている。明治通りからガーデンシティを見ると、大型高層ビルにありがちな威圧感はない。まるで女性のタイトスカートのスリットの裾が歩くたびに跳ね上がるような動きを感じさせる。

 

 スリット部分1階のやや暗いゲートを抜けると急に緑の広場が目の前に広がる。芝生の広場は3,000㎡もあり、大都市の中に現れた贅沢空間だ。日中は子連れママたちや周辺で働く人たちの憩いの場となり、皆がのんびりくつろいでいる。夜には若者たちが大の字で寝そべり夜空を見上げる姿がある。

 

 ビル内のカフェではサンドイッチとランタン(貸し出し)のくつろぎセットを提供しており、これが好評だという。また地域の運動会や夏祭りも広場で開催され、住民・来外客・インバウンドの交流が生まれている。最近全国の新設施設にこうした広場がつくられているが、気持ちを和ませる効果の空間力はガーデンシティが上位にくるだろう。

 

 敷地の南側には福岡市内で最古の3階建ての旧大名小学校校舎をスタートアップ支援施設として2017年から活用している。明治初期建築の風情がエリアに安定感を生み、広場を介して高層ビルと絶妙にマッチしている。

  

 この一帯には、かつて旧大名小学校、公民館、高齢者の集会所、消防分団の車庫などがあった。福岡市は天神ビッグバンの代表プロジェクトとして事業者を募った。2018年春に積水ハウスを代表企業とする5社コンソーシアムが選ばれ、市から70年定期借地として開発事業を推進した。

 

 市は「歴史・文化ある地域性をいかす、新ビジネス・新企業を生む、都市ブランドを向上させる」を開発企業に要望。事業者は5ツ星ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」を誘致。創業支援・人材育成施設「GROWTH1」、高機能オフィス棟、商業施設「ビオスクエア」や保育所をつくり、市の要望に応えた。

 

 関係者が多岐にわたる「天神ビッグバン」の今後を担う重要なプロジェクト。さらにコロナ禍の工事期間であったので課題も山積していたと思われるが、積水ハウス福岡マンション事業部の佐古田智哉副事業部長は「複数の異種用途施設のレイアウトが決まると全てがうまく進行。異種の緩衝帯となったのが緑の広場だ」と説明している。

 

 それほどに広場の存在は重要だった。設計では平面だけではなく、小学校舎3階の高さまで4壁面に緑を配したグリーンボックスをつくり、東側には隣接する西鉄グランドホテルの庭に緑がリンクする小さな森と水盤、地元アーティストによる福招きの狛犬を置き、緑・水・空の居心地のいい空間を創造している。

 

 オープン以来、九州各地から羨望の的になっているのは「ザ・リッツ・カールトン福岡」だ。世界から訪れる富裕層への対応やコンベンション・パーティー対応などで国際都市福岡へのステップアップに貢献している。一泊約10万円以上と高価格帯だが、予約が絶えないそうだ。

 

 高層棟1階~2階の商業施設「ビオスクエア」は地元人気店に加え、西日本初出店5店、九州初出店3店など話題性に富んでいる。福岡はグルメタウンで、安くて美味しい屋台文化もある。その中で選ばれた地元人気店は“お墨付き”と評価され、観光客人気となっている。

 

 1階レストランは広場向きにテラス席を多く設置。天神は古くからの繫華街で、屋外空間での食事に街の人々は敏感に反応し、ランチもディナーも老若男女がお洒落をして時間を楽しんでいる。

 

 90年代、大名エリアにはセレクトショップやデザイナーショップの路面店が並び、お洒落な街歩きタウンとして名を馳せたが、その後は飲食店や物販店が乱立。街様子は大きく変わった。最先端の都市デザインに緑と水をうまく取り入れた大名ガーデンシティは街の活性化に向けた起爆剤として期待されている。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2023年(令和5年)12月6日(水)掲載)