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2022.10.03

不動産フォーラム21

“ヒューマンタワー”復活の日

 

●東京タワー いつ行きました? 
 「あなたは東京タワーにのぼったことがありますか?」こんな質問をすると「あると思うがいつだったか覚えていない」「記憶にないけど多分のぼったはず」「う~ん幼稚園に行ってた頃かな」という答えの人たちはたいがい東京圏在住者です。「のぼりましたよ、就職で東京に出てきた時。東京の名所だから」「タワーにのぼってこれからがんばろうと心に誓った」「田舎の両親が上京してきた折、東京案内で」という答えは地方出身者が多く、東京タワーの話題でその人の背景がみえてきます。

 

 1958年から一般公開が始まった東京タワーは2018年に来塔者が1億8,000万人を突破し東京のシンボルと称される観光名所ですが、2012年に東京タワー(333m)をはるかに凌ぐ東京スカイツリー(634m)ができたことで、最近では東京観光の座やタワー人気の座をスカイツリーに奪われてしまい、やや存在が薄くなっている感があります。

 

 先日も地方から若い知人一家が東京観光に来て「とりあえず東京スカイツリーにのぼった」そうです。理由は、一番高い展望台だからと帰りに東京ソラマチで買物ができるからの2点でした。確かに東京観光地ランキングでも東京スカイツリーはNo.1にランクインしていますが東京タワーはよくてNo.3、評価によってはTOP10ギリギリのランキングもあります。

 

 キングコングがのぼったりモスラに破壊される映画の名場面をつくった東京タワー、松任谷由実、THE BOOMに歌われた東京タワー、数々の小説やTVドラマにもなった東京タワー。東京タワーは永久不滅の存在で、富士山と同様に東京タワーを見かけると“あっ、東京タワーだ!”と心の灯がともる人はたくさんいるはずなのですが、どうやらZ世代以降の人たちは露出が多い東京スカイツリーに魅力を感じているようで残念です。

 
 

●意外な来塔者が増加中
 先日、久々に東京タワーに足を延ばしてみました。すると意外にも50代、60代、70代の熟年カップルがのんびりとタワーデートを楽しんでいます。様子をうかがうとほとんどのカップルが近郊からフラッと出かけてきた様子の都心居住者で、ちょっと公園散歩にといった雰囲気で来塔しています。若い頃、このカップルの初デート場所やプロポーズ場所などというロマンチックなドラマが東京タワーで展開されていたのではないでしょうか。二人で超高層ビルが林立する景観を眺めつつ若い頃を懐かしんでいる姿がありました。東京タワーが“思い出スポット”としてリピーターを呼んでいたのです。

 

 もう一つ、面白い来塔者としてご近所の居住者が挙げられます。この数年、都心居住に注目が集まりタワーマンション人気が続いていますが、東京23区の10年間の人口伸び率は中央区(147.9%)、千代田区(139.9%)に次いで東京タワーのある港区が129.2%と3位になり、子供人口比率も港区10.2%(23区中2位)と高く、所得水準は23区中No.1(1,217万円/一世帯)という注目すべき街の変化が見られます。オフィス街である港区が近年ではリッチな子育てファミリーの流入による居住エリアにもなり、23区の中でも指折りの若い街へと新陳代謝が図られているのです。

 

 しかし、まだまだ都市機能整備が遅れているため、東京タワーというステージが近隣居住者の公園的な遊び場やファミリーの食事の場として使われていて、バギーに乳幼児を乗せた若ママやキッズとパパのお散歩姿をたくさん見かけたのは意外なシーンでした。

 
 

 一度きりの国内外の観光客で混雑する名所も経済活性化としてそれなりに魅力的ですが、時間経過の中でリピーターが生まれるスポットやご近所居住者が公園的にデイリーユースで来街する名所も今の時代には価値ある存在だと思います。

 

 9月1日、神奈川県民にはなじみの深い横浜マリンタワー(106m)も約2年の時間をかけてリニューアルオープンしました。東京タワー、横浜マリンタワーともに超高層の波には乗っていない塔ですが、逆にヒューマンスケールのゆとり風情が新たなタワーのチャームポイントとして人々に認められるのではないかと思います。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2022年10月号掲載)