不動産フォーラム21
トレーニングをサロンでどうぞ!!
昨年初め頃、都心を走る電車のドア付近に“2か月で15kg痩せる、痩せなかった場合は料金全員返金”という趣旨の広告が掲示され、痩せた男女が驚くほどの体型になっていて人目を引きました。そのR社の広告が瞬く間に電車の中吊り、主要駅のホームの巨大ポスター、テレビCMへと拡大され痩身に関心のない人たちにまでインパクトを与えています。掲載モデルの変身ぶりがすごいのです。古典的な中年体型になったもっさり男性がまるでエグザイルのダンサーのような筋肉質のさわやか男性に。下腹がポッコリでて三角形体型になった30代女性がビーチバレーの人気選手のようなスリムボディに。体型も変化しますが顔つきも大きく変わり、魅力的な大人になっているのです。
常にダイエット広告はあらゆる分野で展開されてきましたが、このR社の広告展開はピカイチ!多くの人々の目に、こんなに人は変身できるものなんだというリアルでカッコイイ人物イメージを剛速球で投げ込んだ感がありました。さらにリアルなポイントは高齢化社会に経済的にも余裕のあるミドルエイジに焦点を当てた展開だったことで、風呂場でぜい肉をつまんで「むかしは細かったのになー」とタメ息をついている中年層のツボを押したのではないかと思います。実際に全国32か所で店舗を構えるR社の事務はマンツーマンの高額プログラムでも有名になりました。
近頃、スポーツジム事情に変化が起こっています。ひと昔前の大型スポーツジムに対し、R社のような高額料金のパーソナルジムが増加しています。これは都心や郊外の駅に近いマンションの一室で、数名のトレーナーが予約制により1時間単位で客のニーズに合わせたトレーニングを指導するというサロン的ジム。部屋には数台のトレーニングマシーンや器具があるだけで、完全な個室の場合や2~3名程度の利用に制限したサロンが主なのでプライベート環境が保たれています。料金は都内で1時間8,000円~1万円が主流で、余裕のある中高年がターゲットです。体幹を鍛えたい、メリハリのある身体を作りたい、痩せたい、という個人ニーズに対応してトレーナーがパーソナルメニューを組んで指導するので、大型スポーツジムで体験する混雑、指導者不在、自力モチベーション開発といった環境とは大きく異なります。
このパーソナルジムの増加はスポーツトレーナーの意識変化も起こり、従来はトレーナーになっても大手スポーツジムに所属して活動する仕事が、自らジムを経するという企業家が増え、新たなトレーナーのビジネス世界を広げているようです。
実は、私の知人である30代のスポーツトレーナーが昨年秋にパーソナルジムを開業しました。駅そばの洒落たマンションを借り、後輩トレーナー3名を仲間としてサロンを作り1ヶ月が過ぎました。そのジムがあるの町は山手線でも住宅地の広がる場所なので、順調に顧客がついてよいスタートを切ったようです。主力は40代50代の男性ビジネスマンや自営業、女性は30代40代のシングルズ。痩身7割に筋肉トレーニング3割で女性客が過半だそうです。
お客様の効果のほどを聞くと、「一般スポーツジムの数倍のコストをかけて筋トレやダイエットに取り組むわけですから本気の人たちばかりですよ」「ほとんどの人が大型スポーツジム経験者なので比較の中でこのサロン型のパーソナルジムの良さをわかってくれます」との話でした。さらに、「R社の広告展開は、そんなジムがあるんだ!と大型ジムしか知らなかった一般の人々のスポーツジムに対する認識を変えるきっかけになった。スポーツトレーナーという職業も、高齢化社会でアンチエイジングニーズが高まる中、これから起業を含めいろいろな可能性が開けた」という意見も聞かれました。R社のインパクトは痩せたい人だけではなくトレーナーの職業観も変えたようです。
そういえば、私の友人が新たに購入したマンションには住民が共有して使えるトレーニングルームがあり、フリーのトレーナーを呼んでそのルームでストレッチやマッサージを受けている人がいるそうです。
健康ビジネスも面白い時代になってきました。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2015年3月号掲載)