販売士
ストレスフリーのショッピングとは?
「ストレスフリーのショップです。買わなきゃいけない、売らなきゃいけないの気分は買物でストレスが溜まりますが当店はそんな気持ちゼロの店。」
最近、衝撃を受けた店舗での一言。言われてみると、接客時にお客として買わない事への“スミマセン感“や販売員として購入促進への“オススメ感“が微妙な空気を醸し出すあの苦手な一瞬を何度も経験していますが、あれは確かにストレスがたまります。
●「売らない店」の自由な空気
ストレスフリーの言葉を聞いたのは10月上旬に開業した大丸東京店4階の「明日見世(ASUMISE)」という新店を訪れた時のことです。この店は19のD2Cブランドのショールーミングに特化した場で商品を見ることはできても買うことはできないという特長ある店舗です。
商品はサンプルばかり。ブランド名と商品紹介のポップやカタログが置かれ自由に手に取れる陳列になっています。自然由来の化粧品など珍しい物が多く、商品をチェックしていると「そのオイルは、米糖とひまわりの種が成分なんです」と話しかけてくる男性がスタッフがいました。「自由に試せますから」と中央の大テーブルに案内され、オイルや美容液やスクラブなど丁重に商品のお試しをアンバサダー(広報活動者)と呼ばれるこの男性スタッフが勧めてくれた間の会話が前述のストレスフリー発言です。
売らない店だからいろいろなブランドを試して遊んでもらいたいという店方針だけではなく、アンバサダー自らがブランドの開発者やオーナーにインタビューし、工場や本店に出向いてブランドのリアル情報を持っているので話が面白く会話が弾みます。久しぶりに買物で会話を楽しめた満足感があるひと時でした。帰りがけにアンバサダーから試供したブランドと商品名が明記されているカードが渡され、購入希望があればQRコード経由で出店ブランドのECサイトから購入できると知らされました。
この店での体験は買わなくてもよい、売らなくてもよいが気持ちを楽にしてくれるものだと実感しましたが、逆に買わなくては、売らなくてはの日常の買物がかなり不自由でストレスがたまることなのかを再確認させられました。
●ストレスフリーで変わる売り方
買物のストレスフリーで気になる事例がいくつかあります。知人の優秀なカーセールスマンが「もう俺たちはいらない人材になってしまった」と嘆いています。
理由を聞くと近年は若年層が車保有からカーシェアリングへと移行しているだけでなく、購入時にネットでの情報検索を重視する傾向にあり、ショールームへの来店回数が以前の5回から今は1.5回へと激減しセールスマンとの関わりを避ける傾向にあるそうです。一昔前までは一度出会ったセールスマンが購入後もメンテナンスなどで関係を保ち2台目、3台目の買換え促進につなげる車セールスが一般的でしたので、知人のセールスマンが前途を悲観するのは無理もありません。
若年層はなぜセールスマンを避けるのか?それは「しつこくされる、買わされる」の強迫観念を持っている事が要因で、ネット情報やレンタカー利用の試乗、カー専門店によるメンテナンスなどで若年層ではストレスフリーなカーライフが主流になってきているのだそうです。「カーセールスマンは近い将来消える職業の筆頭かも」と知人は悲観していました。
もう一つの話はネットショッピングです。私はスニーカーをよくECで購入しますがサイズや色のミスマッチで交換希望を申し出ると送料が客負担で面倒な手続きを強要される場合が多々あります。
ある時など電話でサイズ交換希望を申し出ると「今回だけお受けします」とオペレーターに言われました。初EC購入のブランドだったので嫌な気分になったものです。しかしナイキは違います。注文品の箱の中に返品カードが同封され交換も返品もスムーズであり、送料がメーカー負担なのにはビックリで顧客満足対応抜群です。
先日、新聞にスニーカーについてのアンケート調査が載っていましたが、男女ともに所有ブランドNo.1はナイキでした。フィット感や歩きやすさなどが重視されるスニーカーのEC購入はまだ全体の2割程度ですがネットだからこそ交換・返品の自由度が高い事やスムーズ対応が次への購入促進になるはずです。返品や交換のやりにくさが原因でEC購入をやめたり、買って後悔しないために購入金額が低くなる傾向はよく耳にしますが、ナイキ的なストレスフリーなECショッピングはECの可能性を広げ信頼度が上がるやり方ではないでしょうか。
このごろの店舗づくりでテーマになるのは“入りやすくて出やすい店づくり“という考え方です。
お客様がブラリと立ち寄り(入店)やすいように間口をオープンに構え、店内をご覧(回遊)いただきやすくゾーニングし商品を手に取りやすく陳列し、出て行く時もお客様が自然に店を後にできるような空間づくりの事で、簡単に言えば今の時代のお客様にとって自由度の高い店舗という事になります。あわせて店のスタッフによる楽しい会話が加わると理想的な今どき店舗になるのではないでしょうか。買わなきゃ、売らなきゃというお互いの圧がかかること無く自然な交流と時間が流れ良い印象が残ると再来店、再購入に結び付くはずです。
Withコロナ時代にリアルでもネットでも嫌味のない接客と自由度のある店のあり方を「ストレスフリーな店」をテーマに再考してみてはいかがでしょうか。
(記:島村 美由紀/販売士 第43号(令和3年12月10日発行)女性視点の店づくり㉘掲載掲載)