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2025.10.29

スケボーやダンス挑戦の場-「代々木公園 BE STAGE」-

  

 東京都で初となる民間資金で公園の整備を進める「Park-PFI」事業の「代々木公園 BE STAGE」(敷地面積約4,200㎡)が、3月から順次開業している。東急不動産と東急、石勝エクステリア(東京・世田谷)、東急コミュニティーの4社からなるコンソーシアムが計画・運営しており、代々木公園の一角に、新たな街の賑わいスポットが誕生した。

 
 

芝の広場、建物にも緑豊か

 JR原宿駅から西側の神宮橋を渡ると、国立代々木競技場のある代々木公園と神宮の森が広がる。都心の喧騒とは別世界のゾーンに入り、山手線沿いに進むと緑あふれる3階建てのBE STAGEが見えてくる。代々木公園エリアのダイナミックな空間に、その小さな建物は逆に目立ち、往来する人々が足を止めて写真を撮影するほどだ。

 

 ナチュラルなデザインの建物は曲線と東京・多摩産の木材のルーバーが生かされ、各階にあるデッキは人々の目線が無意識に広場へ向くよう設計されている。軽いデザインの階段も、人が上り下りする姿が絵になるような自然な存在感が好ましい。そして、青々しく美しい天然芝の広場がBE STAGEのシンボルになっている。

 

 BE STAGEは「はじめる人になろう」を標語に、「新しい挑戦をはじめることができる場」づくりをしたという。公園のコンセプト「挑戦」とういうワードを使っていることに違和感を覚えたが、東急不動産の渋谷運営事業部運営企画グループの横山大輔課長は「渋谷は今やパリやニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際都市だ。IT・デザイン・ファッションのスタートアップタウンとして選ばれる街に成長した」と話す。仕事を始める、起業する、イベントを起こすなど、渋谷に対するニーズは幅広い。そういったニーズを日常的に把握する東急グループは「公園でも新しい一歩を踏み出す場、思い切ってやってみる場としてBE STAGEを構成した」(横山氏)。

 

 公園内には350㎡のアーバンスポーツパークがある。初級者から上級者までのスケートボードのコースが設置され、無料で開放している。にぎわい広場では毎週のようにイベントが開かれ、ブレイキンやダブルダッチなどのアーバンスポーツの大会や、プロによる演技・指導が実施されている。午後7時半に始める「ムーンライトヨガ」は芝生で夜空を眺める人気ワークショップで、毎回20~30人が集まる。

  

 施設内には大人だけではなく、幼稚園の年少~中学生などを対象にした体操や空手、チアダンス、スケートボード、パルクールといったスポーツスクールのほか、ランニングステーションも入っている。代々木の緑を楽しむ公園を基盤とし、新たな挑戦をするステージとしてのコンテンツが豊富な施設であることがBE STAGEの特徴だ。

 

 実は渋谷と原宿は1.5kmの徒歩圏だが、それぞれ個性的な街なので、一体で楽しもうとする人は少ない。BE STAGEは2つの街の中間地点にあり、かつ代々木公園の大きな緑を背負う立地にあることで、都市と自然をつなぐ存在になっている。

 

 「オープン以来、インバウンドがBE STAGEを見つけてくれるようになり、人が人を呼んでいる」。東急不動産コーポレートコミュニケーション部広報室の大鳥居都姫主査はこう話す。原宿から明治神宮を参拝し、歩いてファイヤー通りから渋谷へ向かう途中でBE STAGEを見つけ、立ち寄るインバウンドがとても多いそうだ。彼らには原宿と渋谷を一体として街歩きできる東京観光の楽しみ方の1つとしている。

 

 この街歩の流れは徐々に日本の若者へも広まっている。アーバンスポーツのイベント開催時には通りがかりの人たちも参加し、人が人を呼び人垣が膨らんでいく。

 

 渋谷区は2024年5月に、ハワイ・ホノルル市と姉妹都市になった。姉妹都市提携により、人やモノ、文化が交流する関係づくりを目指している。その流れを受けて、BE STAGEの1階には約140席のハワイアンレストランがある。広場に面したテラス席が併設され、気持ちがいい。この店は約半数の席が犬を同伴できる「ドッグフレンドリー」で、犬用メニューも用意されている。

 

 渋谷は駅を離れると気の利いたカフェや食事の場がなくなる。近年は高級タワーマンションが増えて住民の飲食ニーズも高まってる。このレストランはペット連れ客の憩いの場として、春の開業以来賑わいをみせる。

 

 21年の東京五輪以来、スケートボードでは日本人選手のメダル獲得が相次ぐ。優秀な若いプレーヤーが世界で活躍する環境にある今、BE STAGEで挑戦を始めた子供たちが数年後のメダリストになる可能性もある。公園の新しいあり方としてさらに注目が高まりそうだ。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2025年(令和7年)10月29日(水)掲載)