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2021.06.29

繊研新聞

コロナ禍、郊外SCの明暗クッキリ-お出掛け先として選ばれるSCの要因とは-

  
 長引くコロナ禍で商業施設は苦戦を強いられている。特に都心商業施設は大幅な売り上げ減少を余儀なくされているが、郊外商業施設には人出があり意外に堅調な売り上げをあげている。しかし、郊外施設の中でも集客力により売り上げ好調館と減少館が生まれ明暗が分かれる状況が生じている。

 

 郊外SCを観察すると平日でも驚くほど集客があるSCが複数ある。来館者はマスク姿でゆったりと回遊をしている。その様子が巣ごもり生活に飽き、息抜きの散歩感覚でなじみのSCへ出掛けてきたと察せられる。乳幼児連れのママ、母娘、熟年夫婦、ミセスグループ、ママ友グループ、老年男性や女性の単独者、若年カップルなど様々だが、のんびりしたひと時を過ごしている様子は一様に同じだ。

 

 かたや、同じ郊外でも来館者は多くなく活気に欠けるSCがある。客は足早に目的店で買い物を済ませ出口に向かう。このタイプのSCでは往々にして空き区画が目立つ。

 

 両方のSCに出店するテナントの話では、前述SCは19年比で売り上げ減少幅が小さく毎月堅調な推移だが、後述SCでは売り上げ減少幅が大きく低迷状況が続いているという。明らかに来店客数の差が売り上げの差を生んでいる。

 

 

引きつける魅力とは

 巣ごもりに飽きた人々が“ご近所の気分転換の出掛け先”として選ぶSCポイントは何か、観察の中で要因が見えてきた。

 

 分かりやすい要因は“リラックス環境”だ。それも公園的環境に人々は惹かれ屋外広場でくつろぐ来館者が多くいる。緑・光・風を体感できる快適な広場に集まり子供を遊ばせ語らう姿がある。広場があってもヒューマンスケールな規模や演出がない場に人影はない。

 

 屋内では明るいお休みどころに人が集まる。ポイントはソファなどの配置だけではなく往来する人の目線から外れ空間に姿が溶け込めるような“居心地良いお休みどころ”だ。

 

 またカフェの存在も大きい。コロナ禍で書斎代り・勉強部屋代り・リビング代りのニーズを受け止め“サードプレイス”としての人気が高まっている。気の利いたカフェを複数店誘致しているSCは強い。公園的広場・居心地良いお休みどころ・カフェ、どれもSCがコロナ禍で人々に提供するリラックス環境である。

 

 次の要因は「食のバラエティー」だ。巣ごもり生活で万人共通の関心が食へ向かった。プチぜいたくな食・珍しい食・こだわりの食など平常時の外出費が抑えられた分をグルメ消費にあてる傾向となった。

 

 大方の郊外型SCには生鮮三品が揃う食品スーパーが出店しているが、これにグルメ専門店集積があるSCに集客の強さが見られる。グロサリー、デリカデッセン、パン、和洋スイーツ、酒類、チョコレート、日本茶・紅茶・コーヒー豆、地産食材、スナック菓子、製菓・製パン材料など。2000年代にSCへの食の専門店出店が加速し今ではデパ地下とは一線を画す“手頃で面白みのある食のバラエティーMD”として人々のお楽しみ領域となった。

 

 このバラエティー領域は老若男女、全ての客の心を捉え目的がなくてものぞき見気分をおこさせ「おいしそう」「珍しい」「試してみよう」という衝動買い、ついで買いを誘発する。この強みがコロナ禍で大いに効果を発揮し人がSCに出掛けるきっかけになっている。

 

 シニア男性がワインショップで店員と談笑していたり、若いカップルがグロサリー店を珍しそうにのぞいたり、食品スーパーだけでは拾い切れない“食の娯楽性”を専門店がキャッチアップする場面を多く確認できる。また、このバラエティー感は館の雰囲気づくりにも役立ち「色々な店がたくさんあって楽しそう」という視覚的期待感も生み出している。

 

 

重要な「館の感度」

 最後に重要な要因として「館の感度」をあげる。自粛生活で人々が身近にあるなじみのSCに出掛ける時、必需品の購入であれば近さ・ワンストップショッピングなどの利便性を重視するが、気分転換としての選択では巣ごもり日常の気分から晴れやかさや華やかさのハレ気分を満たす場の選択となる。

 

 そこでポイントとなるのは“SCの感度感”だ。ファッション・雑貨・飲食などのテナントの程よいトレンド性や新鮮さ、館全体のデザイン性、日頃の情報発信(広告やイベント・販促)のクオリティーが複合して好感度イメージのブランディングが成立しているかだ。特に「館の感度」は女性や若年層への重要な決め手になってくる。

 

 郊外SCは生活必需品を無駄なく揃える館もあれば大規模で全てが網羅されたSCもあり個々の強みで活性化を図っている。またECの台頭もリアル館には脅威だ。コロナ禍の今、「リラックス環境」「食のバラエティー」「館の感度」この3つの要因を持つSCが人々を引きつけ足を運ばせると分析できるが、これらのSCは平常時から生活者に評価され、コロナというトリガーによって館の潜在的な魅力が顕在化されたのだと言えるのではないか。

 

 

 ポストコロナの郊外SCのスタンダードを考える時“人々がSCに求める何か”の断片が見えてきた。

 

 

(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2021年(令和3年)6月29日(火)掲載)