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2023.02.01

不動産フォーラム21

コロナ共生時代に エネルギッシュなバンコク商業

 

●コロナ前の元気が復活する街 
 コロナ前の数年間、バンコク商業に注目していました。ニューヨークでもパリでもロンドンでもなくバンコク商業が際立っていたのです。

 

 専門家によると「東京や上海・NY・パリでは時間をかけ様々な時代のファッション・食・生活が商業で提案された。タイは2000年からの急激な経済発展と大手デベロッパーによる商業開発で欧米の最先端商業を積極的に取り入れることにより他都市を数段階飛び越えた業態やデザインが短時間で導入され、商業が形成された」そうですが、人々の消費意欲も高くその進度は目を見張るものがありました。

 

 世界経済を疲弊させたコロナから約3年が経過する今冬、久しぶりにバンコクを訪れると、東京の怖々とした商業とは違いコロナ前にタイムスリップしたような元気で熱気のある商業が展開されました。

 

 バンコクの中でも最も人を集めているのが2018年11月にオープンした「アイコンサイアム」で、8万㎡の敷地に2棟のショッピングモール・シアター・博物館・コンドミニアム(70階2棟)からなる延床75㎡、約1,700億円が投資された超大型ランドマークエリアです。

 

 商業施設オープン時は大変な賑わいで、タイ人50%、海外観光客50%という人出でした。当時はチャオプラヤ川西岸の不便な地域(東岸は王宮や寺院・ショッピングゾーンのある中心地)だったため、BTS(高架鉄道)最寄り駅より20分もかかる立地が問題でしたが、2021年にはバンコク初のモノレールが開通して新駅直結で便利になりました。東岸からアイコンサイアムまで無料のシャトルバスもあり人気です。

 

 タイは海外旅行客4,000万人という観光立国ですがコロナにより激減。2022年にようやく1,000万人弱に回復しつつあります。とはいえまだ4分の1の観光客。アイコンサイアムの復活する賑わいはどこから生まれているのかを観察すると、都心や郊外からのコハレお出かけ気分のリピーター集客と国内旅行客が主力になっており、ちょうどニューイヤーシーズンのイルミネーションも目玉になり大賑わいでした。

 

 特にラグジュアリーショップが集まる華やかなハイエンドゾーン、リバーサイドビューに優れたカフェやレストラン(平日昼間でも空席なし)、バンコクの水上市場をテーマにした物販街「スークサイアム」(コロナ前より照明が明るくなり食より物売りテナント増で市場感が薄らいだのは残念)は人気で開業以来4年間でバンコクNo.1ホットスポットとして成長していました。

 
 

●インフラによる都市拡大
 タイ人口(6,610万人)のうち約20%がバンコク都とバンコク郊外となる周辺都市に暮らし都市化が加速しています。タイ政府は都市開発推進に注力し鉄道やBTS・モノレール等のインフラ整備計画を着実に実現しています。バンコク新交通網を地図で確認すると郊外への延伸、空港と都心直結、環状線整備等の交通網拡張という拡大計画が理解でき経済発展の都市化がイメージできます。

 

 前述したようにバンコク市内の活気はコロナ前に復活している様子ですが、商業で変化があったのは郊外にライフスタイルモールやアウトレットモールが複数開業していたことです。それもそのエリアの住民をマーケティングして上質モールから誰でもが利用しやすいカジュアルモールまで幅広くつくられていました。

 

 また大手2大デベロッパーであるサイアムVSセントラルがそれぞれに空港近くでアウトレットモールを開業しパワーゲームを繰り広げています。以前、買い物は都心が主力だった商業も今は居住エリアにしゃれたモールがありEC、(EC比率8%、約9,800億円)も活用できる時代。バンコクの商業進展のハイスピードぶりに驚かされます。

 

 ネットにより世界の情報は一元化され、他都市にモデルを求めるのではなくそこに暮らす人々の足元や目の先に次に見えてくるモノやコトや体験を面白く提供する商業が大切なのだという事を3年ぶりのバンコク商業で勉強しました。が、とても残念なのは2020年8月に伊勢丹バンコク店閉店、2021年1月に東急百貨店が閉店しました。

 

 もはや日本のライフスタイルはモデルにされない時代が来たのです。日系百貨店としてサイアムパラゴンの核テナントである高島屋が唯一ですがなぜかそこだけはお客様の姿が少ないさみしい雰囲気になっていました。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年2月号掲載)