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2019.10.16

日経MJ

カー用品店にくつろぎ空間-オートバックス新型店、女性客2倍に-

 

 若者の車離れで苦境に立つカー用品市場。オートバックスセブンは20年ほど前に大型店のモデルとして誕生させた「東雲店」を昨秋、全面リニューアルした。ライフスタイル提案を全面に押し出した新型店は女性客が2倍に増え、新たな客層を開拓している。

 

モノトーン調でクールなピット

 平日の朝9時。開店したばかりのカー用品店「A PITオートバックス東雲」(東京・江東)には、2階中央のカフェで雑誌を読む女性の姿があった。ノートパソコンを広げる若者、新聞を手にしたシニアの夫婦もいる。すぐに数名の客が加わり、店内は朝の活気に包まれた。

 

 A PITのコンセプトは「クルマもヒトもピットイン」。人にも一休みできる居心地の良い場を提供しようとカフェを導入した。そこから放射線状に「カルチャーとクルマ」「旅とクルマ」「スポーツとクルマ」「自然とクルマ」「家族とクルマ」「安心とクルマ」「キレイとクルマ」「ガレージとクルマ」という8ゾーンがある。テーブル席から手の届く位置に書棚、その外周にはカー用品がテーマとリンクしてそろう。

  

 散歩がてらコーヒーを飲みに来る。本に目が行きパラパラめくる。クルマで旅に出ようと会話が弾む。そこで関連するカー用品の購入につながるという連鎖をイメージして店をつくった。「ドライブやグルメの雑誌が売れ筋。カフェ客が車検を利用してくれたケースもある」と山添龍太郎執行役員は語る。

 

 1階のメンテナンスピットはモノトーンを強調にしたクールな空間で、38台を収容できる。3階にはオートバックスが得意とするスペシャリティーショップがある。車にこだわる客のチューニングやドレスアップに対応する専門スタッフが控える。

 
 

鮮やかオレンジ 売り場に気軽さ

 デザイン事務所のトネリコ(東京・渋谷)が店舗デザインを担当した。店内の2、3階は白・グレー・黒のモノトーンを基調にしつつ、オートバックスのコーポレートカラーである鮮やかなカルフォルニアオレンジを多用した。このオレンジが空間をカジュアルに変える。女性でもふらりと立ち寄れる雰囲気に一役買っているのだ。

 

 ブック&カフェゾーンとカー用品ゾーンの間には天井の高さを生かして細いやぐらが組まれ、柔らかな境界線をつくっている。カー用品購入を目的とした来店客はやぐらの外周を回れば買物が完結する。ぶらり客はやぐらを行ったり来たりすることでカフェ、本、カー用品の連鎖を楽しめる。

 

 カフェでくつろいでいると、やぐらの上部に取り付けられた白光のネオンサインが目にとまる。8テーマを表示したサインだが、ネオン管で車と街との風景が描かれていて楽しい。階段室やトイレの入り口にはグレーの壁に雲の絵があり、デザイナーの遊び心が感じられる。

 

 オートバックはカー用品専門店として高い集客力を誇っていた。ところが2000年代に入って車がコモディティー化。カーナビなどの販売減もあり、11年以降、客数・売上高ともに下降線をたどる。
 そこでA PITはファミリー層をターゲットに設定。クルマのある暮らしを提案するライフスタイル型店舗をつくった。来店の動機付けとなるカフェだけでなく、周辺で不足していた洗車場を設置した。店内にはキッズコーナーも設けた。乗り物の絵本やおもちゃが充実していて「未来の顧客づくりにつなげたい」と川添氏はほほ笑む。3階には「こだわり派予備軍」のためのドライブシュミレーターを導入。次世代の新客づくりも意識している。オープンから1年がたち来店客は日増しに増加。何より女性客が改装前の2倍となった。

 

 レジャーやスポーツなどを家族・仲間で楽しむ「トキ消費」に価値を見いだす時代。A PITは「クルマのある暮らし」を提案し、カー用品店に伸びしろがあることを示した。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2019年(令和元年)10月16日(水)掲載)