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2017.08.01

不動産フォーラム21

カラオケからインテリアへ ― ニーズが街を変える時 ―

 

 ちかごろ気付くとインテリア(家具)小売大手の「ニトリ」を街中で見かける場面が増えてきたように感じていたら、つい6月30日には我が社のすぐご近所に「ニトリ渋谷公園通り店」が大規模にオープンし街のホットスポットになっています。

 

潜在化されていた消費者ニーズ

 さっそく開業直後のニトリ渋谷公園通り店に行ってみると平日の午前中にもかかわらずお買物客が来館されています。目立つのが恵比寿や松濤あたりにお住まいらしきご年配の上品なご婦人層。単独来館なので冷やかしではなく買物目的の来館と推察できます。またリタイア後の熟年層の男性客も来館されていました。
 このニトリ店は9フロアに及ぶ多層店舗で売場面積は1,500坪あり、低層階1F~5Fはインテリア小物や生活雑貨、キッチン雑貨、カーテンや寝具までを扱う生活用品ゾーンになっています。
 私も経験者の一人なのですが都心に暮らしているとこまごました生活用品の買い場がないのです。トイレの便座カバー、お盆、料理道具のおたま、洗濯かご……etc.身近に売っていて当然の生活用品の買い場がなく、百均ショップ商品で我慢するか、百貨店で高額商品を無理をして買っているのが今まででした。時々、便座カバー買い出しのためにわざわざ郊外の量販店に出かけたこともあるほどです。
 まさにこんな都心住居の生活用品難民にはニトリのオープンがありがたく、ご近所の方々がさっそくお買物に来店されたのだろうと思います。
 人出不足が問題になっている小売業界ですが、このニトリ新店では生活用品を扱うフロアに好感度な女性スタッフが多く配置され親切な接客をしてくれています。また今までの「ニトリ」のチープなイメージは一新され、店内のインテリアも商品陳列もなかなかお洒落で都会的。渋谷区居住者にとっては潜在ニーズがあった分野だけに便利な存在になってくれるのではないでしょうか。

 

わかっていたけれど実現できなかったワケ?

 業界の立場でニトリの渋谷進出をお話しすると、十数年前より都心部でもインテリアや生活雑貨の消費者ニーズがあることはわかっており、関係者の間では課題になっていました。しかし、インテリア(家具)は場所をとる、生活用品は低単価ということで店舗を貸す大家さんとしては賃料が安すぎて稼げる店子ではなかったが故に敬遠されてきた業種業態でした。併せてニトリのように家具を自主製造できる企業も少なかったため、出店側も仕入れ商品の展開ではとても高い都心の賃料を支払うことはできなかったわけです。
 しかし、時代は変化しました。消費者の関心はファッションから身体を健康にし、スポーツやレジャーを楽しむ志向になってきたこと。外向きに着飾る自分より自分や家族のための住まいを快適にする志向が生まれたこと。その人々の変化を上手にキャッチアップし企画から生産、販売まで自社で一気通貫する企業がアパレル以外の分野でも活躍してきたことが挙げられます。人々のライフスタイルの変化が街中の店舗のあり方を変えているわけです。
 情報によると、「ニトリ」は国内で443店舗ありすでに47都道府県全てに進出を果たしているそうですが、都心は広域集客が図れ高効率の売上が取りやすく、配送は郊外の物流センターからのシステムをつくれば都心店舗は今後とも増える可能性が大きいとの話です。
 実は「ニトリ渋谷公園通り店」のビルはカラオケ大手のシダックスが2004年に大型カラオケ店を展開してきたところで、カラオケブームが去り業績不振からニトリにビルを賃貸したのが今回の店ですが、もともとは丸井が1991年に「マルイ インザルーム渋谷」というインテリア店として誕生させたビルであり、私も20年前に「インザルーム」でお洒落なイタリア製のイスやベットを購入して現在も使っています。丸井さんの仕掛けは20年早すぎたということかもしれないなあ、と「ニトリ」で卓上扇風機(2,300円)を買い帰路につきました。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2017年8月号掲載)