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2018.07.02

不動産フォーラム21

オーガニックが定番になる日

 

オシャレなオーガニックスーパー

 都内でも好感度エリアとといわれる中目黒と代官山の中間に「ビオセボン」というオーガニックスーパー(有機食品専門店)が4月にオープンしました。いつも車で通る道沿いなので興味を持ち入店しました。店はグリーンを基調にしたオーガニックらしいインテリア。野菜が木箱に詰められ、アメリカのスーパーのようにナッツやドライフルーツの量り売りもやっています。輸入品のお菓子やシャンプーや化粧品も揃いお弁当や惣菜もありました。お洒落でナチュラルな雰囲気が漂う店なのですが、ともかく値段が高すぎて驚きました。ニンジンは1本88円、大葉1袋198円、サラダパック800円では手が出せません。普通のスーパーの1.5倍~2倍の値段がします。私の“オーガニック”という清く美しいあこがれ食品への夢は、値段を見てスッ飛んでいきました。
 この「ビオセボン」はイオンが有機食品・日用品専門店の多店舗展開を図る第2号店目で、フランス企業との合弁で会社を設立し、今後複数店を展開予定だそうです。1号店は麻布十番だそうですから、それなりの意識の高いリッチ層に向けた展開なのでしょう。

 

老舗が語る切実オーガニックニーズ

 オシャレなオーガニックは庶民に縁遠いなあと思いつつ帰路を急いでいると、ある老舗を思い出しました。数年前に関わった商業施設づくりで、自然食材専門店の老舗A店に出店してもらう交渉にあたりました。A店は「ビオセボン」とは大きな差のある平凡食品店です。店名も○○屋という和名で店内もベタな感じ。私は自然食品に関心がありませんが食品売場にバリエーションを持たせようと考えお誘いしたのです。その時A店の副社長は、この町の駅の乗降客数を質問され、「それであれば年間2.5億円~3億円のマーケットで、すでに駅の逆側に○○屋さんが出ているから、当店が出店すれば月に1,000万円強、年間1.5億円の売上規模だろう」と話され即座に出店が決定しました。この時、自然食品という特殊領域でなぜすぐに予測ができるのか不思議に思ったのですが、副社長は「食は命にかかわる人がいるんだよ」と謎のひとことを言われました。A店が開店すると、副社長の予言通り毎月売上が変動なく1,000万円です。そしてお客様はお年寄りや若いママや外国人が主で、正直に言って地味な感じでした。店長と話をすると、「自然食品を買うお客様は、病気や健康障害やアレルギーを持っている人が主流で、一般の食品を食べられず自然食品を必要としている人々。中には命にかかわるほど深刻な人もいます。売る側も十分な知識が要求されますし、産地開拓も重要です」と聞かされました。この時、私は初めて切実なオーガニックに対する消費者のニーズを知ることができました。

 

いつの日かオーガニックが定番に

 電通が今年の1月に行ったオーガニックに関する調査によると、健康や食の安全を重視してオーガニック食品を購入している人が主ですが、購入金額が高い層ほど環境保全や生産者支援という自分だけの利ではない他者の利にも配慮する視点を持っています。逆に金額が低い層ほど美容のため、ダイエットのためという自分目線だけなのは興味深い調査結果でした。さらに購入先は、スーパーや自然食品店が主ですが、ECや通販で定期購入というのが高額購入層に多いのも特徴です。
 アメリカのオーガニック食品市場規模は4.7兆円で前年比11%増加だそうです。日本ではまだ1,500億円ほどといわれていますので、成長の余地は大きいと思いますが、値段がリーズナブルになり、取扱店舗も増えることによって消費者の購入金額も頻度も上がってくることになるのでしょう。また、合わせて、手間暇かかる有機農業を基とするオーガニック食品の生産者体制も整備されないと、買いやすい価格の実現にはつながりません。
 人生100年時代に入り、より健康に生きることが人々の大テーマとなる時だからこそ、オーガニック食品が単なるトレンドではなく、私たちの食の定番なる日が待ち遠しいと思う「ビオセボン」見学でした。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2018年7月号掲載)