不動産フォーラム21
オンラインとオフラインをまたいで、エンタテインメントショッピングを!!
●空き区画もやむを得ずの商業施設
長引くコロナ禍で外出自粛が続き都心部の百貨店や商業施設は大幅な売上減少となりました。明るい兆しが見え始めた春頃には6~7割の売上回復になった館が多くありましたが、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言となった5月以降は再び売上が落ち込み、3割程度の実績しか取れていない館もあり厳しい状況が続いています。
この状況下では施設に出店するテナントも苦境を強いられ、館に入館者が少なく時短や休館でテナントも崖っぷちに立たされています。あるディベロッパーの幹部は、「テナントからアポがはいると賃料減免か退店の話かとヒヤヒヤする」と言っていました。
私は長く商業施設を見てきましたが近頃は新規開業や大規模リニューアルの商業施設でも空き区画があることに驚いています。これは施設開発にとっては最もタブーなことで、オープン時は全テナントが揃っていることが当然で、空きがないよう必死にテナントを誘致してきました。しかしコロナ禍ではギブアップするテナントが多く新規出店者が減少する中では、空き区画がある開業も「やむを得ず」と思わざるをえない昨今です。
このような厳しい現実の中で、何とかお客の来店や買物の楽しさを伝えようと努力するテナントやディベロッパーが現れ始めています。
●オンライン・オフラインで自由ショッピング
アパレル業界は若者のファッション離れやユニクロを代表とする安くてデザイン性の高いファッションの普及でコロナ前より低迷傾向であったのは周知のとおりで、コロナによって業界全体は“オンラインの時代到来”という機運が高まり、賃料のかかるリアル店舗を閉鎖しオンラインビジネスに切り替えるテナントが複数出現して商業施設の空き区画がより増える状況も生まれています。
このような中、連結売上高2,200億円、約41のファッションブランドを展開する「アダストリア」という大手企業が、オンラインとオフラインを融合するOMO型の「ドットエスティストア」を5月下旬に2店舗オープンさせました。アダストリアでもEC事業は活発に売上を伸ばしていますが、リアル店舗でのブランド認知度UPや買物体験がEC販売を伸ばすのには必要だと考え新業態リアル店舗が誕生しました。
この店ではアダストリアの保有する25強のブランドの人気ファッションが揃えられ、少し広めの試着室(6ブース)では友人やカップルで試着が楽しめる工夫がなされています。また全国のセンス良いスタッフ3,000人によるコーディネイト提案がサイネージに流れ、ミラーの前に立つと服のバーコード読み取りでミラーにコーディネイト提案画面が出てきたり、その顧客が過去にアダストリアで購入した服のビジュアルが映し出されたりと、自分のスタイリングに対し多様な店からの情報が試着や姿見鏡の中で簡単に提供されます。
そしてその場で買うも、ネットで買うも、お気に入りとして登録するもご自由に、というのがこの店の特徴です。今までの販売スタッフとマンツーマンでやりとり、他の店の商品も気になり悩むというストレスがなく、アダストリアの中でブランド横移動とお試し自由、買わなくてもOK、というフリースタイルは何とも魅力的です。
●ディベロッパーもテナント支える努力
大手ディベロッパー三井不動産が3月に東京ベイららぽーとで開業したユニークな店舗に「LaLaport CLOSET」があります。17年から三井不動産が始めたECサイト“&mall(アンドモール)”のリアル店舗版で、ECの中から選んだ服等の試着や購入品受け取りやサイズ直し等が可能ですが、これだけではありません。店舗は大型で&mallに出店している11ブランドの人気のファッションが揃えられ、買物が楽しめます。
またカップルやファミリーで入店するとキッズが遊べるスペースやパパがくつろげるカフェも併設され服選びに女性客があわてることはありません。試着ルームもセンス良いインテリアのリッチ空間です。
ここでも前述のアダストリア同様に、オンラインでワンクリックで買えるけどオフラインのリアル店舗で服を試しながら買物、友人やボーイフレンドに見守られながらの買物、専属のスタイリストによる時間をかけたアドバイスもある買物、それもおしゃれなフィッティングルームで思う存分にというスタイルです。中には新しいファッションでポージングをきめ、インスタアップする強者もいるそうです。
ファッション業界が長くわすれていた“エンタテインメントショッピング”は顧客が“買物時間に満足する”という原点をオンラインとオフラインをまたいで生まれています。ここに次の時代の商業のヒントがいくつか見えてきたように思えます。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年7月号掲載)