不動産フォーラム21
インバウンドを迎える街の課題
●ここはどこでしたっけ? 様がわりの京都錦小路
久しぶりに泊りがけで京都に行き驚くことがいくつかありました。
心底驚いたのは“京の台所”と呼ばれる錦小路です。写真をご覧ください。何屋だかわかりますか?立ち食い天ぷら屋とでもいうのでしょうか。店頭で揚げた串刺し天ぷらを立ち食いする外国人観光客で店は混んでいました。店前に並ぶ海老天のボリュームに目が釘付けに。立派できれいに揚がった海老天だと感心して見ると全てサンプルで飾るディスプレイでした。
錦小路と言えば青果店や鮮魚店や乾物屋、総菜屋が並ぶ狭い通りで、京都の人々の食卓を見るような楽しさがありました。その中に刃物屋や和菓子屋、お茶屋など京都食文化の奥行を知る専門店も多数あり、京都訪問の楽しみの一つにしていたのですが、コロナ禍で足が遠のいていた間に小路はすっかり様がわりしてしまい、外国人観光客にヒットするグルメエンタメ通りになっていたのです。
タクシーの運転手さんが「コロナ禍の少し前からあんな店がポツポツ出始めた。昔から店をやっていた店主が後継者がなく店舗を賃貸に出したことからインバウンド向けの飲食を始める外からの業者がいて、コロナ禍低迷をきっかけに一挙に増えた。京都の人は足が遠のいたが外国人には人気があり、よく錦小路までお客さんを乗せる」と話していました。街が賑やかなのはよい事ですが街のらしさが失われていくのは寂しい気持ちになりました。
もう一つの驚きは、コロナ禍前にホテル預託が取りにくく高額になっていた京都市内ですが、今回は四条通の真ん中で7~8千円ホテルが複数あり、便利で快適な宿に泊まる事ができました。旅行者にはありがたいことです。
調べてみると、コロナ禍前に年間5,000万人強の観光客が押し寄せて宿泊施設が不足し混乱した市内には、違法民泊が増えて別な問題も起こるほどでした。確かに以前は「全国チェーンのビジネスホテルがピーク時には4~5万に変わる」と京都の人から聞いたことがあります。
その後、行政が問題解決に動き、宿泊施設誘致制度を導入したり建設規制を条件付きで緩めたりした結果、2016年に550施設・28,000室だった旅館やホテルが、2022年には650施設・43,000室に増加し状況は改善されたそうです。中心地四条烏丸から500m圏で約50施設、1km圏で約170施設もあるそうなので、これも驚く多さです。
●人は多くとも人口が減少する京都の不思議
街中を歩くと観光客を含めた人の多さが目立つ京都ですが、全国20の政令指定都市の中で人口減少率が6番目(20年/23年)に高いことを知りました。京都といえば、行ってみたい、住んでみたい街のブランド都市なのですが、なぜ人が流出しているのでしょうか?
それも観光問題と結びついていて、外資系を中心にしたホテル建設ラッシュで市内の不動産高騰が起こり、住宅開発が停滞し、家賃が値上がりし、一般的な学生や若年ファミリー層が市内に住みづらくなり市外に流出してしまうという社会現象が起こっているのです。街の中心部ではいくつかのマンション開発を見かけましたが、マンション価格も高騰しており億ションが当たり前になっています。フツーに街で暮らすができにくくなっている京都になっていました。
2023年度のインバウンド消費額は過去最高の5兆円となりました。2024年、東京・大阪・福岡・札幌の様子をみても順調にインバウンド数も消費も伸び続けています。都市によっては観光が街の主要産業になり、観光産業従事者も増加しています。今の街の暮らしを守ることと、インバウンドを中心とする観光客増加のバランスをとる課題を本気で検討する時を迎えたと痛切に感じる京都でした。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2024年10月号掲載)