販売士
アフターコロナ―次に来る人々の意識変化
世界が新型コロナウィルス感染(以下コロナ感染)の危機にさらされています。この原稿を書いている今は、緊急事態宣言が発令され街はひっそりしています。発刊までには間があるので発刊されるころにはコロナは収束し状況が良くなっていることを願いつつ「アフターコロナ」についてお話をしたいと思います。
コロナ感染が収束した後、世の中はどのようになっていくのでしょうか。小売に直結する人々の意識変化について考えてみます。
●コロナが変える生活意識
コロナ感染拡大で人々は生活の変化を余儀なくされました。不要不急の外出自粛で自宅での巣ごもり生活になり、その結果、人々は時間の余裕が生み出した多様な行動から暮らしのブラッシュアップを経験しています。
生活に最も影響をもたらした変化は「テレワーク」の実践でしょう。2016年に政府が働き方改革を掲げたものの、出社なく在宅で仕事をするという働き方は関係づくりや管理体制から導入に二の足を踏む企業が主でしたが、コロナ感染により一気にテレワークが普及しました。実践してみると意外と簡単でコミュニケーションもオンライン会議で良好にとれ「テレワーク」評価が一挙に高まりました。きっとコロナ収束以降は「テレワーク」が本格稼働となり、働き方の多様化がさらに進むことでしょう。
さて、在宅生活で時間や気持ちに余裕を持った人は何を始めたのでしょうか。家族との絆、健康管理、食の楽しみ、余暇の深掘り等が世の中の様子から見えてきます。
在宅勤務で子供の勉強に毎日付き合ったお父さん、久しぶりに夫婦で散歩をすることにした中年カップル、妻に任せきりだったペットの散歩に付き合う夫etc…時間的余裕の中で家族との関係づくりが生まれたと語る人々が増えています。もうひとつ増えたと実感するのは街中のランナーです。スポーツ施設の閉鎖もあってか多くの人がお手軽にできるジョギングを始めました。若い世代のランナーはお洒落で流行のスポーツファッションを着こなしていて見ているのも楽しい光景です。
休校になっている子供のストレス発散のため料理を教えた、多忙な時にはやる気にならない手間のかかるお菓子づくりやこだわりの燻製づくりにトライした等、食の楽しみのバリエーションを広げたという話も耳にします。あわせて時間があるからこそ語学の勉強を始める、ライセンス獲得のための受験勉強、畑や花壇づくり等々の余暇の深掘りに挑戦した人も多くいます。
このようにコロナをきっかけにいつもと違う体験、いつもと違う時間の使い方を経験した結果、自分にとって快適だったコトや有効だったトキをアフターコロナ(コロナ収束後)の生活で大切な自分の生活スタイルとして取り入れ、暮らし方を変える人たちが多く生まれてくると予測できます。
●意識変化の兆しはすでに始まっていた
実はこの変化はコロナで急に出てきたのではなく以前からその兆候があり、今回の有事によって潜在していたものが顕在化したと言えると思います。図表は総務省が毎年発表する家計調査報告(2019年度)の中から1世帯当たり1ヶ月間の消費支出を1988年と2018年比であらわしています。
増加傾向にあるのが高齢化や健康志向の高まりによる保健医療費(54%増)とスマホやネット環境充実のための通信費(181%増)、教育(32%増)やコト寄り支出の教養娯楽(6%増)です。しかし30年間で極端に減少しているのが衣料品を示す被服・履物で40%も少なくなっています。また30年間で可処分所得は約5万円アップしていますが、それが消費にはまわされず貯蓄される傾向にあり、平均貯蓄率は30年間で11.7%増加する結果となっています。
この30年間で大型天災を経験した日本ですから、安心のために蓄えを増やそうと人々の意識が動いているのでしょう。
人々が欲しているのは外向きに自分をアピールするファッション等のモノではなく、自分の時間、自分の内面、親しい人たちとの絆を大切にするモノやコトであるという傾向は以前から話題になっていましたが、今回のコロナ感染という有事によって人は生活の切り替えを体験したため、今後の暮らし方ははっきりと潮目が変わることが予測されます。
小売にたずさわる私達もこの人々の意識変化を早めにキャッチアップしてビジネスのあり方を上手にモデルチェンジさせていくことが望まれます。
(記:島村 美由紀/販売士 第37号(令和2年6月10日発行)女性視点の店づくり㉒掲載)