繊研新聞
アジア圏に新しい活路を求めて -出店意欲高い日本の商業テナント-
アジア主要都市では、小売りや飲食など日本企業の商業テナントをよく見かけ、意外なテナントにも出くわす。市場規模が縮小する日本に対し、人口増で経済発展を遂げるアジアは市場規模拡大が約束された魅力的な市場だ。
15年に発足したAEC(アセアン経済共同体)により、東南アジア諸国の一体化が強まった。人口6億2000万人、GDP(国内総生産)2兆4000億ドル(日本の約半分)の一大経済圏。人口は35年までに7億人突破し、半数を30歳以下の若年層が占める。距離だけでなく食や生活文化も日本と近く、企業が市場として活路を求めるのは必然であろう。
日本の“食”は高評価
最も多く進出しているのは飲食だ。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界で関心が高まる。吉野家、モスバーガー、味千ラーメンは定番で、近年はカレーハウスCoCo壱番屋や大戸屋、一風堂の進出が目覚ましい。寿司も人気で、元気寿司、くら寿司、かっぱ寿司、スシローは行列が絶えない。
最近のトレンドは三つ。一つ目は“そば・うどん”。台湾やフィリピンなどで先鞭をつけた丸亀製麺、追随した富士そば、ゆで太郎、たも屋などが、健康志向の高まりで高く評価されている。 二つ目は“お好み焼き”で鶴橋風月、千房、道とん堀等が出店を加速している。三つ目は“カフェ”でナナズグリーンティーやサンマルクカフェが出店を増やしている。主要都市の新SCにはお洒落カフェが必須で、スイーツが売りのくつろげるカフェが人気だ。
食物販も可能性があるが、アジアは外食習慣が強く、総菜などの中食は時間がかかるだろう。生菓子やパンの可能性はあり、すでにシャトレーゼが15年シンガポールに出店し、今年内にドバイなどに50店舗の出店を発表した。アジアではパンや生菓子(ケーキなど)の魅力的なブランドが少ないため、増加する富裕層のニーズは大いに期待できる。すでにフランスのポールやメゾンカイザーは出店を増やしている。
ライフスタイルは熟成
日本企業の横綱は「無印良品」だろう。海外店舗数が国内店舗数を超え、代表的なSCのキー区画に出店、不動の地位を築いている。ニトリも07年に台湾、14年に中国に進出をしている。
無印良品は91年のロンドン進出から26年かけて海外事業を成長させた。インテリアや生活雑貨は、経済発展によって中間層が増加し、暮らしを豊かにするニーズが深まることにより求められる。
アジアでは今後、徐々に浸透していくだろう。日本を模したと思われる生活雑貨業態がアジアで進化を遂げている。競合相手だが、伸びしろがある証だ。
意外な早期出店はABCクッキングやQBハウスなどのサービス業態。特に、ABCクッキングは上級SCに出店し、日本同様に都市部のリッチミセスや若い女性に人気を呼んでいる。
幼児教育や趣味娯楽、健康維持、アンチエイジングなどにも可能性を感じる。日本が歩んできた道だが、生活が成熟するほど暮らしを便利に快適にするモノ・コトに関心は向く。今後ASEAN市場はビッグマーケットになろう。
衣料は低価格品で苦戦
10年前は日本のアパレルの勢いを強く感じたが、今では寂しいほどに少ない。アジアでもH&Mやザラ、ユニクロやトップショップの低価格帯が主流で、高価格帯は欧米ラグジュアリーブランドが出店し尽くした。日本のテナントは多くが縮小か撤退した。
最近出店したブランドはアジア圏EC事業のフラッグシップが目的だ。大手のアパレルやセレクトショップでも昨年から、中華圏のEC事業を本格稼働し始めている。経済産業省は、中国の日本製品の越境ECサイト購入が19年に2兆円を超えると予想する。力あるアパレルは軸足をネットに切り替えている。
海外進出に意欲的なテナントから「日本のディベロッパーがアジア圏でSC事業を展開すると出店しやすい」という、プラットホームづくりを望む声が挙がる。三井不動産はアウトレットモールをアジア3カ国で成功。20年に上海、21年にクアラルンプールで「ららぽーと」の開業を予定している。日本のテナントが活性化を図るには、これに続く大手ディベロッパーの開発を期待したい。
(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2017年(平成29年)8月15日(火)掲載)
<写真左:クアラルンプール郊外の「ワンウタマショッピングセンター」に出店したシャトレーゼ。おしゃれな店装で目立っている>
<写真右:クアランプール中心部の「パビリオン」にあるABCクッキングスタジオでは、キッズのクッキングスクールが開催されていた>