MAGAZINE

2014.11.07

不動産フォーラム21

ふなっしーにバルタン星人(V)o\o(V)
行列もおたのしみのプロローグ

 

 9月になって久しく行列に無縁だった渋谷にすごい人数の行列が生まれました。期間限定(9月2~9月30日)の「ふなっしーのFUNAcafe」が渋谷PARCO7階にオープンしたのです。
渋谷は昨年の地下鉄副都心線の開通以来、新宿に人の流れをとられ停滞感漂うまちだったので、その勢いある行列がまぶしく一目を引きました。

 

 開業後朝5時台からふなっしーファンがPARCO前に列をつくりはじめましたが、ランチを食べるつもりで10時から列んだらカフェにか入れたのが5時で夕食になってしまった。5~6時間待ちは当たり前」と言っている女性もいるほど、忍耐の一文字で待ちに待ってふなっしーを体験したい人がこれほどいるのかとびっくりする行列でした。ピークの時は渋谷PARCOパートⅠの外周を取り巻き最後尾が別棟のパートⅢの外周を回り始めるほどになっていました。この館を取り巻く行列は古い世代の者にとっては懐かしい光景で、80年代のPARCO文化がピークだった頃、バーゲン時にはすさまじい行列がPARCOをぐるぐる巻きにする名物行列でした。が、そんな話は昔物語で、「FUNAcafeに行ってきました」というブログをチェックすると「渋谷PARCOというビルに・・・」という渋谷ARCOまでの道案内が載っているのに軽いショックを受けました。そうか、全国に名を馳せたファションの殿堂PARCOは道案内が必要な館になってしまった時代の流れを感じました。

 

 さて、FUNAcafeでは勿論店内がふなっしー一色なのですが、メニューも全てふなっしー。どれにもふなっしーの顔や姿がアレンジされていて、梨味が生かされているようです(行った女の子にヒアリングしました)。一番人気はデザートプレートのイリュージョンムース(1,580円+税)で、ムースで形どったふなっしーがプレートに横たわり、梨ソースをかけて食べるのだそうです。さてここに来店客の心をくすぐる秘策あり。ふなっしーが描かれたテーブルのランチョンマットやコースターやストローに飾られたチャーム等は、来店客だけが持ち帰られる特別なコレクションアイテムとなっていてファンには垂涎の品なのです(だから5時間も列んでいたのですね)。そして、隣接するふなっしーグッズコーナーではTシャツやキーホルダーやマグカップ等が販売され、食事の後はお買い物と、ファンの心をたっぷり満足させるFUNAcafeでした。

 

 長時間待ちも辞さないファンとは有り難いものだと思った話がもう一つあります。今年の春から時々打ち合わせに行く川崎駅前の地味なオフィスビルの地下1階に夕方になると行列ができるようになりました。FUNAcafeは10代~30代の女子行列でしたが、この行列は30代=40代のサラリーマンの行列です。何が仕事帰りの彼らを列ばせるのかというと「怪獣酒場」が3月にオープンしたのです。店長はバルタン星人(V)o\o(V)(普段は不在のようですが)で、ゼットンやペタン星人など怪獣をモチーフにしたテーブル席やフィギュアが並んだカウンター席があり「怪獣天下」と書かれた掛け軸のある座敷もある凝った内装。メニューにはバルタン星人のハサミを模したカニピラフや古代怪獣ツインテールをエビフライで表現するなど工夫がいろいろあって、サラリーマンのテンションは上がりっぱなし。様子を見ていると、同世代サラリーマンの飲み会に活用されたり、週末の父と息子の男子会に使われたりしていて、子供時代、円谷プロワールドに陶酔した永遠の少年たちの心をわしづかみにしています。そしてこの店でも、わざわざ来店してくれた客だけに、非売品の怪獣箸置きや全45種あるコースターがプレゼントされるという秘策あり。箸置きは7種、コースターも毎月7種ずつ変化するため、永遠の少年たちの全部集めたい!というコレクション心をくすぐるすご技を使っています。

 

 ファンとは応援者、愛好者の意味ですが、がまんの先の”限定のグッズ特別な体験”という甘い蜜がファンの心理をくすぐっているのです。行列というガマンもファンにとっては甘い蜜へのプロローグなのかもしれません。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2014年11月号掲載)