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2021.03.01

不動産フォーラム21

どこに行く?ビジネススタイルのゆくえ。 -男性スーツが激変している-

  

●このごろ、スーツ姿の男性を見かけない??
 近所の幹線道路沿いの郊外紳士服店がなくなっていました。90年代、開店したばかりのこの店で急な葬儀のため紳士喪服一式をそろえた時、段取り良く対応してくれその喪服は今でも重宝していて、馴染み感を持っていた店でした。

 

 昨年夏には世界最古の紳士服販売店のブルックスブラザーズが経営破綻したニュースを知りショックを受けました。これも90年代ですが、ニューヨーク本店で知人がスーツを購入する時、3面が鏡張りの広い試着室で一段高くなっているお立ち台に立たされ、パンツの丈を厳密にフィッティングされている様子を見た時、その丁寧さに感心した思い出があります。

 
 そういえばこのごろスーツ姿の男性を見かけなくなりました。最後にいつ見たのかと思い出すと、2週間前に70代の社長様、3週間前に60代の会長様のお二人ぐらい。それもその会議出席の他の男性たちはノーネクタイのカジュアルスタイルでした。

 

 通勤電車の中でもスーツ姿の男性はごく少数派になっています。カジュアルスタイルは服ばかりではなく靴や鞄にも反映し、皮のビジネスシューズからスニーカー派やカジュアルシューズ派が増加、鞄ではバックパック派が年齢問わず増えています。

 

 日頃は女性のファッションに注目しがちですが、男性のビジネススタイルもこの数年で激変しています。下のグラフをご覧ください。総務省の家計調査によるスーツ支出額の推移です。1991年に一世帯あたり19,043円あったスーツ支出が2000年には半額の10,118円になり、2010年5,853円、そして2020年には何と2,893円となり30年間で85%も減少しています。この変化で紳士服業界では店舗閉鎖や人員削減等の苦戦を強いられている昨今です。

 

 男性のスーツ離れの入り口は、2005年環境省主導のもとに提唱されたノーネクタイ・ノージャケットの軽装化であるクールビズで、始まった当時は「軽装なんて、何を着ればいいんだ?」とカジュアルスタイルに不慣れな男性達が右往左往したことを思い出します。

 

 その後IT企業を中心とした新興産業やスタートアップ企業のエグゼクティブがTシャツにジーンズスタイルで記者会見する映像が映され、一挙に「堅苦しいスーツではなく、自由でラフなビジネススタイルでもOK」と男性意識に大きな変化が生まれました。

 

 さらにこの意識を深めたのはコロナ禍による在宅勤務の増加で、スーツを着る機会が激減しリモート会議でもカジュアルスタイルOKの流れはすっかり定着してきました。男性ビジネスファッションスタイルの大改革が始まった感があります。

 
 

●スーツは作業服!? それもアリな今
 大改革の時ですから、おもしろいことを考え商品化するプレーヤーが登場しています。

 

 「パジャマスーツ」という名のカジュアルスーツがAOKIホールディングスから昨年11月に発売されました。在宅勤務をしている時ついパジャマや部屋着のままだったりしていると気分もだらけるし、宅配屋が来てもみっともない、でもリモート会議の時にわざわざシャツに着替えジャケットをはおるのも面倒だ、というリモートあるあるニーズを拾って、ニット生地で楽な着心地でもキチンと見え、ジャケット&パンツでセットアップしてスーツ感が出せ、洗濯機で丸洗いでき、上下で1万円でサイズ4種という、コロナ時代に優れモノのヒット商品を作りました。TVで紹介されキャッチーなネーミングで話題になって、予想の数倍の売れ行きだそうです。

 

 また、汚れに強く速乾性ありストレッチ、シワになりにくく毎日でも洗えてスタイル良しという理想的な「ワークウェアスーツ(スーツに見える作業着)」を開発したオアシススタイルウェアという会社があり、親会社は水道会社で若い社員のカッコいい作業着をリニューアルすることがきっかけとなり、ECを軸に発売をして(上下で約3万円)売上を伸ばしています。渋谷のファッションビルにポップアップショップが出店していて見に行きましたが、サイズや色の展開も豊富でスタイルも良く作業着にも街着にもなるワークウェアスーツはナイスでした。

 
 

 アパレル業界が低迷する中、生活者の根底にある不便さやストレス等のマイナスニーズをひもとき、従来の枠を破る着眼点と創造性で多様なファッションスタイリングの提案はまだまだありそうだと感じます。コロナ終息後、男性ファッションスタイルはどの方向に進化していくのか、楽しみです。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年3月号掲載)