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2018.06.05

不動産フォーラム21

ちかごろ話題の“フードホール”

 

古くは食の売店、今は食の賑わい処である“フードホール”

 ちかごろ話題になり始めた“フードホール”をご存知ですか。英語では食品の売店という素っ気ない意味なのですが、この“フードホール”の流行が欧米で起こり、ニューヨークが流行の発信源となり東京や大阪でも誕生しています。
 “フードホール”の元来の意味は百貨店の中で食品を売る大規模スペースを示すイギリス英語だったそうですが、現在では生鮮三品や加工食品、惣菜や飲料などを扱う専門店が集まり、購入もできれば食事もできる“食の賑わい処”という業態に進化しています。
 海外のフードホールの特徴を見ると、規模の大きさ、出店者の多彩さ、コミュナル性、が挙げられます。規模の大きさは言うまでもなく、何十もの食物販店が売場を並べ買物をする客もいれば食事をしたい客のためのテーブル席も用意されているので、天井高もあるダイナミックな空間です。出店者のバラエティはそのフードホールの評価になります。特に国際色が豊かであったり専門性が高かったり、また食事目的の人たちには加工品や惣菜やアルコール類の店の多さが集客のポイントになります。また店が固定化されてしまうのを避けるために短期間で一部の店舗の入れ替えを積極的に行うフードホールもあります。最後のコミュナル性は共同性と表現するのがふさわしいと思いますが、テーブルを分け合って知らない者同士が一緒に楽しくコミュニケーションを取りながら食を楽しもうという意識です。

 

トレンド発信源ニューヨークの“フードホール”

 ニューヨークでは、何と言っても2010年にオープンした“イタリー”が有名です。マディソン公園の近くにある古い銀行をそのまま店にしたという大空間に生鮮から食の加工品からレストランやイートインスペースまでが揃っているおしゃれグルメステージで本当に楽しい場所です。このマディソンエリアは他にもグルメストアや評価の高いレストランも多く点在し、周辺はお金持ちの居住地ですから需要と供給のマッチングはピッタリ。私も何度となく通っていますが、チーズとハムの専門店の前でワインを飲みながら好きなハム・チーズのつまみを食べているとついワインが進みかなり酔っぱらってしまいます。そのくらい美味しい楽しい空間です。
 もうひとつ有名なのは“ザ・プラザ・フードホール”で、NYのど真ん中にある老舗の“プラザ・ホテル”がコンドミニアムとホテルのコンプレックスとして2007年にリニューアルされ地下1階がフードホールに改装されたもの。立地がよく全体に高級感漂うフードホールで、チョコレートやケーキ等のスイーツ類が豊富なことも人気のポイントです。ここはカリスマシェフのドット・イングリッシュ氏が監修をしたということでも知名度があります。
 この地にもロウアーマンハッタンにある600席の“ハドソンイーツ”やNYの旬な話題店を集めたグランドセントラル駅近くの“アーバンスペース・ヴァンダービルト”など数々の魅力的で個性的なフードホールができ、食の賑わいが生まれています。

 

日本のフードホールは黎明期

 「フードホールってフードコートの間違いじゃない?」と言われることがあります。確かに日本ではショッピングセンターや大型スーパーマーケットにファストフード・焼きそば・うどん・たこ焼き・ラーメン・カレーという定番業態が入店しているフードコートが数多く存在し、子供が走り回ったり学生がたむろしている、雑なイメージの食の場がありますが、前述のとおり“フードホール”は食物販と飲食の場があるテーマを基にして一体化した美食のステージですから、グルメの質としてはまったく異質の存在です。
 昨年から今年にかけて大阪や東京でも駅近くのメジャーな商業施設にフードホールが開業しました。まだその規模や質はニューヨークほどではありませんが、従来のデパ地下でもなくグルメスーパーマーケットでもなくレストランでもなく、食物販店とカジュアルな飲食店が融合したグルメステージの登場には大きな期待が持てます。特に最近はEコマースや低価格衣料品の台頭で、商業施設ではファッションの売上が伸び悩んでいる状況でしたから、万人が関心を持つ食の新切り口は集客の目玉となる可能性が大です。
 しかし過去のファッションのように、都会の一等地だと賃料が高くて出店できる店が限られ、どこのフードホールも同じ顔ぶれになってしまわぬように。また無秩序に“フードホール”と命名されフードホールという業態が早く陳腐化しないよう祈りたいものです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2018年6月号掲載)