不動産フォーラム21
ご供養のさまざま-命の大切さを学ぶ場にも-
●飼っていたカブトムシが死んでしまった時に
死んでしまった昆虫を供養する“昆虫葬”という儀式が静かなブームになっています。子供が飼っていたカマキリやカブトムシ等の昆虫が死んでしまった時に家族はどのように対応するのでしょうか。郊外一戸建て住宅であれば多くの家族が死んだ虫を箱に詰め、庭の片隅に穴を掘って埋め小さなお墓をつくり、手を合わせるのでしょう。
しかし都心のマンション居住では庭がありません。生ゴミとして処分するのは子供(飼っていた人)の気持ちもあり抵抗感があります。今は近所の公園に埋めるのも人目が気になります。「どうしたものだろう??」という悩みに応えてくれるのが“昆虫葬”で、このニーズは意外と多いのだそうです。
“昆虫葬”は4~5年前にペット葬儀社の新コンテンツとして生まれました。死んだ昆虫をゴミなど取り除ききれいにして葬儀社に持ち込みます。受け取った社はそれを合同供養とするためにまとめて別日に昆虫専用カロート(お墓の安置スペース)に埋葬し合同供養を執り行います。家族は持ち込んだ時にカロート前でお焼香をあげることができ、定期的な法要を執り行っている社では希望により後日の予定日に参加(別料金)ができるそうです。社により差はありますが持ち込みは3,300円。郵送(4,950円)も可能で昆虫葬郵送キッドによりレターパックでポストに投函という方法もあります。
驚くのはこの郵送キットがアマゾンやヤフーで購入でき、キットのビニール袋に昆虫・乾燥剤・防虫剤を入れ密閉してクッション材で包み、2.2cm厚の段ボールに入れレターパックでポストへの手順になると紹介されています。お手軽ではありますがご供養感覚的には便利すぎる気もします。
●命の大切さを学ぶ“昆虫葬”
現代は核家族化で身近な人の死を経験する機会が少なくなりました。一緒に暮らしていたおじいちゃん、おばあちゃんがなくなった、近所のかわいがってくれたおばさんがなくなった、などという経験がない人たちが増えています。昆虫葬は虫の処分方法としてのニーズもありますが、親が子供のために命の大切さを身近に学ばせるチャンスとしてとらえられる教育的ニーズも大きいようです。
調布市にある深大寺動物霊園では昆虫葬を「命の尊さ」を子供に知ってもらうための社会貢献活動と位置付け、高校生までを対象にして無料で執り行っています。1962年の開園よりペットと人との共生を考えてきた歴史ある園だけに、子供教育の一環として行っている活動姿勢はすばらしいと感じました。
●家族の一員であるペットも多様に
戸建て居住では庭にお墓をつくると書きましたが、大切にかわいがり一緒に暮らしたペットを庭に埋める感覚を持つ人は少なく、平成・令和時代の多くの家庭ではペットの死を迎えたときに動物を対象にするお寺や葬儀社で死を弔う法要をする人が主流となっています。確かに街にはペット葬儀や動物供養の看板をよく見かけるようになりました。愛犬家の知人は初めてお寺内にある動物霊園で葬儀を執り行った時、人間の葬儀の流れとほぼ同じだったので驚いたそうですが、歴代愛犬の遺骨を永大供養にした金額(数十万円)を聞くと家族としての大切な存在なのだと思いました。
TVでペット火葬について関係者が語っていました。年々家庭で飼われているペットの種類も多様になり、葬儀対応も複雑化しているそう。特に火葬では動物の種類や大きさにより骨の太さや硬さが異なるため、火葬後にきれいな遺骨をご家族に渡すためには、爬虫類や両生類・魚類等多様な対応力が求められ技術を磨いていかないといけない時代だと語っていました。
都心居住・核家族化が進むほど静かに拡大されていくテーマですね。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年7月号掲載)