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2018.12.03

不動産フォーラム21

こんなパパが出始めました “イクメン過労”

 

よき夫、よき父親、よき社会人に悲鳴を上げる男性たち

 お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦氏が育児サイトの中で「良い夫をやめる」と宣言して話題になりました。

 趣味を捨てタバコもやめ妻の望みどおりに自分を変えてきた結婚生活。仕事が終わるとすぐに帰宅し子供と風呂に入り、子供と一緒に寝る。こんなよき夫、よき父親に疲れたとの発言でした。

 オリラジのあっちゃんは日頃からオピニオンリーダー的存在として注目される30代でしたし、世間が推奨する“イクメン”をやめると公言したので反響は大きかったようです。ネット上では「育児は手伝うものではなく主体的にやるものだ」とか「奥さんがかわいそう」といった批判的な意見が多かったようですが、中には「よき夫、よき父親であることの負担が重すぎて大変だ。あっちゃん宣言には共鳴する」という声もかなり上がったそうです。

 私にはあっちゃんと同世代の甥っ子がいて、仕事は重任を担い、男の子2人の父親を一生懸命やり、趣味のトライアスロンに精を出し、共働きの妻をサポートする姿を見て、心身ともに疲れ切っている様子に「これはイクメン過労だな」と思っていました。

 子育て世代の男性たちは、今、つらい立場におかれているのではないのでしょうか。

 

男が試される“イクメン”

 平成22年6月に男性の育児休業取得促進事業として「イクメンプロジェクト」が厚生労働省によって発足し啓発活動が実を結び、イクメン意識は世の中に浸透しています。

 休日の午前中、東京郊外の百貨店に新しい子供の遊び場が開業したので見に行きました。ボールプールやすべり台のある楽しい施設でしたが、最も驚いたのは入場待ちをしている長い列の過半が若いパパ達であったことです。休日だからといって朝寝をせず、子供の手をひいて行列に並ぶイクメンパパ。さすがですね。

 3人の男の子を持つ知人男性も立派なイクメンパパで、「妻に勧められて3歳~7歳の息子3人と父親だけの男旅に毎年行っている」そうです。目的はオトコ同士で語り合い遊び合うことだそうで、「感想は?」と聞くと「子供の成長を感じて面白いけれど相当疲れる」と笑いながら言っていました。ちなみにこの家庭では日曜がママの休日で美容院や買物に出かけ、この男性が家事、育児全般を引き受けるそう。これを実行しないとママの機嫌は悪くなると言っています。

 厚生労働省のイクメンプロジェクトで「イクメン」は、子育てを楽しみ自分自身も成長する男性のことを指す、とあります。なんだか立派な男性になることを試されているようで大変ですね。

 

次に目指す父親像とは?

 さて、甥っ子や知人男性を筆頭に私の身近には健気なイクメン達ばかりですが、一体彼らはどんな意識からイクメンになったのかと疑問に思います。今のイクメン世代の父親達(50~60代)は、バブル最終期から90年代の不景気時代に親をやっていたことになりますから、その時代に男性の育児・家事参加が一般的であったという記憶はありません。父親の姿を見てイクメンになった世代ではないわけです。

 私が気になるこのごろのCMは、自動車メーカーのワンボックスカーのPRでせっせとキャンプの準備をするパパを尻目に車内で昼寝をするママの“がんばりパパとのんびりママ”イメージが多くあるように思えます。また大手家電メーカーのCMでは共働きの家庭で先に帰宅したパパが夕食をつくり、食事後は息子と遊ぶという“家事&育児シェア型夫婦”のすてきな映像を流しています。これらのCMに問題はありませんが、世の若い男性はきっとこんな日々見ている映像イメージの中で男としての役割や父親としてのあり方を自動的に意識の中にインプリントしていくのでしょうし、若い女性も将来の夫に対しイメージを持っていくのだろうと感じます。

 あるインターネット調査で、30代~40代の子供を持つ男性に「父の時代と自分を比較して苦労が多いのは?」と問うと「自分」という答えが65.8%あり、共働き(2017年既婚女性就業率52.6%)家庭増加から男性の家事・育児参加率が年々高まっていることが理由だとありました。

 イクメンが推奨され8年。まじめな男性が真剣に取り組んだ結果、ちょっと疲れ始めた男性も出始めた昨今、肩の力を抜いて、できること、できないことを夫婦で認め合い、手抜きOKの“お気楽イクメン”のあり方を模索する時期なのかもしれません。

 ちなみに、平成23年に2.63%だった男性の育児休業取得率は平成29年で5.1%どまり。平成32年までに13%という政府の目標値にはほど遠いのが現実ですから、いま一度、企業が男性の育休取得推奨に本腰をいれなければいけませんね。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2018年12月号掲載)