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2020.09.14

販売士

お世辞はNG、真の愛想良しとは?

 

 コミュニケーションが大切なのは誰もがわかっていますが、相手の気分が良くなる会話をするのは難しい事です。まして接客の場であれば一段と難易度はあがります。みなさんはお客様の気分が良くなる会話にいつもどんな心掛けをしていますか?
 
 

●いっけん愛想良し、実は、、、
 数年前、友人が経営するエステサロンに30代のベテランエステティシャンが入社しました。施術キャリアが10年以上あり色白美人です。
 
 様子をみていると施術後のお会計やお見送りの時「○○様のお靴ステキですね」「お帽子がよく似合って若々しいです」など必ず相手に褒めのひと声を掛けています。相手のお客様はまんざらでもなく「ちょっと派手かなと思った靴だけどね」とか「日差しが強いから日焼けしないように」などと少しはにかみながら気分良くサロンを後にしていきます。人材不足の時代に愛想良しの優秀なスタッフが入社したと私は感じました。
 
 当然このスタッフは私がサロンに行くと愛想の良い対応をしてくれ、いろいろ褒めてくれます。その日の服装や持ち物から始まり髪型や後ろ姿まで多岐にわたって褒めてくれるのです。初めのうちは私よい気分になり“愛想良しの人”を評価していましたが、くたびれたTシャツやボロになりかかったスニーカーまで「カッコいいですね!」と言われると「本心なの?」と感じるようになりました。
 
 ある時、長い髪を切ってショートスタイルにして10ヵ月も過ぎた頃「ヘアスタイル変えたんですネ。お似合いです」と言われた時にはガッカリし、それ以来「私には愛想なしで結構です」と心の中でつぶやくようになりました。
 
 本心ではない愛想を言われても返事をするのが面倒なばかりです。まだ友人には伝えていませんが、たまに来店されるお客様にはこの愛想対応が好印象であっても、頻度高く来店する常連客にはテクニックだけの愛想使いは逆効果になる可能性があると私は思います。
 
 

●“それってホント?”
 小売に精通したベテランS女史が時たま嘆くある話があります。
 
 気の抜けた休日にどうでも良い身なりでちょっとした用足しに街に出掛けた時、ついでに寄ったファッション系ショップで「そのニット素敵ですね」と声を掛けられたり、何気なく手に取ったシャツに「今日のパンツにもピッタリですよ」と言われ「それってホント?素敵と言われたニットは毛玉がついた古いユニクロだし、ヨレヨレの普段履きのパンツにこの4万円もするインポートシャツは合わないでしょ」と心の中で叫ぶそうです。
 
 彼女も仕事柄、販売スタッフに対してお客の立場で積極的に対応していこうというマインドを持つプロなのですが、褒められてガッカリしてしまうのは前述の私と同様に「それって本心なの?」という猜疑心(少しオーバーですが…)がはたらくからだと思います。
 
 私も同じ経験がしばしばあります。どう見ても素材が合わないパンツに対し試着したジャケットでコーディネイトできると言われた時「いえいえ、他にもパンツたくさん持っていますよ」と心の中でつぶやいていますし、90代の母のアウター探しでサイズをみるため身体に服をあてていると「お似合いです」と言われた時には笑うしかありません。それってホントにそう思っているの?と。
 
 もうひとつ言われてハテナ?になる接客セリフに「私も使っています」「私も着ています」という言葉。接客をする側の人にとっては便利なセリフなのでしょう。よく聞く言葉です。「私が使うぐらい、着るぐらいなので良い物ですよ」と商品の良さをアピールするフレーズなのだと思います。
 
 しかしお客様の目線では、自分より数段美人でセンスよく肌もきれいなスタッフに限りこの言葉を言われてはじめて納得がいくセリフなので大概の場合、お客様はしらけた気分になるものです。そして接客トークの常套句になっているので「持っている、着ている、使っている」と言われると“それってホント?”とも思ってしまいます。

 
 

●お世辞は見抜かれる
 こんな私たちの日頃の体験について、ある日、社内ミーティングで話題になりました。
 
 相手の気分が良くなるコミュニケーションはどのようにしたらよいか。ましてや接客となると基本は初めて会ったお客様という立場の相手です。良い関係づくりのために「お世辞は大切だけど使い方が問題」という方向に話が進みました。
 
 そこで改めて“お世辞”を辞書で調べてみると「相手の機嫌を取ろうとして口先だけの褒め言葉や心にもない事を愛想のために言う」という意味が記されており驚きました。長い間、“お世辞”とは少しの事をオーバーに褒める意味だと間違って理解していました。
 
 この調べから問題がはっきりと見えてきました。心にもない事をご機嫌取りで言う“お世辞”は接客にはNGなのです。本心から感じた事、思った事を言わないと相手の気分は良くならない。見え透いた褒め言葉は人の気持ちを遠ざけるものです。
 
 さらにベテランS女史がなるほどという名言を言ってくれました。「みんなよく現状や相手を見ていない。よく見てみれば相手が服装でも意識をおいているポイントが発見できるし、メイクや肌の状態やスタイル等々褒めるべき点がどこなのかが見えてくるはず。まず相手をよく見て本心で感じて言葉にする。それが相手にとって好印象になり、真の愛想のある接客になるはず。お世辞は見抜かれる」

 
 
 ウィズコロナの時、お客様の来店も少なくなりがちです。どんな業種の店であっても真に愛想のよい気の利いた接客を心掛けて、再来店に結び付けていきたいものです。
 
(記:島村 美由紀/販売士 第38号(令和2年9月10日発行)女性視点の店づくり㉓掲載)