販売士
あなたの背中はいかがですか?
●「親の背を見て子は育つ」 信頼と愛想良しの背中の場合
いきなり古いことわざから始まりましたが、今回は“モデルを見習う”をテーマにお話をしたいと思います。
舞台はコロナ禍で3密回避スポーツとして人気上昇、新しいお客様も増えているゴルフ場です。
数年前、Aゴルフ場に行き始めた頃、入口には大きなポスターが掲げられ「今日も笑顔で!」のキャッチコピーと共に支配人や受付スタッフの溢れるような笑顔の写真で私たちを迎えてくれました。
気分気分良く受付カウンターに進むとポスターの笑顔とは別人のような仏頂面の女性たちがお客様をさばき、事務的にチェックインを進めていきます。「あれ?この女の子はポスターの笑顔のあの人だよね?」と思わず確認してしまうほどの無の表情。ポスターはブラックジョークだ、と私なりの解釈をし時が経ちました。
ある時、若い女性の鈴木さん(仮名)が入社され受付に立つようになりました。優しい丸顔の鈴木さんは「おはようございます」「暑い日だから気を付けて下さい」「お待ちしていました」などととても爽やかに会話ができる人です。この鈴木さんの入社以来、受付の雰囲気がガラッと変わり“気が利き、フレッシュな明るさで愛想良し”という三拍子そろった受付チームに大きく変身したのです。
鈴木さんの影響力が強くて古いスタッフが見習って良くなったのか、人材が入れ替わり新人が鈴木さんを見習ったのか定かではありませんが、ともかく「今日も笑顔で!」のポスターが実現されたフロント業務となり今では鈴木さんを筆頭に女性スタッフ、新人の男性スタッフが若々しく感じの良いフロント業務をこなしているゴルフ場に進化しています。
昨年秋にはこんな事がありました。チェックアウトでフロントに行くと、鈴木さんが「お誕生日おめでとうございます」と言ってくれたのです。おそらく精算業務でPCの個人情報からのひと言だと思いますが、うれしい言葉でますます鈴木さんを好きになりました。今年も気がついてくれることに期待です。
Bゴルフ場には受付の達人上野さん(仮名)がいます。ご存知の通り、ゴルフ場にはクラブ会員であるメンバーと一般のゲストが来場しますが、達人である上野さんは特にメンバーへの目配りが行き届いたベテランさんで「○○さん月例競技の申し込みが始まっていますよ」とか「スタート時間、早めに調整しましょうか」とかそのメンバーの状況に応じた気配りを積極的におこない声掛けをしてくれます。
上野さんは大柄でオカッパ頭の個性派40代。初めて会った時はそのゴルフ場の渋いたたずまいと上野さんのダイナミックな雰囲気に違和感を覚えましたが、上野さんの達人ぶりに何度も助けられ今では電話に上野さんが出てくれるとホッとする気持ちになります。
時々知人をゲストとしてBゴルフ場に誘った時「達人の上野さんに注目して」と事前に伝えておくと、サービス業の知人からも「フレンドリーで気の付く対応。存在感ある人だね」と評価されます。Bゴルフ場では達人上野さんを見習って他の受付女性スタッフたちがとても気の利いた対応をしてくれ信頼でき安心感のあるクラブです。
●ツンツンさんの背中の場合
そのエリアでは名門と評されるCゴルフ場はアプローチからクラブハウス前に車を停めるまで「さすが名門」の品格があるクラブです。ロビーも素敵なインテリアでワクワク気分でいざ受付へ。
そこには整った雰囲気の品の良い女性が待ち構えています。チェックインの手間は数分間ですが冷たい空気が流れます。「あれ、私なんかマズい事をしたかしら?」と思うほどのツンツン感。帰りのチェックアウト時もツンツン続行で驚きました。
何度か通う中でこの平井さん(仮名)を観察すると①言葉に抑揚なし②物の受け渡しが雑③表情が硬い④愛想なし、がツンツン感に結び付いていることが分かってきました。
毎回のツンツン攻撃を打破するためある時こちらから話しかけてみました。「売店で売ってる○○玉子って有名なのですか」と尋ねたら「そーですね」の一言。よほど私のことが嫌いなのだとがっくりしたものですが、古いメンバーさんにこの話をすると「あー、あの人は僕にも同じ態度だよ」との事なので生粋のツンツンさんなのだと分かりました。
平井さんは受付のリーダーなのでCゴルフ場受付にはミニツンツンさんが複数人います。コロナ禍になってからはチェックアウト時にホルダー(ロッカーキーが付いたカードホルダー)を返却するとサッと受け取り目の前で勢いよく消毒しゴシゴシと拭きあげていきます。何だが私が菌を持っているような。。。と思いきや、カウンターの隣ブースでもミニツンツンさんがお客様の目の前でゴシゴシとホルダーの消毒をしていました。(苦笑)
各ゴルフ場は私がよく行くクラブで、ご紹介した話は日常的体験談です。こんな体験をするたびに私の頭の上に「親の背を見て子は育つ」という吹き出しが出てきます。子どもは親の良い面も悪い面もすべて常識として受け止め身につけるという意味のことわざです。
若いリーダーの鈴木さん、達人リーダーの上野さん、ツンツンリーダーの平井さん、この3人のリーダーの背中を見て次の世代が育っています。特に女性は同じ女性をモデルにしやすいので、同性モデルを日常的に見て覚えなれていく➝見習っていき成長していきます。それがご紹介したようなそれぞれのチームの存在感を形成しているわけです。Aクラブには鈴木カラーが、Bクラブには上野カラーが、Cクラブには平井カラーが良くも悪くも出来上がっています。
リーダーの背中は極めて重要なポイントですね。あなたの背中はいかがですか。
(記:島村 美由紀/販売士 第41号(令和3年9月10日発行)女性視点の店づくり㉗掲載掲載)