MAGAZINE

2010.01.23

不動産フォーラム21

「2010年・時代のココロ」

 

 瞬く間に2009年が過ぎ、新しい年となりました。

 

 商業にかかわり消費者の姿を見続けて四半世紀の時を重ねてきた私ですが、1年という短期間に消費者が次のステージへと移っていく様子がはっきりと見て取れた年は他にはないほど2009年は興味深い年でした。単に景気後退が影響しての消費行動変化ではなく、生活への眼差しや人生への価値の見いだし方変化といったような「人々の基本意識が変わってきた」と強く感じた年となりました。

 

 そこで、2010年がどんな年になるのか?新年を迎えるにあたり私の感じている「2010年・時代のココロ」をお話ししてみたいと思います。

 

<時代のココロ―その1>
ECOのカッコいい当たり前さ

 この1年で最も人々の意識変化があったのは“環境への配慮”ではないでしょうか。スーパーマーケットに買物に行くと「バッグをお持ちですか?」と聞かれることがしばしばになりましたし、多くの買物客がマイバッグを持参し、手ぶらで出かけると何となく気が引けるような気分になるこの頃となりました。

 

 また、外出にマイタンブラー持参の人も増えてきました。打ち合わせや会議の折、カバンの中からお茶の入ったマイタンブラーを出すのが女性ばかりでなく男性ビジネスマンにも広がり始めています。

 

 どれもECOへの小さな行動ですが、1年前にはごく少数派だった動きが今では多数派になりつつある個を単位としたECO活動です。

 

 我が家は二人家族ですが、それでもペットボトルやスーパーの袋、新聞紙、一般ゴミ等、結構な量のゴミが出るので、整理していると「これっていいのかしら?」という素朴な疑問が起こる毎日ですから、育ち盛りの子供がいる家庭では「これではいけない!!」というECO意識が働いて当然。特にこの頃は小学校で環境教育を積極的に行っているそうなので、大人以上に子供達がECOへの目線を鋭く持つようになっています。この子供達はECOをカッコよく当たり前に受け止めて行動していくはずですから、この子供達が成長するにつれ、生活の中のECO活動はいま以上に加速をつけて街のあちらこちらで行われることになるはずです。

 

 2009年の「全国ヒット商品番付」東の横綱はハイブリッド車などの「エコカー」でした。エコカーを代表するトヨタの「プリウス」は1月~10月で15万台が売れたそうです。先日、乗車したタクシーがプリウスだったので「これプリウスですネ」とドライバーに声をかけたら「プリウスにして4年たちますが、以前はお客さんの前に止まっても形が違うので乗ってもらえなかったけれど、近頃はプリウスだネと、よく声をかけられ楽しんで乗ってくれますよ」と話してくれました。これがまさに時代のココロです。ご近所の30代前半の綺麗なミセスもBMWやメルセデスでなくプリウスで子供達とお出掛けしていきます。「カッコいいECO」を当たり前に生活スタイルにしていく消費者。こんな人々が確実に増えてきました。

 

<時代のココロ―その2>
「規格外」「ワケあり」への関心

 曲がっている、小さい、傷がある、ちょっと崩れた―いままでは相手にされず市場に出回らなかった「規格外」「ワケあり」の物たちの見直しが始まりました。

 

 一般に農家が作る野菜のうち20~30%に規格外が生まれ、処分されてしまうそうなのですが、今年は不景気とあって、今まで日の目を見なかった規格外にスポットが当たり漬物や加工品に積極利用され、好評となったそうです。また型崩れしたケーキのネット通販や輸送中に傷付いた家具をネット販売する家具メーカーもあり、「規格外」「ワケあり」がマイナーな存在ではなくメジャーなステージに躍り出てくたのは、2009年の流通のおもしろい出来事ではないでしょうか。

 

 今までの消費者であれば全く関心を示さなかったOUTな物たちですが、どこかで私達の意識の奥に「こんなまっすぐできれいな野菜ばかりは何だか変」とか「このきれいな一品のために無駄になっているモノがあるかもしれない」といった無意識の意識が働いていました。それが「実はこんなワケありや規格外があって、味や機能はgoodだからけっこうイケてる」と知らせてもらえて、「やっぱりね。だったら捨てないで食べようよ。使おうよ。」という受け入れるキャパを持った消費者が表れています。私自身もそんな一人。不ぞろいの野菜は手作り感があってかわいいし、型崩れしたケーキは手づかみでガブリ、が親しい来客にウケました。作っている人の気持ちや手間を考えると「もったいないコト」はしたくない。これも前述のエコロジーにつながる時代のココロのひとつではないでしょうか。

 

 さらにこの「規格外」「ワケあり」の延長線所に古着等の中古市場がありますが、今や古着は「ユーズドファッション」として30代以下の世代ではお洒落に欠かせないカテゴリーのひとつとなり「汚れや傷は前の人のぬくもり」ととらえられる感性商品になっています。

 

 生産者の都合でルールや基準ができたのに対し消費者が無駄をしないでモノを楽しむ新価値コードがまさってきた時代感覚です。

 

<時代のココロ―その3>
「イクメン」の登場

 「イクメン」という言葉を聞いたことがありますか?育児を楽しむ男性のことで、近頃のパパ達の間で「イクメン」が急増しています。

 

 私の知人若パパ(31歳、スポーツクラブインストラクター)が「正月は息子と二人で旅行をするつもり」と言っていました。「エッ、息子さんてまだ2歳でしょ?家族で出かけないの?」と聞くと、「今から男同士で旅をしたいんだ」との答えで、ちょっとびっくりしたのですが、単に積極的育児参加のパパという「イクメン」ではなく、「こだわりのイクメン族」が急増しています。

 

 “父と息子の男同士の絆”なんて長い間忘れていた言葉ですが、日本の成熟期に生まれ、物質的豊かさの中で育った団塊ジュニア世代(30代前半~半ば)やプリクラ世代(20代半ば~後半)の男性達が、父親になった今、父としてのココロのあり方や男としてのあり方を取り戻そうとしている表れと分析されています。

 

 また豊かな時代に育った世代のため、育児はカッコよくとばかり男性が押してもサマになる外国製のベビーカーやパパと息子のペアファッションが売れているそうです。

 

 家族崩壊が問題になったのは90年代でしたが、そのころにモノごころがついた20代、30代の若年層が、結婚をし子供を持つ時、若年世代の男性の生活感や人生観に変化が生まれ新しい家族像が登場しています。

 

<時代のココロ―その4>
体験感動・感動共有への欲求

 久しぶりに沖縄へ行ったらランニングをする人々を多数見かけました。那覇マラソンへの準備だそうで、毎年12月に行われる市民マラソンは年々参加者が増え2万5千人を超えるほどで、街がすごい盛り上がり状況になるそうです。

 

 盛り上がるといえば有名な「東京マラソン」は2007年から始まりましたが、参加者が増えに増え、今では抽選により決めるほどになりました。2009年3月に行われた同大会は、前年の2008年7月から2ヶ月間の申込期間で定員3万51千人に対し26万1,981人もの申し込みがあったそうです。他のマラソン大会でも同様の状況が起こっています。

 

 さらに、走る人達ばかりでなく大会を運営するためのサポーターへの応募も年々申し込みが増え、有名大会ではこれも抽選になるほどだそうです。当然ボランティアで無償でランナーに水や食べ物を渡したり、場内整備にあたったりという裏方仕事ですが、皆嬉々として取り組んでいます。

 

 フルマラソン・ハーフマラソン、そしてそれを支えるボランティアによるサポートワーク。知らない人同士が、スポーツ(マラソン)を通して時間共有、体験共有をしていくステージは、消費者が日常では味わえない他人との絆や結び付きをもたらしてくれ、「感動」という大きなココロの充足感をもたらしてくれます。私の知人も昨年からマラソンを始め、各地の大会に出場していますが、多くの人々との「感動共有」という精神の満足を得ているそうです。

 

 70年代、野外でフォークやロックのコンサートが開催されましたが、近頃は“野フェス”といわれる春・夏場の野外ライブがまた若者の間でトレンドになっています。女子の間では“野フェスファッション”も注目されているとか・・・。知らない人と友人になり体験・感動を共有する。これも90年代にはなかった時代の求めるココロです。

 

 物質的欲求を持たなくなった消費者は、いまどこに行こうとしているのでしょうか。少なくとも2009年の変化の中に、その答えは隠されているように見えますし、2010年にも、絆づくりや感動共有やECO意識など、私達の時代への眼差しは深くなっていくはずです。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2010年1月号掲載)