2008.03.26
日経流通新聞
「200円のコーヒー自販機 にくい演出で納得の価格」
面白い自販機を高速道路のサービスエリアで見つけた。一見何の変哲もない普通のコーヒー販売機なのだが、コインを投入するとマシン上部のスクリーンに映像が映し出される。焙煎(ばいせん)されたコーヒー豆がコーヒーミルで粉砕され、こはく色のコーヒーがサーバーにたまるというまるで香りまでが漂ってくるような風景がそこにある。そしてにくい演出は数十秒間のドリップ中に映されるコーヒーサーバーの中に『あなたのためにドリップ中』という文字が刻まれ、「コーヒールンバ」のリズミカルなBGMが流される。大半の客は自販機の中の機械が私のためにけなげに働いてくれるシーンをジーっと見つめている。
さて、私のためにドリップされたコーヒーはサーバーからカップに注がれた後、シアトル系の有名コーヒー店のようにカップにフタがカパっとセットされ、スクリーンの奥にスルスルと流れて消えていく……。と思いきや自販機中央の受取口にその姿を登場させ、「おまちどうさま」。私のためにわざわざドリップされたいい香りのコーヒーが出来上がりとなる。
所要時間一分弱、値段は二百円。今までのコーヒー自販機では考えられない待ち時間の長さと約二倍の価格だが、多くの客は”納得消費”で満足度が高い。理由は簡単。「安かろうまずかろう」の自販機がプラス百円で価値ある味を提供したこと。待たせ時間を機械の中をのぞかせるという意外性で克服し、動きのない数十秒間に「あなたのためにドリップ中」という神髄をついたパンチあるひと言で、客の心をつかんだこと。見事な企画力だと感心した。
(記:島村美由紀/日経流通新聞「How To 商い」 2008年3月26日掲載)