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2013.04.15

SC JAPAN TODAY

「 消費者の気分で使い分けされるSCスタイルとは? 」

 

 都市には多種多様なSCが開発され、買物の楽しみ方も時と場所と状況に合わせてSCを選び使い分けする時代になった。特に1990年以降が大都市を中心にソフト&ハードともに整備されたクオリティの高いSCが多彩なスタイルで展開され、消費者のショッピングシーンにメリハリを提供している。

 モノ余りの成熟した消費社会では「天気が良いからA施設ではなく、テラスが気持ち良いB施設まで足を伸ばしてみよう」とか「○○さんと一緒だからC施設よりD施設の方が気分がピッタリ」というように、直接的な物品購入の目的以上に消費者がその日の気分や同行者のグルーピングによってSCを選別している。

 では、人々がどのような感覚やニーズでSCを選別しているのか、消費者感覚とSCタイプの関係性について考察してみよう。

 

①自分ご褒美&目に保養

 頑張った自分にご褒美の買い物をするという消費行動が女性にはある。通常より贅沢な憧れの店や品に出会いにSCへ行くのだから、ラグジュアリーブランドや宝飾店、高級セレクトショップ等が集積している都心型SCが女性のご褒美ゴコロを満たす存在になる。

 東京ミッドタウン(2007年開業。以下同)、表参道ヒルズ(2006年)、ミッドランドスクエア(2007年)ハービスPLAZA ENT(2004年)等がそのニーズに応える代表SCだ。

 ときに女性達は平常時にもこれらSCで、高級品や憧れ品を「目の保養」と称してウィンドウショッピングすることで、心を和ます傾向にある。

 

②シーズン先取りお洒落

 桜の花が開花する頃、秋風を感じる頃、ファッショニスタ(ファッションに敏感な人)は、早々に春夏・秋冬のトレンドファッションをチェックするために都心のファッションビルに向かう。そのSCには、セレクトショップやデザイナーブランド等、いち早くシーズンのトレンドアイテムをマストチェック&マストバイできる国内外の代表的ファッション店や服飾雑貨店が約130~250店程度揃い、お洒落好きの感性を満足させる各都市NO.1の高感度商業施設として支持されるSCである。

 たとえばルミネ新宿店(1976年)、ルクア(2011年)、札幌ステラプレイス(2003年)、ルミネ横浜店(1980年)がそれにあたるが、いずれも年間売上げが350億円~450億円という規模で実績としても地域NO.1を誇る実力派SCである。

 

③コンパクトショッピング

 ビジネスパーソンのアフター5の束の間の立ち寄りで、必要なモノや欲しい物ニーズを満たしてくれる程良い感度と利便性を備えたSCは、②であげたSCとは存在を異にする都市型SCとして多くの消費者に認知されている。店舗構成はファッションばかりではなく、生活雑貨や本、サービス、印象等も充実し、老若男女の実用・実売を軸とするSCである。

 たとえばアトレ恵比寿(1997年)、ルミネ有楽町(2011年)、丸ビル(2002年)が東京の代表例だが、特筆すべきは女性の「束の間立ち寄りでも見残しなく館内を周りたい」という欲張りゴコロに応えるべく売場面積3500~4500坪の中規模サイズが成功しているSCといえる。

 

④カジュアルなご近所遊び

 近年のSC進化で最も目を見張るのが郊外SCのクオリティアップであろう。2000年前の郊外SCは日常最寄りMDを軸とするGMS+廉価系専門店集積が定番であった。それが、大手不動産系や小売系ディベロッパーの郊外SC開発により、ファッションセレクトテナントの郊外向け業態開発店舗や、グルメな食品売場(一部では百貨店のデパ地下部門進出)、上質フードコートの誕生、シネコン等娯楽系テナントの郊外進出、生活雑貨業態の進化、さらに環境デザインへの目配りもおこなわれた。こうした総合力により都心感度に近似した質の良い郊外SCが全国で計画され、ららぽーと横浜(2007年)、ららぽーと磐田(2009年)、流山おおたかの森ショッピングセンター(2007年)等が誕生した。

 この結果、ファミリー層はもちろんのこと、若年層のカップルや女子会等、わざわざ休日に都心へ向かう必要がなくなり「天気も良いしちょっとピクニック気分で郊外SCへ」という日常の小晴れ気分を楽しむ“ご近所SC遊び”が始まった。特に子育て期の若ママ層やアクティブシニア層は、安心・安全な環境と、イベント等への参加で人と知り合えるきっかけも得られることから新郊外SCを日常生活の拠点としている。

 

⑤三世代消費・オトナ母娘消費

 核家族化、高齢化に伴い親族の絆づくりへの欲求は年々高まりを見せている。特にシニア層に金銭的余裕と健康志向の高まりで活力ある人々が増え、ミドル世代女性の美魔女化、若年層は晩婚化・未婚化傾向が強くなり、祖父母・子・孫の集うステージや、40~60母親と20~30代娘という母娘仲良しの活動のステージが、SCに求められるようになった。

 ラゾーナ川崎プラザ(2006年)、テラスモール湘南(2011年)、阪急西宮ガーデンズ(2008年)では、平日休日問わずおじいさん・おばあさんとその息子や娘、孫が楽しそうに買い物や食事やゲームをしている姿を見かける。要は祖父母世代が理解可能な定番系と今どき感とが合わさり、MDバランスが取れているか、休憩スペースの有無、飲食店の充実、ワサワサしない大規模感等でシニア世代が気分良く財布を開けるかがポイントになってくる。前述の3SCはどこもシニア世代のお眼鏡に適うSCとして広域から集客を果たしている。

 また大人母娘消費は若い気分でいたい(または若い気分を取り戻したい)母親層とパラサイト傾向にある娘のデート場所として玉川高島屋ショッピングセンター(1969年)、ラシック(2005年)、若め母娘ではソラリアプラザ(1989年)、サンシャインシティアルパ(1978年)等が活用されている。

 娘のファッションだけでなく若くありたい母が試せるオバサン服ではないレディスファッションや、共同で使えそうな服飾座下(靴、バッグ、アクセサリー)、百貨店にはないオーガニックコスメや今どきコスメ店、共通の関心事である生活雑貨店、そして何より楽しみなお洒落カフェがあることが母娘デートのマストアイテムになっている。

 親族の絆消費は今後もますますニーズが高まるであろう。

 

⑥TVで見たあそこであれが買いたい―都心型観光商業

 東京スカイツリーの足元に立地する東京ソラマチ(2012年)、横浜赤レンガ倉庫(1999年)、ダイバーシティ東京プラザ(2012年)、キャナルシティ博多(1996年)は「テレビで見たあそこに行ってみたい」という地元客・国内外からの観光客を集客する都市観光の強力なSCの代表格である。特に東京ソラマチは2012年の日経ヒット商品番付で東京スカイツリーが東の横綱にランクされソラマチも合わせて空前のブームを巻き起こしたことは記憶に新しい。

 ある時、お台場で60代の女性からカメラのシャッターを押してほしいと頼まれた。女性は東京の夜景をバックに一人で写真に収まったが、「東京に住む息子に会いに来たが、TVで見た台場に来てみたかった」と、TVで見たお土産品をたくさん抱えていた。

 メディアが都市の観光商業を生み出す時代になってきた。

 

⑦“期待大の寄り道・道草”

 発展し続ける東京駅グランスタ(2007年)等のエキナカ・エキチカ、ネオパーサ清水(2012年)等の変化し続ける高速道路のSA・PA、どちらも交通拠点という立地を活かした新発想商業ステージであるが、基本的な消費者ニーズはいたって素朴な「駅にこんなものが売っていたら便利なのに」「サービスエリアがもっとキレイだったら」という不足・不満に対する思いから始まったものであろう。それが事業者によって、より楽しく快適に美味しくというスタイルに変化したのがエキナカやSA・PAの現在の姿。

 今では他にはないココだけの限定や希少性への期待も増大していき、従来型の駅商業やSA・PAであると「なーんだ」とがっかりする程、賑やかなエキナカ、SA・PAという寄り道・道草ニーズは拡大している。

 

 消費者の気分の多様化は年々複雑化してきている。デフレからインフレ傾向が強まると予測される2013年以降、また新たな消費者の気分が新SCスタイルを生み出していくに違いない。

 

 

(記:島村 美由紀/SC JAPAN TODAY  2013年4月号掲載)