不動産フォーラム21
「 不況に強い 名古屋ライフスタイル 」
先日、出張先の名古屋でスタッフにうなぎの櫃まぶしをご馳走したところ、全員がすごい勢いで完食をし、「美味しかった」と絶賛されました。私も10年前に櫃まぶしを初めて食した時は「これは東京のうな重に勝るとも劣らない名古屋の一品」と感動したものです。
書物で調べると、うなぎの人口養殖が発達する前の時代、うなぎの品質にバラつきがあったため、市場に出せないうなぎは捨てていたそうです。これを「もってゃあにゃあ」と思った料理人が、蒲焼きを細かく刻むことによって複数人に均等に盛り付ける工夫をし、捨てるうなぎがなくなって効率化が図れたそう。名古屋人の「もったいない精神」が生んだ食文化です。きしめんも、麺を平たくすることで熱のとおりとダシのしみ込みをよくするために工夫された麺への工夫だそう。納得できる名古屋の優れた知恵の食文化です。
このところ縁があって名古屋に通っていましたが、「名古屋における堅実生活」が、なかなか時代対応力に富み今ドキ感のあるライフスタイルなのではないか、と気付かされました。新しい発見のあった名古屋ライフスタイルについてお話いたしましょう。
名古屋エレガンスファッションは女の花道か?
数年前、ファッションの世界では“名古屋エレガンス”というお嬢様ファッションが一世を風靡しました。また、“名古屋巻き”というゆるくカールしたロングヘアースタイルも有名です。なぜ名古屋は“もて系ファッション(男性からの注目が集まるフェミニンなスタイル)”が生まれるエリアなのか?以前より不思議に思っていました。
知人いわく、「愛知県は、日本の自動車産業や窯業、精密機械産業を軸とする工業県であり、大企業だけでなくそれを支える中小企業がたくさんあるため、その経営者の数も多くお嬢様比率が高い」という、一見なるほどと思わせる珍説を唱えていました。
ここ最近行われたアンケート結果があります(図表1:写真左)。名古屋の男性621名と女性638名に親世代からの金銭援助について聞いたところ、10~50代の男女、年齢問わず、親からの援助を受けているという驚きの結果が出てきました。特に私たちが注目をし首をかしげたのが、女性30代:17%、40代:17.1%、50代:7.9%というアンケート結果です。30代以上になれば既婚者が主になっていると思われますが、結婚してもなお実家からの実家からの金銭援助の必要があるのか(中にはそういう家庭もあるでしょうが、データに表れるほどの比率であることへの驚きの意)。いろいろ考えをめぐらせたところ、名古屋在住者が「名古屋では、娘は嫁に行っても実家で支え続けるもの。出産から孫にまつわるさまざまなお祝い事、住宅購入や孫の教育・結婚に至るまで実家が支援を続けることが習慣になっている」と教えてくれました。また、「名古屋はほどよく都会でほどよく田舎でもある。人口も224万人規模で地場産業も活発で経済都市でもある。公立学校のレベルも高く教育環境も整っており、働く先もあれば住宅も手に入れやすい。この暮らしやすい名古屋を捨ててわざわざ暮らしにくい大都市へ出ていく必要はない」という名古屋の人々の声も聞こえてきます。流入はあっても流出は少ない名古屋、ゆえに昔から長く名古屋に居住する人が多く、地元同士の結婚比率が高いのだそうです。となると、おのずと女性は、より条件の良い地元男性ゲットを目指し、娘の親も家格・家勢の良い先へ娘を嫁がせたい志向がはたらき、結婚後も地元の身近な中で娘を支え続けて血縁のバランスをとるという親娘のライフスタイルが生まれているようです。
名古屋エレガンス・名古屋巻きの源は、親娘のライフスタイルにあったのですね。ちなみに図表2(写真左中)にみるように、男女問わず親からの金銭的援助を受けている人たちは、1,000万円以上の年収の人たちにも多くあり、親の援助は生活苦ではなく慣習であり、一部の名古屋人によると、結婚準備の豪華さや日常的な援助は「お祝いや助け感覚ではなく、財産分与感覚である」という発言も聞きました。
名古屋の堅実精神
一般的に「名古屋の人はケチ」と言われています。が、名古屋の百貨店やファッションビルに行くと、多くの人々が楽しそうに買物をしているのでケチではなさそうに見えます。知人いわく、「名古屋人は賢いお金の使い方をする。物を買う時は一生使える上質な品を高額でも選んで大切に使う。また目先の安さに惑わされず、どれだけ長持ちするか、どれだけ満足できるかのお値打ち感を大切にし、気に入ったものが探せなければ、妥協せずに買わないでがまんする」のだそうです。この知人の発言には納得できるものがあります。あるラグジュアリーブランドショップのマネージャーは「東京ではブランドのマークやロゴがそこはかとなく見え隠れするデザインが売れ、大阪では雑誌等で紹介されたトレンドデザインに人気が集まる。名古屋では大きくマークやロゴが強調されたデザインが一番人気で、遠めにもブランド品を着ている、持っていることがわかるということが購入ポイントになるようだ」と話していました。これが名古屋のお値打ち感の一例ではないでしょうか。
さて、図表3(写真右中)をご覧ください。2006年度の政令指定都市における一世帯あたりの年間収入と貯蓄高を表したグラフですが、名古屋は年間収入でいうと政令指定都市中5位ですが、貯蓄額では東京都区部に次ぐ第2位という結果になり、安定収入を貯蓄に回す名古屋人気質がデータで物語られる結果が出ています。また、図表4(写真右)にある一世帯あたりの年間家計資産においても名古屋は複数のカテゴリーにおいて常に上位にランキングされています。
なぜ名古屋人は貯蓄好きなのでしょうか。一説には、流出の少ない地域社会の中でお金のかかる冠婚葬祭のための準備として、という理由もあれば、貯蓄や資産を事あるごとに子供や孫に援助という形で分配するため、という理由もあるそうです。どちらにしても、地域社会の中で血族がつながりあって安定した暮らしを営み、無駄な物へはお金を使わず、堅く地味に暮らしていく名古屋ライフスタイルは、根強いものを感じさせます。
2005年の愛知博が大きなトリガーになり、名古屋は2000年代を代表する元気な都市として近年注目をされてきました。名古屋駅前開発・中部国際空港の開港・名古屋港の活性化と、ヒト・モノ・カネが流出入するインフラも、全国政令指定都市の中では優れた機能を持っています。
日本全体が外に外に向かって流出していく時代、家族がバラバラに分散された時代、目先の美しさや珍しさで物を消費した時代が終わろうとする今、名古屋の捨てる物を活かせる物へ工夫する視点、流出より地域の中で血族を大切にして暮らす習慣、自分なりのお値打ち尺度を持った堅実消費等、名古屋は一見地味な存在ながら、この不況の時代になかなか今ドキの守備感覚を持った都市スタイルがあることに気付かされました。
(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2008年12月号掲載)