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2009.06.07

不動産フォーラム21

「 ファストファッションと街の新陳代謝 」

 

 昨年のリーマンショック以来、「街に行列ができた」という話題はほとんど聞かなくなりましたが、昨年9月の「H&M」銀座店オープン、今年4月の「フォーエバー21」原宿店オープンの行列は、久しぶりの街の賑わいトピックスとしてニュースになりました。「H&M」は2~3時間待ちが報道され閑古鳥が鳴くブランド街銀座をにぎやかにして、周辺のお店にもついで買いの集客をもたらしたそうです。「フォーエバー21」の原宿店はゴールデンウィーク中の開業とあって、不景気で遠出を控えた若者層の格好のお出掛けスポット化し、開店前に2,000人の行列ができJR原宿駅まで達したそうです。

 

 世の中不景気でドンヨリした空気が漂う中、こんな活気ある話題を提供してくれるのは、実は“黒船来航”と噂され日本の衣料品業界から恐れられている海外の“ファストファッション”と称される事業者なのです。

 

“ファストファッション”とは何ぞや!?

 まったくファッションに関心のない人も、“ファストファッション”という言葉を耳にする機会が増えているはずです。

 

 “ファストファッション”とは、流行の先端に近い感度やトレンド性をいち早く取り込みながら、最低限の品質を維持させ低価格で提供されるファッション商品のことを示す言葉で、外食産業のファストフードが語源といわれています。その世界的代表企業が「H&M」や「ZARA(ザラ 1998年に日本進出)」「フォーエバー21」で、日本を代表するアパレル企業ユニクロ(ファーストリテイリング)の数倍の売上高を誇り世界各地に出店を続けるグローバルプレイヤーの面々です。

 

 「H&M」(ヘネス・アンド・マウリッツ)はGAP(ギャップ 米国、売上17,402億円)、インディテックス[店名ZARA] (スペイン、同15,322億円)に次ぐ世界第3位の売上(13,710億円)を上げる大企業で、スウェーデンに本社があり、世界30ヶ国に1,600店舗強の出店を果たしています。ファストファッションとしての特徴は、スウェーデン本店に約100人のデザイナーと約60人のパタンナーがいて、流行を速攻で計画。さらに世界各地の生産地(H&Mは直営工場はない)に100人以上のバイヤーが控え提携工場で商品化を図り店頭に陳列するというシステムでトレンド性と低価格を実現しています。これでほぼ毎日、店頭に新しい商品が投入されていますが、日本の小売店では当たり前の“売れ筋の追加生産”は一切なく「売り切れ御免」の姿勢をとることで、消費者心理を上手にあおっています。さらに、超有名デザイナーや著名ファッションリーダー(ex.マドンナ)とのコラボレーション商品を次々に発売して話題提供も計画的です。従来の低価格衣料ではとても有名人を起用するデザインコストはかけられない、また著名人には低価格品デザインはイメージダウンになると考えられていた業界の定説を突き破った挑戦的な戦略でした。ちなみに昨年11月の原宿出店の折は、日本を代表する世界的デザイナーである川久保玲の「コムデギャルソン」とコラボ商品を販売し、単なる大衆層だけではないファッションこだわり高感度層の呼び込みにも成功したといわれています。

 

 「フォーエバー21」は、1981年に韓国から米国に移民した現会長ドン・チャン氏が84年にロサンゼルスに開いた「ファッション21」が母体となる小売店で、世界14ヶ国で直営・FCを合わせ約460店舗を出店しており、2008年の売上は約1,615億円で、H&Mに比較すると小さな企業ではありますが、急成長を続けている米国のファストファッションです。H&Mとの大きな違いは、H&Mが製造から販売まで一貫して行うSPA(製造小売、specialty store retailer of private label apparel)であるのに対し、「フォーエバー21」は大半の商品を2,000社以上ある納入業者を活用して、より安くよりトレンド性ある商品をバイイングしている商品調達力にあります。(これは日本でもユニクロがSPAであるのに対し、しまむらが仕入れ型であるという話と良く比較されて語られるポイントです。)「フォーエバー21」の開業8日間の来店客数は84,200人に上ったと聞いています。

 

 H&M、フォーエバー21と旬な海外ファストファッションの話をしてきましたが、日本にも日本流ファストファッションと称される優れた企業が複数あります。ユニクロ(ファーストリテイリング、売上5,855億円、世界第7位)、しまむら(同4,119億円、世界第12位)、ポイント(同867億円)がそれです。あえて日本流と書いたのは、ファストファッションの定義「トレンドを速攻で商品化へ」に対し、日本のそれら企業は日本の大衆マーケットニーズに合わせて低価格帯でベーシックファッション~ほどほどトレンドの領域を守り品質重視である点が、海外ファストと日本流ファストの違いであると思います。私もH&Mやフォーエバー21からユニクロ、ポイントの洋服を楽しく体験していますが、H&Mのコートは初日でボタンが取れ、フォーエバー21のワンピースは縫い外れを発見。でも「今っぽいからOKの着捨て感覚」でコートはすでに春の衣替えで若い知人にあげてしまいました。ワンピースも来年は着ないだろうなー。しかしユニクロやポイントの商品は通年通して愛用しています。普通のファッションで洗濯にも耐える質だからが理由。かなり便利です。

 

都心商業地でオセロゲームが起こるかファストファッションの進出衝撃

 4月24日にポイントが原宿の明治通り沿いに同社ブランドのすべてを集めた300坪の大型店を出店しました。ここはユニクロ原宿店(現UTストアハラジュク)の隣接地で、昨年倒産した不動産企業アーバンコーポレイションが保有していた物件の1F、「ヒューゴ・ボス」というインポートブランドが出店予定でしたが業績悪化で出店取りやめしたところ、ポイントがすぐに出店の名乗りを上げたそうです。ポイントは売上高867億円(対前年比117.3%)とユニクロに比較すると小規模会社ですが10年連続増収増益の高収益企業としてアパレル業界では評価の高い企業です。前述したフォーエバー21の出店も原宿明治通り沿い(以前は大型靴店)でH&Mの隣。これで原宿の神宮前交差点付近はH&M、GAP、ZARA、トップショップ、コレクトポイント(ポイント)、UT(ユニクロ)等、国内外ファストファッションの大集積地となりました。業界の噂ではこの流れは表参道にも及び、業績不振のラグジュアリーショップがファストファッションに入れ替わる可能性があるかもしれない。まるでオセロゲームの駒がパタパタと白から黒に変わってしまうように・・・とささやかれています。

 

 その噂を証明するかのように、銀座では中央通りに出店(2004年)していた「ブルックスブラザーズ」の閉店が決まり、その後には「ユニクロ」がユニクロ銀座店パート2を出店するそうです。また晴海通りに大型出店を予定していた「ルイヴィトン」が出店を断念した新築ビルにはGAPの旗艦店出店が決定しています。

 

 百貨店の長期低迷、円高によるインポートブランド、ラグジュアリーブランドの業績悪化、消費者の買い控えによる小売業の不振、どれをとっても明るい話が皆無の中で、ファストファッションの華やかな出店ニュースやユニクロの売上増のニュースは注目すべき動向です。2000年代後半の好景気で不動産価格が跳ね上がった一部エリアでは、空き店舗、空きビルが目立つようになってきました。オセロゲームの駒にたとえたように、商業地においては不動産価格の変動で旬のエネルギーを持つ企業や業態が旧業態に替わって新天地を求めて進出チャンスを狙っています。街の趣が激しく変化することには悪しき側面も多くあると思いますが、時代ニーズに応え得る旬な商業者の進出は、消費者にとって新しいライフスタイルとの出会いに結びつきます。進出したばかりのファストファッションの真価がわかるのはこれからですが、景気循環で商業地の新陳代謝が始まっています。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2009年6月号掲載)