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2008.06.10

不動産フォーラム21

「都市の商機はトラフィックポイントにあり」

 

 最新の新聞発表によると、JR各社は不動産や流通事業への本格的な取組みによって営業収益を伸ばし続けているそうです。例えば東日本では、ルミネ、アトレ等の好調な駅ビル事業に加え、業界の先陣を切った駅ナカビジネスで、大宮、品川の次となる立川にも商業スペースを開業し、人を集めています。西日本は岡山駅に「サンフェスタ岡山」、新神戸駅に「新神戸アントレマルシェ」を開業、京都駅ではすでに開業10周年を迎えた伊勢丹のリニューアルに加え駅ナカである「スバコ・ジェイアール京都伊勢丹」を開業して収益を拡大しています。

 

 日本の小売を代表する百貨店業界は11年連続で売上が減少し続け、チェーンストア業界も昨年売上対比を1.3%減少させている中、流通業界ではJR各社の快進撃が羨望の的となっています。

 

 2005年以降日本の人口が減少の一途をたどり始め、運輸事業の伸びに対する将来性は期待できないため、鉄道事業者が、駅という街の一等地を生かした不動産や流通事業に積極的に取り組んでいることは周知のとおりです。中には「駅で人を囲い込みすぎる」という批判的な意見も上がっていますが、日々何十万人、何百万人という人々が通過するバツグンの立地条件は商業に限らず魅力的なステージであるのです。特に昨年末以来、不景気風が人々の気分を冷え込ませている状況下では、駅という人の集まる拠点の強さをますます発揮する時となるでしょう。

 

 さて、鉄道と同様にバツグンに好立地は世の中に二つとないか?といったら、あるある!私たちが日常利用している高速道路が第2のJRになる可能性を持っており、各高速道路各社がJRに遅れまじと、活動を始め出しました。考えてみれば高速道路も日々人々が集まる交通拠点なのですよね。

 

1.進んで利用したくなる高速道路のサービスエリア

 高速道路上の移動では”休憩”がつきものですが、トイレに行き、車で縮こまった身体を伸ばし、自販機のコーヒーを飲んで、といったところがオーソドックスな“休憩メニュー”ではないでしょうか。まあ、「高速道路のサービスエリアなんてこんな程度」のイメージでした。

 

 2005年10月の分割・民営化後2年半が経過して、東日本高速道路(株)では通行料以外の新たな収益源として、サービスエリアやパーキングエリアの変革にいち早く着手を始めました。「あるから利用する施設」から「進んで利用したくなる施設」へというまさに利用者心理を言い当てた言葉で、『Pasar(パサール)』というサービスエリアの新ブランドをつくり上げ、10年間で20ヵ所を展開するそうです。“休憩”から“楽しみ”にイメージが変わるわけです。

 

 桜がほころぶ3月20日、「パサール幕張」が、東京から千葉を貫く京葉道路の下り線にオープンしました。この施設が東日本高速道路の変革サービスエリアの第1号で、「建物も店内も、まるでショッピングセンターみたい」というのは、地元に住む知人の弁ですが、言い得て妙、道路会社が真剣に商業施設づくりに取り組み始めた第1歩なのです。

 

 店内はなかなかお洒落です。フードコートにはさんさんと春の日差しが注がれ、子供用のイスもあり、メニューも豊富。今までの雑然としたスナックコーナーとは別世界の清潔・安心の快適空間です。館の一角には自然派ビュッフェレストランもあります。お楽しみのお土産売場はデパ地下雰囲気。和菓子やジェラートやプリン等、関東圏のメジャー店舗が出店し、どれを買おうか迷う買物の楽しさを初めてサービスエリアで体験しました。「パサール幕張」に出店するテナント19店舗中14店舗が高速道路初出店の店だそうです。旬な感じが出ている「パサール幕張」です。

 

 この施設の計画中には「女性をターゲットに」という意見に対し、「プロのドライバーが多い京葉高速道路に女性が来るわけがない」という反対意見もあり、かなり社内で議論したそうです。“男性  VS.女性”という視点もさることながら、「あるから利用」の消極的施設に対し「進んで利用」の積極的施設に大きく変革できれば、従来、立ち寄らなかった人や、最小限の利用であった人々が、「楽しむための目的利用に変わっていく」ということなのだなあー、と「パサール幕張」を見て感じます。「楽しそう、面白そう、美味しそう」は誰にとっても魅力的なこと。特に時間と好奇心に余裕のある層にとっては、高速道路を車で走っていても、“行きたい”気持ちは止められません。

 

 噂によると、東日本高速道路では日比谷のラグジュアリーホテルのペニンシュラをデザインした著名デザイナーによるシックなパーキングエリアを2009年度にはオープン予定とか。なかなかやりますネ、高速道路会社も。

 

2.ほかにもあるか、都市の商機ステージは?

 新聞記事を見て驚いたのですが、サービスエリアなどの「有料道路内事業所」の売場1㎡当たりの年間販売額は236万円で、街中の一般小売業平均の3倍強に達しているそうです。どこのお店でもお客様を集めるのに苦労が絶えない時代なのですが、高速道路というお客様を囲い込める場の強さは恐るべし、といった感じがあります。JRも同様の場の優位な特性を持っていますね。

 

 さて、都市にはほかにも“お客様囲い込みステージ”がないか?と考えてみると、“空港”という魅力的な空間が思い出されました。空港は、JRや高速道路以上に“囲い込みステージ”として強力な場ではないでしょうか。なぜなら人々は、旅立つ期待感や旅の終わりの思い出づくりに買物をする気満々。さらに飛行機に乗り込むまでの時間がたっぷりある、という好条件に恵まれている場なのですから。

 

 数年前にオランダの空港を利用して驚いたことがありました。空港のチェックインエリア内にダイヤモンドの裸石を売る店やシャンパンバーがあり、街中以上にショッピングアーケード化が進行していました。また、イギリスの空港の葉巻専門店やカナダの空港のコーヒー豆専門店等、「へェー」と感心するほどに買物ごころが満たされるショッピングステージが整っていました。

 

 日本ではどうでしょうか。どこの空港でも箱菓子売りの売店にラーメン、カレーの店ばかり。ちょっとさえない現実です。しかし最近、おもしろい取組みを始めた空港も登場しています。たとえば名古屋の中部国際空港の温泉施設導入はその好事例。飛行機に乗る人たちというより、街の人々が入浴に来ているそうです。また成田国際空港の新ブランド街「成田フィフスアベニュー」は、免税でかつ海外のデューティーフリーショップより欠品なく品揃えが豊富という女性の間の口コミ情報もあって、海外出発前からブランド品を買うお客様がかなりいるそうです。お客様の気持ちに合った工夫をすると、確実に集客効果は高まることがよくわかります。

 

 日本を代表する羽田空港は、年間の利用者数が約3,000万人いるそうですが、年々ビジネス等のヘビーユーザー率が高まり、空港滞留時間も短縮傾向になりつつあるそうです。飛行機に乗り慣れた人が増加して空港での待ち時間を最低限にしようとギリギリにチェックインするお客様が多くなり、同時に航空会社では携帯電話を端末にかざすだけでチェックイン可能なシステム導入に力を注いでいるので、ますます空港滞留時間が短くなる可能性が大きいわけです。羽田に限らず、日本中の空港が、人口減・ヘビーユーザー増・滞留時間短縮という三重苦を抱えていることになるわけですが、“非日常”という視点から見れば、鉄道、高速道路の数段上のレベルをいくハレの都市機能空間であることは間違いないのではないでしょうか。

 

 都市の“商機ステージ”は鉄道・高速道路・空港と、人々が移動拠点として利用するトラフィックポイントに大いなる可能性が潜在するようです。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2008年6月号掲載)