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2011.08.10

不動産フォーラム21

「進化するセルフ方式」

 

「セルフ方式ガソリンスタンド」初体験

 やや年齢を重ねてくると、世の中が便利・合理的と謳う技術やシステムに挑戦することが億劫になったり、挑戦しても方法の会得が難しかったりして、不便さや不合理性をおとなしく受け入れた生活をしている自分に気付くようになりました。

 

 先日は深夜にパソコンをのぞいていたら、欲しい商品が格安でオークションサイトにアップされており、残り時間30分で競り落とそうと画面指示に従って登録をしたのですが、何を間違えたのかなかなか正確な登録ができずに30分が経過してしまいました。欲しい物を逃したことよりパソコン操作ができなかった情けなさに少なからずショックを受けた秋の夜でした。

 

 ところが、そんな私でも最近遅ればせながら会得したシステムの一つに「セルフ式ガソリンスタンド」での給油があります。

 

 「ガソリンが手についたらいやだな。洋服が汚れるかもしれない。あんな大きな金属のかたまりのノズルを持つのも慣れていないし・・・」と長い間嫌っていた存在であったセルフ式ガソリンスタンドですが、東京都内では日増しに有人のガソリンスタンドが減少してしまい、最近では有人のガソリンスタンドを探して長い距離をドライブせざるを得ない状況になってしまいました。

 

 そこで私も少しは時代に適応していこうと勇気を持って近所のセルフ方式ガソリンスタンドに車を入れ、案内に従って自ら給油してみると、びっくりするほどの簡単さ。手が汚れる、大きなノズルがたいへんなんて考えていたことが嘘のように、今ではどこのガソリンスタンドでもラクラクスイスイと給油をしています。有人のガソリンスタンドでは時間がかかったり、「オイル交換やタイヤの空気圧は?」「車検も当方で」などとわずらわしい会話をしなくてはなりませんでしたが、セルフ式では気楽気軽の給油スタイルで、すっかり私のお気に入りになりました。時には自動洗車機で車をきれいにしたり、ぞうきんを借りて窓をふいたりと、「セルフ式ガソリンスタンド」の上級利用者へと私は進化を遂げています。

 

 調べによると、人件費等のコストを抑える店舗経営で1998年から導入が促進されたセルフ式ガソリンスタンドは、全国38,777ヶ所(2011年3月現在)ある全スタンドのうち8,449ヶ所と22%の比率を占めるほどに普及し、特に都心部における導入が進んでいるそうです。東京暮らしでは女性ドライバーといえども会得しなくてはいけない生活のシステムになっていたわけです。今年の私の小さな進歩の一話でした。

 

スーパーもセルフ式が始まっている

 セルフ式ガソリンスタンドのように、事業者の人件費の合理化等で導入されるセルフ式は、利用者にとっても「速い」「気楽」といった魅力をもたらしていくつかの分野で新規の普及が広まっています。そのひとつのおもしろい事例に、「スーパーのセルフレジ」が挙げられます。

 

 買い物客が自らレジで買った商品のバーコードを端末機に読み取らせ、現金や電子マネーで精算する方式のセルフレジは、量販店のイオンでは2,000台導入。西友では370店舗中40店で導入。イトーヨーカ堂では約10店舗で導入が計画されています。

 

 スーパーマーケット等でのセルフレジの導入は、2007年頃から始まりました。私も近所のイオンでセルフレジを見たときには、かなりの衝撃を受けて自分でもさっそく体験し多少のもたつきはありましたが案外と簡単便利な操作なので、以来、セルフレジがある店では買物の品数が少ないときに大いに活用しています。特にセルフ式レジでは、バーコードで読み取らせた商品をその場で袋詰めできるので、有人レジでは会計後に別の袋詰め台まで移動してから荷物をつくるという大仕事の手間が省け、時間短縮ばかりではなくたいへんな作業短縮にもなっているのです。

 

 今までの夕方のスーパーではレジの行列がつきもの。どの列のうしろに並ぶかは、大いなる分析力と判断力が要求されます。瞬間に前列の客のカゴの中身を観察し、カゴ山盛りの客のうしろは避けるのは常識ですが、カゴの中身が少量でもお年寄りの会計は小銭まできっちり出したがるので時間がかかりNG。また遠目で見たときに、男性客はあっさりした買物だからと思いがちですが、列のうしろに並ぶのは安易です。熟年男性(特にリタイア層)は、奥様のお手伝いで買物に来ているので意外と買物量が多かったり・・・と、有人レジでも行列の分析をして瞬時の判断から時間が早そうなレジにサッと並ぶ生活の技術が要求されていました。が、セルフレジにはまず年配者、大量買いの人は並ばないので、イライラなくラクラクスイスイの会計が可能となっています。

 

 日経新聞のアンケートによると、セルフレジの使用体験者は31%で、私と同様「待ち時間が少ない」が筆頭の理由となっていました。「使いたくない」、「使わなくなった」と回答した人たちも大勢いますが、「操作が難しそう」「操作がよく分からなかった」と、私のパソコン事例やガソリンスタンドエピソードに共通するセルフ式へのハードルとなる理由が挙げられています。「あ~あ、このハードルを乗り越えると便利な生活が待っているのになあー」とセルフ式をレジやガソリンスタンドでクリアしたやや強気の私はアンケートを見て残念に思いました。

 

生活周辺で進化するセルフ方式

 すでに全国を飛び回るビジネスマンにはおなじみになりつつあるのが、飛行機の搭乗時のチェックイン不要のマイレージクラブカードやおサイフケータイの所持によって、直接保安検査場から搭乗口の自動改札にスルーできる簡易システムです。ANAでは「SKIPサービス」、JALでは「タッチアンドゴーサービス」と呼ばれていますが、利用したことのない人でも時々自動改札機にマイレージカードやケータイをかざして通過する人の姿を目撃したことがあるのではないでしょうか。

 

 たぶん慣れた人にとっては評価される利便システムなのでしょうが、私は残念ながら利用したことはありません。理由は、簡易とはいわれつつも、カードやケータイをかざすごとにレシートが出てきて、気付くと飛行機に乗るまでに2~3枚のレシートを持たざるを得なくなり、あまり気分のよいものではないからです。これだけ資源の無駄遣いをやめようといわれている時代に、なぜ飛行機に一度乗るだけで複数枚のレシートを持たせられるのか?一度チャンスがあったら関係の方にお尋ねしてみたいところですが、簡易であっても合理的であるか否か、もう少し自分へ導入するためには研究が必要な気がしています。

 

 セルフ式の進化は民間企業にとどまらず、行政業務の中にも生活者にとって利便をもたらしてくれるシステムが昨年春から始まっています。それは、住民基本台帳カード利用による住民票や印鑑登録証明書のコンビニ交付です。すでに全国26市区町村がこの交付システムを導入していますが、コンビニ(セブンイレブン)のキオスク端末から住基カードで申し込むと、市区町村から住民票や印鑑証明のデータが取り寄せられ、これを印字し証明書として入手できるというシステムです。住基カードがあれば、全国どこのセブンイレブンからでも26市区町村の証明書が手に入るわけですから、仕事や家事の合間に役所へ交付申請に行ったあのわずらわしさを考えると、天国のようなセルフシステムですね。早く全市区町村の対応が可能になってほしいものです。

 

 世はまさに高齢化社会突入時代、進化する便利なセルフ方式に勇気を持って挑戦し、システムや技術の会得を心がけねば、快適な今の時代の暮らしを享受できない時になりました。

 

 80代の母に「学習する年寄り」などと言ってケータイやパソコンを持たせがんばらせている私ですが、自分が学習していかないと、時代から取り残されそうな気分です。

 

 できれば、企業の方々にお願いをしたいのですが、ステキなセルフ方式の導入には、高齢者にも理解しやすく会得しやすい技術やシステムの開発をよろしく!!

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2011年10月号 掲載)