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2013.01.06

月刊レジャー産業

「買い物に大きな喜びが見出せない時代に消費者が求める商業施設とは」

 

 近年は「札幌ステラプレイス」のコンサルティングや、「ラゾーナ川崎プラザ」「西鉄ソラリアプラザ」のリニューアル計画に携わるなど、都市計画、商業施設開発、業態開発などのコンセプトワークやトータルプロデュースを手掛ける島村美由紀氏。同氏に話を聞くなかでみえてきたのは、買い物に対する消費者の意識変化と今後SCが生き残っていくためのあるべき姿だ。

 

SCはレジャーではなく通過点に

―30年近くにわたりSC業界に携われていますが、昨今の業界動向をどのようにみていらっしゃいますか。

島村:
 2011年末のデータで、SCは全国に3090あります。小売販売総額のなかでSC売上高は約20%を占めており、まさにSCが日本の商業文化の中核を成しているといえるでしょう。従来小売りの王様であった百貨店も、昨今ではSC内に専門店を出店したり、インショップ型でフロアを展開したりという状況が続いています。

 こうしたなか、11年度の全国SC売上高ランキングをみると、上位30施設のうち約半数が駅などの「交通拠点」に立地しています。これは特に注目されるポイントで、お客さまの変化もよく表れています。実はいま、消費者は買い物自体にそれほど大きな喜びを見出していません。春になれば、「新しい靴でも買おうかな」という程度の気持ちはありますが、休日にわざわざ買いに行くことに楽しみを感じなくなっているのです。

 以前は買い物も一つの“レジャー”でしたが、いまは通過点の途中で済ますもの。わざわざ行く対策ではなく、目的性を持った“ついで買い”が主流で、そのためターミナル立地でなければ大きな売上は見込めなくなっています。

 ターミナル立地にSCが増えた背景には鉄道会社の不動産事業強化という側面もあり、商業施設はオペレーションしだいで更新時に賃料の値上げが見込めるメリットがあります。札幌ステラプレイスを例にすると、オープン時年間258億円であった売上げが、いまでは345億円。これによって賃料も10年の間に約20%程度アップしています。

 近年は鉄道会社だけでなく、空港や道路事業者もSC開発に注力しており、消費者の視点に立てば、きわめてよい商品が移動プロセスの途中にあるため、わざわざ街中を探す必要はありません。加えて、ネットショッピングもありますので、お客さまの生活サイクルに買い物をうまくフックしていかなければ、どんなものでも売れない時代になってしまったのです。

 

―SCをタイプ別にみると、動きがあるカテゴリーとは。

島村:
 従来のアメリカ模倣型カテゴリーには当てはまらなくなっており、当社では独自のマトリクスで分類しています。縦軸が価格感覚で、横軸が利用頻度感覚です(別図)。これをみると、大衆向けから少しリッチなカテゴリーまで、SCが幅広いニーズを捉えられていることがわかると思います。このなかで、7、8年前から出てきたのが「都心型ラグジュアリースタイルSC」で、百貨店の低迷に反比例するように高級インポートブランドを揃えるSCが出てきました。また、少し伸び悩んではいますが、大型の総合スーパーの新規出店がむずかしいなか、中規模で、生活に密着した「ライフスタイルセンター」は今後伸びると思います。

 さらに、私どもは「サテライトタウン商業」と呼んでいますが、これまでは都心(会社や学校)と郊外(居住空間)という2極で町を捉えてきた一方、10~15年ほど前から川崎や錦糸町、立川のように、居住地でありながらオフィスも点在するような中間的都市が生まれ、そこに都心型SCでもなく、従来の郊外型SCでもない、中間領域の商業カテゴリーがふえてきました。

 その代表格がラゾーナ川崎プラザで、「ハイブリッド」とも表現していますが、都心型と郊外型のテナントをバランスよくミックスしています。お客さまは東京の真ん中で買い物をするほどの敷居の高さを感じずに、都心と同等グレードの商品が手に入り、帰りがけにはお惣菜や生活必需品も買える・・・、こうしたSCの需要は増しています。

 

SC=モノを売るだけの場ではない発想を

―ロケーションの絶対性がある一方で、それ以外の立地にある商業施設の生き残り策とは。

島村:
 全国のSCをみると、不動産条件の高まりもあって、出店テナントの顔ぶれはどこも似通っており、商業施設のキャラクターや個性が乏しい状況です。そのなかで地域のお客さまを獲得していくためには、いかに“信頼性の構築”を図っていけるかが重要になってくると思います。

 現状の大きな問題でもありますが、子どもが小さいころは家族で郊外のSCへよく遊びに行っても、子どもが大きくなるにつれ、子どもたちも、また両親もそのSCを卒業してしまっています。人口がふえた時代はまた次の世代を呼び込めばよかったのですが、人口減少時代においてはいかに卒業生を出さないかが重要です。

 

―卒業生を出さないための戦略とは。

島村:
 商品を変えるのも一つの手段ですが、それ以上にSCがお客様にとって日常的に“頼れる場所”になることが重要です。一部のSCでは積極的にエコの呼びかけをしたり、ボランティア活動をしたり、不用品の交換会を開いたりという動きもみられます。SCに行けばだれかに出会えるような、コミュニティの拠点となっていくことも大切ではないでしょうか。

 震災のときにも、地域の中核施設として活躍するSCがありました。地域のみんなが使う場所というと、以前は役場でしたが、いまの時代に子どもから大人まで多世代が日常的に赴くのは、コンビニやSCなどの商業空間かと思います。商業施設は街のなかで重要な役割を担う時代になっています。ターミナル立地であろうとなかろうと、お客さまとの信頼関係が構築できれば、「卒業」といった問題もなくなると感じています。

 

―すると、これまでのSC開発の視点を大きく変えなくてはいけませんね。

島村:
 そうですね。お客様がモノをあまり買わない時代に、坪売上げはいくらかという発想を切り替えていく必要があります。若者は特にエシカル消費に関心が高いため、立地を問わず、今後はSCに社会貢献の発送を入れないと、お客さまから支持を得ることができないでしょう。商業施設のなかに学校機能や役場機能を加えてもよいと思います。アメリカでは、幼稚園や社会人学校なども導入した事例もあります。SC=モノを売るだけの場所でなく、人が集まる都市機能や文化を取り込めるような複合型の商業施設ができてもよいでしょう。

 

―最後に、若者の消費意欲低迷が叫ばれるなかで、商業施設はどのような方向に向かっていけばよいでしょうか。

島村:
 厳しい時代になっていくことは確かかと思います。ただし、男性を頼れないからこそ、女性のシングル時間も長くなっていますので、消費が急激に落ち込むことはないと考えています。ただし、お金の使い方は従来と大幅に変わってきており、いらない洋服をユーズドに売ってから新しい洋服を買う女性たちも少なくありません。また、スポーツ衣料やアウトドアグッズなどの販売が伸びていたりと、お金をかけなくても、それぞれの価値観で人生を楽しむ人たちがふえているのが大きなポイントです。

 人生を楽しむ延長線上には必ず消費も生まれますので、事業者はその流れを捉えることが必要です。当たり前のモノを当たり前に並べるだけでなく、消費者の気持ちに引っかかるような、“キャラ立ち”している売り場や店舗をつくること。全国画一的なSCではなく、それぞれの地域にあった施設をつくり上げていくことが重要ではないでしょうか。

 

―ありがとうございました。

 

 

(記:島村 美由紀/月刊レジャー産業資料 2013年1月号掲載)