MAGAZINE

2013.10.03

不動産フォーラム21

「花咲くKAWASAKI(上)」

 

 年に一度、日本の商業施設の売上ランキング上位253位までが発表されます。2012年度は2011年度に続き「ラゾーナ川崎プラザ」が706億円でトップとなりました。この売り上げはキーテナントであるビックカメラの売上を除いた実績なので、ビックカメラを含めるとおそらく900億円弱の売上になるのではないでしょうか。

 もう少しわかりやすく比べてみると、小田急百貨店新宿店が885億円(百貨店売上14位)、阪神梅田店が892億円(百貨店売上13位)ですから、川崎駅前の「ラゾーナ川崎プラザ」は、2006年以来大型実力派百貨店が一館誕生したと同等の集客効果を上げているわけです。

 実は、「ラゾーナ川崎プラザ」(以下、「ラゾーナ」)開業に私もプランナーとして参加したので、このラゾーナの急成長ぶりはうれしい限りです。

 最近、会う人ごとに「ラゾーナができて川崎が変わったね」とよく言われます。確かに川崎は劇的に変化をしました。外から川崎に遊びに来る人が増えた。それもカップルのデートゾーンだったり、お洒落な母娘の買物ゾーンだったり、女子会の会場だったり…、昔はそんな人たちがワザワザ遊びに来るなんてありえなかった町・川崎ですから、本当にビックリです。公害の町、風俗の町、ブルーカラーの町といわれ、「汚い」「怖い」「冴えない」イメージが定着した町だったのですから、今の川崎のメジャー度合には驚くばかりです。

 この川崎の変化には、確かにラゾーナが大きな貢献をしています。ラゾーナなくしてこれだけの世の中の注目を一挙に集めることはできなかったと思います。がしかし、川崎の変化はラゾーナのエネルギーだけではなく、だれも気付かぬうちに、川崎は長年の間変化のマグマを溜めていたのではないか、と私は思っています。実は、“汚い、怖い、冴えない”と思われていた時代から“お洒落、快適、面白い”の芽を出し始めていた町・川崎。そんな川崎のことを2回にわたってお話してみようと思います。

 

人口減少時代に人口が増加する川崎

 2008年をピーク(1億2,808.4万人)に日本の人口は減少していますが、川崎市の人口は増加を続け、現在1,447,438人となり、月ごとに平均約800人が増えています。政令指定都市(20都市)の中でも人口増加比率は上位5番目(表1)で、出生率が高いことが特徴的です。

 2000年以降、不動産価格が下落した中、川崎には多くの住宅が建設されました。特に、都心居住ブームで、駅周辺立地にはマンションが建ち並び、大勢の人々が川崎居住を始めています。表2が示すとおり、首都圏駅別供給戸数ランキングでは堂々の1位となり、他を圧倒しています(表2)

 実は川崎は交通の利便性が極めて高い東京、横浜のベッドタウンです。東京へも横浜へも15分~20分で通勤できる公共交通機関が整った町なのです。

 前述したように、過去においてはイメージの悪い川崎ですが、目ざとい人が川崎の交通の便利さに気づき、またマンションも新築され「川崎居住者」が2000年はじめ頃から出だしたわけですが、2006年ラゾーナブームが起こり、マンション販売では「ラゾーナから徒歩○分」とか「ラゾーナすぐそこ」等のチラシが配られるようになりました。

 昔のイメージを持たない人は、このプロモーションが本当だと思い込み「川崎ぐらし」を始めました。中にはマンション完成PHOTOよりラゾーナPHOTOを大きく出しすぎているチラシもあり、何を売っているのかわからない有様です。

 特に単身者とマンション1次取得者が多く、20代、30代人口比率が高くて活力ある街と言われています。

 

日本で2番目に研究職が多い街

 意外かもしれませんが、川崎市内に本社や本店が所在する有名企業は結構あります。富士通、東芝、パイオニア、日本トイザらス、デル、三菱ふそうトラック・バス、パシオス、文教堂、不二サッシ等。ある法人の役員に話を聞くと、羽田空港が近く、東海道本線一本で新幹線にも乗りやすく、都心ほど賃料は高くないため、国内外出張環境も整っているオフィス立地としては理想的との事でした。また近年、川崎イメージUPを受けて、本社住所が川崎であるポイントはそれなりに関心をもたれるネタになるそうです。丸の内や霞が関ばかりがオフィスのナイスイメージである時代は終わったようです。

 また、川崎には多くの研究所が存在します。昭和の時代まで川崎は京浜工業地帯の中心で重工業が盛んでしたが、近年は市の施策で先端技術の研究所等が多く誘致されており、全国で2番目に学術・開発研究機関の従業者割合が高い町にもなっています(表3)。そういえば川崎駅にはアジアをはじめとする様々なお国の人々が往来している姿が近年見られるようになりましたし、昔のブルーカラーの町というよりオフィスワーカーの通勤者が中心に駅を往来していて、ずいぶんと川崎駅の朝夕の通勤風景が変わってきています。

 

川崎の人は貧乏か!?

 ラゾーナの開発計画を進めている中で、一部の不勉強な人から「川崎市民は貧乏人だから高いものやお洒落なものは買わない」という声が上がりました。また商業関係者からも「川崎でお洒落なファッションが売れるわけがない」とも言われました。「ずいぶんと川崎はビンボーでダサいイメージなんだなー」と悲しく思いましたが、はたして川崎の人は貧乏なんでしょうか?表4をご覧ください。神奈川県内納税者の所得額ランキングですが、川崎市は全国平均、神奈川県平均を大きく上回り、鎌倉、逗子、横浜に次ぐ神奈川県15市中4位にランキングされています。なかなかの所得ですよね。

 ラゾーナ開業の数年前に川崎区に大型のイトーヨーカドーがオープンしました。このときの逸話で、GMS計画の際にはいかに駐車場をしっかりとるのかが集客に直結する大きな課題となりますが、イトーヨーカドーでは駐車場がうまる前に駐輪場が満杯になるという珍現象が起こっているというエピソードがありました。

 そうなんです!川崎市の海側3区(川崎・幸・中原)はともかく平らな土地なので自転車がスイスイ便利。またこの3区は江戸時代から宿場町として栄えていたので古い庶民派の住宅地が主で、住宅が密集していて1軒の敷地が狭いため、駐車場がとりにくいという特徴もあります。そのためか、20都市ある政令指定都市の中でも保有自動車台数は18位で、1,000人当たり323.2台、1住宅当たりの延べ面積も18位の62.78㎡で因果関係があるのかもしれませんが、10万人当たりの交通事故発生件数は最下位の20位で316.3人です。

 車より自転車というかなりエコシティな川崎なのですが、「まるで北京のようだ」と評した人もいるほど自転車の利用人口が多い町でもあります。

 こんな川崎で最近武蔵小杉という東急東横線沿線タウンが新しく生まれ変わり、高層マンション群がニョキニョキ建ち、また新しい川崎の顔になっています。

 ラゾーナや武蔵小杉の高層タワーマンションに世界各国の研究者たち、20年前には想像もできなかった、新しい川崎が始まっています。次回は、その中でも人気が高い商業についてお話しようと思います。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2013年10月号掲載)