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2021.04.14

日経MJ

渦がいざなう新たな消費-表参道「GYRE」、改装で提案-

  

 時代キーワードであるサステナブルを14年前から館の軸として掲げてきた商業施設「GYRE(ジャイル)」。コミュニティをつくり、社会性ある消費の質を意識する提案の新たなチャンネルとして地下1階・4階のリニューアルを昨年実施した。コロナ禍でも集客力を高めている。

 
 

 東京・表参道の中ほどに個性的な5階建てのビルがある。組み立て中のルービックキューブのように階層がずれながら重なっているユニークな外観だ。

 

 建築デザインを手掛けたのは世界的に有名なオランダの設計事務所MVRDV。渦・回転をコンセプトとして層のずれ部をテラスとしたり建物外周を旋回する外部階段を設えて、緑が美しい表参道のロケーションを体感できる一体感を演出している。このビルの名称はコンセプト通り「GYRE(渦)」で2007年11月に開業した。

 
 

社会につながる意識持つ契機に

 建築の主張は中身となるショップ群に連動し「CHANEL」「DELVAUX」「コム・デ・ギャルソン」「メゾン マルジェラ」「KENZO」等の有名ブランドが入店し“コンセプトストアの集合体”として最先端トレンドを発信している。

 

 内部はシンプルに仕上げられ中央の5層吹き抜けをぐるりと店舗が取り囲む。ガラスやステンレスに映り込む各階の店や人の様子が空間に動きを生み出しスタイリッシュだ。

 

 「主なラグジュアリーブランドは表参道交差点付近に集積し、この地はキャットストリートの入り口。微妙な場所だが、逆にハイエンドとカジュアルがクロスする面白いパワーポイントになれるのではないか」と事業者の三菱商事・ユービーエス・リアルティの竹内豪志シニアマネージャーはGYREを位置付ける。

  

 開業時、通りの向かいには表参道ヒルズ(2006年2月)やラルフローレン表参道(2006年3月)が開業、GYRE開業も加わり原宿と表参道交差点間の人の往来が一挙に増えた。

 

 訪日外国人は2007年から2019年で4倍弱の3,190万人と増え、日本の代表的ファッションエリアの表参道や原宿には人が人を呼んで大盛況となりGYREも人気店に行列ができた。

 
 

「循環」をテーマに食のフロア構築

 「表参道は路面が強く上層階への誘導がしにくい。当館は有名ブランドが揃っているので3階まではショップを目指して来店があるが、地下1階と4階への回遊が長年の課題だった」と竹内氏は言う。

 

 その課題を解決すべく2年をかけてリニューアルプロジェクトを進め、2020年1月に4階「GYRE.FOOD」、2020年6月に地下1階「コネクト」をオープンさせた。

 

 開業当時からGYREに携わる総合ディレクター平尾香世子氏(ヒラオインク代表取締役社長)は「“SHOP&THINK”とういう館コンセプトを揺らがず貫いていく事が大切。自分の消費行動が社会や人にどうつながっていくのか、生産者、技術力、愛着、デザイン性、環境、自然等を含めて消費行動に意識を持つきっかけを提案している。ゆえにギャラリーやワークショップの展開に力を入れている」と語る。

 

 その思想を持って実現された地下1階と4階のリニューアルの特徴は1フロア1コンセプトで1,000㎡のシームレスな大床を演出していることだ。

 

 地下1階はライフスタイルショップのシボネが音楽・本・植物・カフェを有機的につなぎ合わせた複合業態を誕生させた。複数テイスト、複数トーンの商材だが感度が揃っているのでハズレがない宝探しを楽しめる大型店が生まれている。

 

 4階は“循環”をテーマにした「GYRE.FOOD」。レストラン・カフェ・デリ&バー・グロッサリーショップなどが1,000㎡に共存する。プロデューサー平尾氏を基にコンセプトを料理人の野村友里氏、フードディレクションをシェフの信太竜馬氏、空間デザインをパリ在住の建築家田根剛氏が手掛けた。

 

 “循環”はフロア全体で創造されハーブガーデンで食材を育てフードロスを出さないメニューを考案、生ゴミはコンポストにして土をつくりまた畑に戻すトータルリサイクルをつくる。インテリアは土と植物をテーマに主な壁・床・什器を土をこねて材料とし、カラマツで客が自由な使い方で寛げるピラミッド状のオブジェをデザインした。

 

 4階にいくと空間は暗い。しかし暗さの向こうに大開口部があり表参道の緑と空と光が視覚いっぱいに飛び込んでくる。その先に広がる別世界を鮮烈に印象付けるかのように来館者が表参道との一体感を体感できる空間づくりが面白い。

 

 暗い室内も時間が経つほど落ち着ける居心地の良さが魅力となり、終日近辺の居住者や買い物客やオフィスワーカーの客足が絶えない。地下1階の気軽に立ち寄れる「コネクト」と寛ぎ処の「GYRE.FOOD」の開業によりコロナ禍でも来館者は増加した。

 

 4階では多様なイベントを頻繁におこなっている。漢方家と精神科医のトークセッションや映画上映会、時には鮮魚を売るフィッシュマーケットを開き好評を博している。この活動から食を通してコミュニティが生まれ食から“SHOP&THINK”の意味を伝えていく事をチームで継続していく事が渦を生む力となるとメンバーは語る。

 

 デザインパワーとコンセプトを貫くソフトオペレーションが相まって存在感ある商業が時間をかけて創られている。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2021年(令和3年)4月14日(水)掲載)