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2011.01.18

「日本における小売りの主役」

 

 日本で百貨店が生まれて107年、スーパーマーケットが生まれて54年、ファーストフードが生まれて41年、ショッピングセンターが生まれて43年、コンビニエンスストアが生まれて39年、シアトル系コーヒー店が生まれて15年・・・。こう書き出してみると、「そんな昔からあるのか」と思うものもあれば、「まださして時間がたってないんだなあ」と驚くものもある私たちの身近にある小売業の店たちです。

 

 私たちの生活は、時代ごとに誕生する新業種や新業態の利用で、より便利に、より快適に進化を続け、時代に対応したライフスタイルをつくり出してきました。まさにその時代の商業の存在や提案力が、消費者のライフスタイルを育成する孵化装置となっているわけです。

 

 この数年、メディアによって百貨店の低迷が続いている話が多く流されています。私の子供時代は“百貨店への買物”が日常生活のハレシーンで、自分の持っている一番お洒落な服を着てワクワクドキドキしながら母に手を引かれ百貨店の入り口に立ったものですが、今では年に1、2度しか行かなくなり疎遠状況。百貨店に替わって他の小売業の店が、ワクワクドキドキの買物シーンをつくってくれているので、わざわざ百貨店に行かなくても間に合う生活になってしまっています。

 

 買物好きの私でもこんな状況なのですから、長年日本の小売業の王座に君臨してきた百貨店が100年の時間を経て、王座から転落してしまったとすると、一体いま誰が小売の王座にいるのでしょうか。

 

 今回は、「日本における小売の主役は誰なのか」について検証してみましょう。

 

百貨店から総合スーパーの時代へ
 表は、1960年(昭和35年)・1980年(昭和55年)・1994年(平成6年)・2005年(平成17年)~2009年(平成21年)の小売業業績ランキングです(各年度)。

 

 1960年(昭和35年)は、王座に君臨する百貨店の姿を誇示するかのように、ベスト10を有名百貨店が独占しています。

 

 関東では老舗の三越・高島屋、関西では大丸・そごう・阪急、名古屋では松坂屋といった具合に地域を代表する一流百貨店があり、各地方でも地域一番店の地元百貨店が存在する時代でした。

 

 当時は業態幅が極めて狭く、専門店と百貨店という二極の時代であり、日本や世界の選りすぐりの品を百貨店が集め、一般的商品を街の専門店が販売するというシンプルな役割分担があった時代です。

 

 それが20年後の1980年(昭和55年)、表のベスト5では百貨店がランクダウンし、上位4社に総合スーパー(GMS)と呼ばれるダイエー、イトーヨーカ堂、西友、ジャスコが入り、上位を奪われてしまっています。1960年代から中心市街地に出店を始めたスーパーマーケットが、百貨店のワンランク下段の業態(安い、庶民的、食品も扱っている、セルフで買いやすい)として大衆層に大いに評価され、1980年代には売上を伸ばし、80年代末の大店法改正により大型店の出店に加速がつき、スーパーマーケットの主役時代が到来しました。これが1994年(平成6年)の表を見ると、百貨店から総合スーパーの時代に完全に移行したことがわかります。百貨店に行かなくても間に合う買物は多々ありますが、スーパーに行かなくては間に合わない買物は多いもので、週末は一家でスーパーへ買い出しに、という買物スタイルが定着してすでに何十年も経過していることがこの表からも読み取れます。そして、総合スーパーはセブン&アイホールディングスとイオンという二代企業となり、21世紀の日本の小売業のトップをこの2企業が独占してすでに数年がたっています。百貨店から総合スーパーの時代へ、小売の世界は20年間で大きくシフトしました。

 

どう変身するのか?
ドラッグストア・コンビニエンスストア・家電量販店

 一見好調に見える総合スーパーも、実は1997年以降から売上げが低迷してきています。コンビニエンスストアやドラッグストア等が商品領域を広げ、価格・サービス面でも追随傾向にあり、わざわざ総合スーパーに行かなくても、駅前や通勤通学途中にあるコンビニエンスストアやドラッグストアで買物をする消費者が増加しているからです。

 

 コンビニエンスストアが極めて便利な品ぞろえの業態であることは、すでに周知の事実となっていますが、近頃は若年層ばかりでなく独居老人や老夫婦世帯もコンビニエンスストアの弁当や惣菜、日用雑貨等を手軽に手に入れる事のできる業態のコンビニエンスストアにフォローの風を吹かせています。

 

 また、ドラッグストアは薬や生活雑貨ばかりではなく、近頃は幅広い化粧品、お菓子、飲料、グロッサリー等の品揃えを増やし、弁当や惣菜こそないけれど、コンビニエンスストア以上の日常品が売られており、驚く充実度合いです。またコンビニエンスストアはけして安くはありませんが、ドラッグストアは廉価商品もあり、お得感覚のもてるプライスです。化粧品等は、百貨店の化粧品売り場に行く必要のないほど、いろいろなメーカーのコスメも充実させており、女性にとってはついつい衝動買いをしてしまう楽しいショップです。近頃はコンビニエンスストアも一部の医薬品を扱えるようになったので、コンビニエンスストアとドラッグストアの境界が今後はなくなる可能性もあるほど、私たちの生活の必要な物を身近で売る小売業態として消費者から支持され、総合スーパーの売上を脅かす存在になってきています。

 

 さて、2005年からの表を見ると、特長的な動きとして家電量販店がランクインしてきていることに気付きます。業界最大手のヤマダ電機はすでに2006年よりベスト3位入りを果たしその伸び率は1位、2位をしのぐ勢いです。また、この数年は常に4、5社の家電量販店が上位15位入りを果たしていますので、小売業全体の中の急成長ぶりがうかがえます。

 

 先日、京都駅前に10月初旬オープンした家電店を見に行って、大変驚きました。地下に食品スーパー、地上階に6層のファッションフロアやエステ等のサービス業種、手芸の大型店も導入、もちろんレストランゾーンもあり、外付けにはまるでパリのようなおしゃれなカフェが3店も並び
お花屋さんまで揃っていました。この店はすでに家電屋の枠を超えたショッピングセンターになっており、街の人々が家電目的以外の買物に訪れている姿を目撃し、「一体、家電屋さんは何を考えているのだろう」と末恐ろしくなったほどです。

 

 さらに、近年のランキングでは、若者の遊び場「ドンキ」ことドン・キホーテが2008年からランクインし、日本の国民服となり、世界戦略を目指す「ユニクロ」のファーストリテイリングが、2006年からランクインして実績を上げてきている点にも大いに注目ができます。

 

 ふだん、それぞれの企業同行はなにげに目にしているものの、小売業のランキングなんて気にしないものですが、このように時系列で長いスパンを追いかけてみると、私たちの日常生活における購買行動が大きく変わり、それに合わせてライフスタイルが変化していることを再認識できます。

 

 20年、30年先の人たちがこの表を見たとしたら、「これって何屋のこと?」といわれるような絶滅種ならぬ小売の絶滅業態があるかもしれません。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2011年1月号掲載)