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2013.03.16

SC JAPAN TODAY

「外資系テナント企業の日本進出動向
~外資系が捉える日本マーケット 日本出店の考え方~」

 

島村:
 外資系テナントの出店状況をおさらいしてみると、1980年代後半から日本進出が始まり、95年にGAP、L.L.Beanが、また今期大活躍のZARAの進出がありました。近年ではH&M、フォーエバー21などファストファッションも大変注目を集め、日本市場で本格的に成長し始めています。

 SCにとって外資系テナントは大変魅力的な存在で、特に強力なブランド力で集客力アップにつながったり、メディアの露出度も高い。またグローバルなトレンド情報をいち早く店頭に演出してくれるなど、いくつもの魅力的な要因が挙げられます。こうしたことからディベロッパーは外資系テナントの出店に関心を持っていると思います。ここでは大変活躍している3社のキーマンに、日本市場の捉え方、現状の出店動向、これからの展望についてお話しいただきたいと思います。

 

★パネリスト
山内 秀樹 氏 (アメリカンイーグルアウトフィッターズ)
株式会社イーグルリテイリング取締役

都築 新吾 氏 (ディーゼル)
ディーゼルジャパン株式会社 営業開発部 マネージャー

ジョルディ・バルセイス・バルス 氏 (デシグアル)
アイエヌティーエスイッツノットザセイムジャパン株式会社 アジア担当副社長

島村 美由紀 氏 (商業コンサルタント)
株式会社ラスアソシエイツ 代表取締役

 

アジアにおける日本市場の位置づけ

島村:
 最初に日本市場の捉え方、日本をどのような可能性のある市場として考えているのか、特にアジアにおける位置づけなど、伺いたいと思います。

都築氏:
 直営店は1999年のオープンで、ディーゼルジャパンが日本に進出して25年が経過しています。売上げは全て前年を上回っていて、2年前にアメリカを抜いて売上げ規模で各国のディーゼルの中で1番になりました。本国も日本の市場はこれからもいけると、店舗数も増やしていけると評価しています。アジアでは中国も考えられますが、第1次ブランドブームがスタートしたばかりでまだまだこれからと考えており、アジアでは日本を重視しています。

ジョルディ氏:
 私たちは日本の市場がファッションビジネスにおいては世界で最も重要な市場の一つだと認識しています。アジアの中では一番注目している市場です。日本は新しいブランドに対し非常にオープンで、ブランドとして知名度が無くても商品の良さを理解してくれる、私たちにとってはさまざまなチャンスがある市場だと認識しています。

山内氏:
 アメリカンイーグルはアメリカに900店舗あり、ほとんどのモールに出店しています。アメリカでの成長が難しいということで、海外、特にアジア進出を考えました。中でもGDPの成長率や人口の多さでは中国やインドネシアが挙げられます。ただ中国にも出店しましたが、中国ではアメリカンカジュアルが理解されなかったようで、日本ほどの売上げではありません。日本ではアイビーブームとかプレッピーブームがあり、我々世代まで浸透しているくらい、アメカジに関しては日本人が一番理解していると思っています。日本に出店する際に日本のブランドをセグメントした結果、価格が手ごろなアメカジブランドに余地があると考え、ここをターゲットにやってきました。

島村:
 日本進出にあたって、店作りや商品政策に何か日本独自に工夫をしたり変えたりしていることなどお聞かせ下さい。

山内氏:
 1つは価格戦略です。内外価格差を1.2~1.3としています。これは税金とか物流がありますので、それに合わせたスリムな組織をつくって、消費者に還元したかった。アメリカの大学生が1日アルバイトをしてデニム1本とTシャツ1枚買えるくらいの貨幣価値があるとすれば、日本の大学生も同じように買える、こういう値段がフェアだと思います。

 2つ目は店作りです。特に1店舗目、2店舗目は什器を全てアメリカから運びました。お見せに一歩入ったときにアメリカを感じてほしいという考えから、企画、デザイン、レイアウトなど全てアメリカそのままを取り入れました。

 3つ目は接客です。アメリカンイーグルの競争相手はどこかと聞かれたときに、東京ディズニーランド、スターバックスコーヒーだといいました。どういう意味かというと、代替消費を何処に求めるかということです。ショッピングもレジャーと同じだと考えていますから、ディズニーランドやスタバでお金をつかうように、我々のショップでつかっていただきたいということで接客に力を入れています。マニュアルをつくらず、スタッフのモチベーションを上げて、みんなの発想でお客様に楽しんでいただけるように取り組んでいます。

都築氏:
 日本市場でのブランドのポジショニングだったり、いくらぐらいであれば受け入れられるかなど、他のブランドと比較研究して、価格については十分に検討しています。接客についても重要視して、本国から全店向けに年2回のミステリーショッパーを実施しています。日本の接客は進んでいて優秀なので、各国のディーゼルから視察に訪れるほどです。店作りに関しては、出店までスケジュール的に時間があれば本国から全て図面が上がってきます。日本では新規というよりは入れ替えが多く、1年を切った交渉になるケースでは先に日本から本国に図面を提出して、話し合いで進めていくことになります。

島村:
 消費者感覚でいうとサイズが気になります。どうしてもインポート商品は日本人にフィットしにくいという気がするのですが、いかがですか。

ジョルディ氏:
 日本独自の現象ですが、日本人の男性はヨーロッパの男性に比べ体が小さく、男性がレディースのコートなどを買っていたりすることが見受けられます。サイズに関しては注意しており、メンズも小さいサイズを導入するように意識しています。

山内氏:
 アメリカ人は大きい人から小さい人までいますので、アメリカンイーグルも本国ではXXS~XXXXLまでサイズを取りそろえています。どのサイズを中心に日本に持ってくるかということだけですので、特にサイズに関しては変更していません。

 ただ、サイズ感について、日本のSサイズを買っている方が(当社の)Sを買われると大きいということはありますので、その点は店舗できちんと案内をしています。

都築氏:
 本国でXXS~XXXLまであり、これは世界共通で日本でもまったく同じサイズを扱っています。ただ、毎シーズンではありませんが、デニムに関してはアジアンフィットというものをつくるときがあります。サングラスについても同様に鼻の高さが違いますので、アジアンフィットをつくっていて、これがよく売れます。

 

店舗開発の考え方

島村:
 日本出店における立地や店舗規模の基本的な考え方についてお聞きします。

山内氏:
 基本的に最低250~300坪の広さが必要です。それくらいないとシーズンの商品展開ができない構成になっています。一番気にするのは天井高で、3.1mが絶対条件です。ですから古いビルを改修したようなところには出店できないという状況です。立地では日本のマーケティングの一環で自由度を持たせてやらせてもらっています。路面で立ち上げるというブランディングもありますが、コストを考えると今後はSCを中心に進めていきたいと考えています。当初は関東、特に東京を中心に出店させました。今後は大阪、神戸等の関西エリア、そして福岡、名古屋のエリアもカバーするように積極的に出店していきたいと考えています。

都築氏:
 明確に何坪という基準は設けていませんが、メンズ、レディースを展開して、ある程度お客様に満足いただけるのは80坪くらいと考えています。またシューズやバッグ中心のアクセサリーストアという小型店の形態ですと約25坪くらいです。立地でいうとほぼ全国の主要都市に出店していますが、今後も常に全国エリアで出店先を探していきます。

ジョルディ氏:
 優先順位として、1番はSCや百貨店などのインショップ、2番目にアウトレット、3番目に路面店で出店を計画しています。大阪や名古屋、広島などの政令指定都市を優先に考えています。規模としては約60坪が基本面積の出店計画になっていて、レディース、メンズ、アクセサリー、バッグ類を中心に企画しています。場所によってお子様連れのお客様が集まるようなSCであれば、キッズの展開も考えます。

島村:
 3社ともにSCに注目されているようですが、皆さんのなかで百貨店やSC、路面店、アウトレット、それぞれどのような役割で出店戦略を考えているかお聞かせ下さい。

都築氏:
 百貨店はSCに業態が近付いているとはいえ、メンズ、レディースと別々の売り場になっています。ライフスタイルブランドとして、メンズ、レディースを展開する出店が主になりますので、ブランドを体現していくにはSCや路面店が出店の基本となってきます。アウトレットについては現在でも13店舗あり、多いと感じています。今後、プロパー店舗が増えれば話は別ですが、アウトレットの店舗は増やさずに現状のまま維持させたいと思っています。

山内氏:
 商品点数もかなり多く仕入れて販売しているので、ロジスティック上どうしてもアウトレットを出店せざるを得ない状況です。アメリカンイーグルではファクトリーストアと呼びますが、今後は数店舗に1店舗くらいのペースでファクトリーストアの出店を考えているところです。

ジョルディ氏:
 アウトレットに出店をすることで、ブランドの存在を知ってもらえるチャンスが非常にあります。実際にアウトレットの店舗からプロパーの店舗に来てくれるお客様も多いですから、今後も出店を考えています。イタリアでの1号店がアウトレット店で、その後100店舗まで拡大された経緯がありますので、日本でもアウトレットの出店のチャンスは重視しています。

島村:
 外資系テナントの方とお付き合いしていると、一番謎なのがアプルーバルの問題です。アプルーバルで長い期間待たされて結局ダメでした、ということをよくお聞きします。アプルーバルはだいたいどのくらいで取ってもらえるのか、またオープンまでどのくらい前からお話しさせてもらえば理想かについて教えて下さい。

都築氏:
 基本的には早ければ早い程、5年先の話でも対応します。アプルーバルについては基本的に「2ヵ月待ってください」とお伝えしています。6、7年開発を担当していますが、日本からあげた案件について今まで本国から「NO」と言われたことはありません。それだけ信頼関係ができているということなので、間に合わないようなケースも同時並行でディベロッパーと進めていくことができると思っています。アプルーバルがおりてから、設計や商品のオーダーにも数カ月単位で時間がかかりますので、お互い慌てることなく順調にいくには1年半くらいが必要です。

山内氏:
 アプルーバルは必ず必要です。何が大事かというと、本国のキーパーソンが年に2回日本に来る際に、来年出店したいと思う場所に無理矢理連れて行ってしまうんです。そうすると半年後の新店オープンのアプルーバルは取りやすくなります。ですから前もって教えていただければある程度の条件は後にして、連れていく、見せておくというのが非常に重要になります。出店までのスケジュールはやはり商品の買い付けや、什器の発注、設計なども考えると1年半というのが理想です。

ジョルディ氏:
 アプルーバルについては約1ヵ月で取ることができます。その後2~3ヵ月でオープンが可能です。何処にという具体的な出店が決まっていなくても、ここ1年くらいでオープン予定の店舗数が決まっていますので、それに備えて、先に商品の精算や必要な什器、照明などを準備しています。いろいろ条件も考慮してお互い話がまとまれば、4ヵ月もあればオープンすることは可能です。

島村:
 今のお話で大変興味深かったことはだいぶ先の話でも聞いていただけるということ。具体的な案件がないとお会いすることも申し訳なく思っていたディベロッパーもいらっしゃるかと思います。こまめな情報交換、コミュニケーションをとっていくことが大事だということですね。

 

今後の展開~新業態、出店計画

島村:
 では、最後に今後の展開について。1つは新業態について、2つ目は今後の出店の計画についてお話いただきたいと思います。

山内氏:
 出店について今発表しているのは2月1日オープン予定のラゾーナ川崎店の他に、あと数店舗を予定しています。新業態としては女性下着ブランドのエアリーの単独展開をトライアルしていきたいと思っています。エアリーは日本のOLさんに人気で、リピーターにもなっていますので、例えば30坪くらいでOLの方が多く集まるような駅立地を中心に考えています。

都築氏:
 新業態でいうと、渋谷のグロリアスチェーンカフェは数字が安定してきているので、今後も出店の可能性はあります。インテリアもようやく商材がそろってきましたので、カフェとインテリアを融合させて、インターネットで注文するという方法も考えられます。ブラックゴールドもまだ百貨店にしか展開していませんのでSCや路面店として可能性はありますし、55DSLと何かをコラボレートした店舗もあると思います。今年の出店計画はアクセサリーズストアが1店舗、ディーゼルストアが日本海側に1店舗できます。あと本国にもう1店舗、枠をください、ということで交渉中です。

ジョルディ氏:
 英語で「Life is Cool」という言葉をコンセプトにした店舗が昨年の12月、原宿にオープンしました。居心地の良い空間をテーマにした店づくりになっています。新業態ではありませんが、全てのタイプのお客様に来ていただけるデシグアルというラインをメインに、1つはクリスチャンラクロワとのコラボレーションライン、もう1つはシルクドソレイユとのコラボレーションラインもあります。出店計画については今年は10店舗の出店を計画しています。あとはeコマースのチャネルもスタートさせる予定です。

島村:
 ある専門誌の調査で世界のグローバル小売業330社の各国進出動向について、一番進出している国がイギリスだそうです。日本は16位ということで意外と低く、まだまだ魅力的な海外ブランドが日本には未進出で、十分にお迎えできていないということがいえます。まさにSCから国内の消費を元気にしていって、日本市場を認めてもらい、海外ブランドに進出していただくように、SCディベロッパーの皆さんでやっていければというように思います。

 

 今日は注目の3社の外資系ブランドの方々にお話しいただきました。この機会に情報交換をしていただければと思います。

 

 

(記:島村 美由紀/SC JAPAN TODAY 2013年3月号掲載)