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2010.10.22

不動産フォーラム21

「変わるおみやげ 変わらぬおみやげ ―いま時 おみやげ物語―」

 

 家族旅行の帰り道、高速道路上で年老いた母が「友達に配るおみやげを買いたい」と言いだしました。トイレ休憩も兼ねて最寄りのサービスエリアに立ち寄ると、そこは最近オープンしたばかりという『星の王子さまミュージアム』で、可愛らしいお菓子やグッズが売られています。「フツーのおみやげはないの?フツーの物は?」と探す母の期待(渋滞を避けて早く帰りたい私の期待でもありましたが・・・)を見事に裏切り、そのサービスエリアは潔く王子さま一色。「サービスエリアなのにコンビニぐらいないの!」と憮然とする母にフツーのおみやげを諦めさせ、帰路を急ぐことになった夏休みでした。

 

 私たちはよく“おみやげ”なるものを買っています。特に観光に出かけると“おみやげ買い”にはかなり積極的で、母のように“配る”とか“フツー”とかのキーワードが挙がり、紙袋いっぱいの“おみやげ”を買い、「ちょっと○○へ行ったから・・・」と友人や会社やご近所に配っています。

 

 聞く話によると、外国ではおみやげを多く買って配るという習慣はないようですが、私たちの“おみやげ感覚”とは一体何なのでしょうか?ぐるりと私の周辺を見渡してみました。

 

配るおみやげから“自分みやげ”の時代に!?

 一昨年春より、我が社ではある地方の観光ホテルのおみやげ屋を任されて業態開発から仕入れ、運営のコンサルティングを行っています。そのホテルは団体客から個人客増加戦略のもと、一部の客室を個人客向けスイートルームへリニューアルをはかり不況の中でも実績を上げています。これに合わせて個人客ニーズにマッチした「おみやげ屋」が必要となり、オーナーから私へ店舗開発の依頼電話がかかってきたのが3年前の夏でした。

 

 ホテルオーナーいわく、「個人で宿泊するお客様は、漬物やハコ菓子など従来のおみやげ品に関心を示さない。もう少し“こだわった物”や“土地の物”はないのかと聞かれる。要は、配るおみやげではなく記念となる“自分みやげ”を探しているのだ。」

 

 このオーナーの話から、従来型のみやげ品は一切取り扱わない「自分みやげのセレクトショップ」をつくりました。日常づかいができる地域の工芸品(焼物・木工品・紙製品等)、地域のこだわり食品、東京仕入れの雑貨等を40坪の店で扱っています。

 

 オーナーの予測はみごと的中。「ほかにはないステキなおみやげ屋」と評価され、近隣ホテルの宿泊客から街の住民までわざわざ買物に来てくれるようになりました。

 

 この店の配るおみやげではない“自分みやげ”の特徴的売れ方を考えると、“自分軸”が顕著です。商品の選び方が自分軸となるので、自分の感性にマッチしたものがあると高額なものでもこの不況下でさえサイフのヒモを緩める傾向にあります。ある時は40万円もする陶器が売れてびっくりしました。家のリビングにと3~4万円のガラス製品や13,000円の急須や伝統工芸品のお重等がよく売れます。「観光地に来て、よく高額品を買っていくなあ」と売っている私が不思議なほどですが、“自分軸”だと場所や金額の枠は取り払われるのが“自分みやげ”の特徴のひとつのようです。そうそう、1㎏ある地元産のガラス瓶入りハチミツもよく売れるので重さも関係なくなるようです。

 

 雑貨にいたっては、地方の観光地で東京仕入れのハンカチやエコバッグやヘアアクセサリー等こまごました女性好みの雑貨を集めていますが、観光に来た女性達は「ステキー」「おしゃれネ」といってまさに自分様にサイフを開いていきます。帽子やスカーフ、赤ちゃん用品(主に孫みやげ)、果ては美容グッズやお弁当用品(小さな楊枝や仕切り用カップ)まで売れるので、店の提案次第でお客様のおみやげ枠はどんどん広がっていきます。

 

 この観光ホテルには、私たちがかかわる自分みやげのセレクトショップだけではなく、100坪もあるフツーのおみやげ屋も併設されています。
そこではハコ菓子や漬物がうず高く置かれ、一人で5個や10個を買い、宅配便で送るお客様がたくさんおられ、“自分軸”に対する“配りみやげ軸”が展開されています。“自分”と“他社への気遣い”、この2軸で、観光地であっても、おみやげの世界はまったく別の光景が展開されているわけです。

 

成田空港にみるおみやげ最近事情

 外国人のおみやげ市場の最終メッカである成田国際空港では、数年前に「AKIHABARA」や「FUJIYAMA」「ASAKUSA」といった店名の外国人(アジア・欧米)目線に立ったおもしろいおみやげ屋が展開されていて、日本人にとってもかなり楽しめる成田空港の有名ショップになっています。

 

「AKIHABARA」や「FUJIYAMA」で売っているのは、日本のお菓子や家電製品、おもちゃ、化粧品が主です。

 

 アジア人にとっての日本製家電人気は、すでに周知のとおりですが、デジカメや炊飯器ばかりでなく、温水洗浄便座や美容家電も販売されているのにはビックリ。特に温水洗浄便座は、日本人が考えた最高傑作といわれていますが、日本旅行で体験した温水洗浄便座の気持ちよさを自宅におみやげにしようと成田から手荷物で持ち帰る“自分軸みやげ派”がかなりいるそうです。

 

 前述した「外国ではおみやげを配る習慣がないそう」については、成田空港を見ているとどうやら欧米系の特性らしく、アジアのお客様はすさまじい勢いで“配るみやげ軸”の買物をしています。関係者に話を聞くと、一番売れるのは「東京見聞録」というB4判大もあるハコにドラ焼きや草もちや黄な粉もちが何種類もアソートにされたハコ菓子でした。ほかにもB4判大の箱は重要なポイントらしく、「それだけ大きな物をおみやげとして差し上げる」という贈る側の配慮が大きさに表現されていることになるそう。また中身をバラにしても配りやすいという面もあって、まるで日本のおみやげ感覚と同様なセンスであることは、何とも“アジア的”ですね。日本旅行熟練者からは旅行前の母国から店にメールで「○○を20箱キープしておいてくれ」との注文があり、当日は段ボール箱ごと買っていく中国人もいるそうです。

 

 さらにお菓子のブランドでは「東京バナナ」と「白い恋人」が大人気で、特に「白い恋人」は中国・韓国における北海道ブームを反映して口コミで有名になっているそう。成田でも今年から道外不出の「白い恋人」が扱えるようになり、売上頭に躍り出ているそうです。

 

 「AKIHABARA」で様子を見ていると、中国人観光客が老若問わずハコ菓子を5箱、10箱と積み上げて買っていく姿が目立ちますが、若い女性の手には日本のファッション雑誌や今旅行している日本のファッションブランドの紙袋がしっかり握られているので、十分に「自分みやげ」のショッピングを日本観光で楽しんでもらったことが伺えます。これからますます増加するアジアからのお客様に、どれだけ幅を持った日本みやげの提案ができるか、羽田国際空港開港も控え展開に注目が集まります。

 

 おみやげの起源は“宮筍”と書いて、神社などの配り物から始まったと言われています。大昔、お伊勢参りは村人たちが旅費となるお金を出し合い、村の代表に各自の祈りを託して伊勢に送り出し、その伊勢参りを任された人は、お伊勢様にちゃんと皆の願いをお願いしてきた証として、伊勢のお札を村に無事に帰って配ったとか・・・。

 

 「配るおみやげ」も「自分みやげ」も“みやげ”の中に、生活文化の様々な景色が見えて、身近でおもしろい消費テーマではないでしょうか。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2010年10月号掲載)