不動産フォーラム21
「シンガポールよ、どこへ行く?!」
シンガポール好きになって約30年。数十回とシンガポールに出かける私に友人は「よく飽きないね。何がそんなにいいの?」と聞いてきます。「緑あふれる美しい街、都会と田舎が微妙に混ざっていて、人が嫌味なくていい感じ」と答えてきました。しかし最近、シンガポールに行くと「あれ?」という気持ちになります。シンガポールが大激変を遂げているのです。
シンガポールの総人口は531万人(2012年)。私が行き始めた頃の2.2倍になっています。またGDP成長率も2010年では14.8%、2011年には4.9%と目を見張る成長ぶりです。
このシンガポールの”目を見張る感覚”を旅行者の目線でつぶやいてみました。
増える喫煙者?!
シンガポールの街はガーデンシティと呼ばれているだけに、街の美化にはとても気をつかっていてゴミもなく街歩きが楽しいところですが、街中の喫煙スポットに以前にも増してタバコを吸う人々の数が多くなってきたように感じます。特に目抜き通り沿いのスポットには複数の人々がタバコを吸いながらたむろしています。日本のようにスパスパと吸ってサッサといなくなるような喫煙者と違い、のんびりベンチに腰掛けてゆっくりしているところがシンガポールらしく、中には缶ビールを飲みながらのタバコとおしゃべりタイムを楽しむ人もいます。特に最近気付くのが女性の喫煙者。今までは街中で女性の喫煙者を見ることはありませんでしたが、20代の女性が喫煙スポットでタバコを吸う姿を頻度高く見かけるようになりました。
たしか、8、9年前、街のスーパーマーケットのレジで壁に並べられたタバコのパッケージに度肝を抜かれたことがあります。どの箱にもガンで皮膚がひどくただれたり、歯茎が真っ黒になったり、ガンに侵された肺の断面等の写真が印刷されているのです。2004年から始まったタバコ警告表示なのですが、その惨めたらしいインパクトには本当に驚きました。今でもタバコのパッケージには悲惨な喫煙者の末路を示しているのですが、シンガポールの喫煙者が減少したようには見えませんし、若い女性の喫煙者が増加しているのはなぜでしょうか。
実用車から遊び車に
外国に行くと、空港から街中に向かう途中で道路上の車列を見てその国の様子をうかがう人は多いのではないでしょうか。チャンギ空港から街中に向かう高速道路上では、見違えるほど車が立派にきれいになってきました。昔は、なぜ走っているのかが不思議なほどボロボロのトラックや、古い日本車や風よけにシャツを逆に着た人がポンコツのバイクに乗って高速道路を走っていたものですが、今ではステキでピカピカの乗用車やきれいなトラックが整然と車列をつくっています。
国土が狭いシンガポールではスムーズな道路事情を確保するために、政府陸運局が登録されている車両台数をコントロールし、車を買うためには車両取得権(COE)を得なければいけません。この権利が1,600cc以下で7万シンガポールドル、1,600cc超の車では8万6千シンガポールドルもするのですから、今の為替では500万円~650万円もの資金が必要で、COE価格は年々上昇傾向にあるそうです。さらに車両本体価格に関税・登録税等々もあり、日本で購入することに比較して3~4倍のコストがかかると言われています。
以前シンガポールに住んでいた友人がシビックに乗っていましたが「これでも立派な高級車」と笑って自慢していました。
このように諸国に比べ車保有コストがかかるシンガポールですが、この2~3年、びっくりするほど高級車が増えています。以前より中華系の超富裕層がベントレーに乗るというお決まりの姿はホテル等で見かけていましたが、街中でポルシェやフェラーリ、ランボルギーニを見かけ、多くのベンツ、多くのBMWが走っています。特に亜熱帯でスコールもあるシンガポールで、オープンカーに颯爽と乗る人々を見るようになったのは衝撃でした。羨ましいけどすごすぎる感じです。
若者がカッコイイ!!
正直、何度シンガポールに行っても若い人がカワイイ、カッコイイと感じたことはありませんでした。どこかダサくてヤボくさい若者たちが大半だったのですが、このところ急激にカワイイ女の子やカッコイイ男の子が増えています。以前と何が違うかというと、ファッションを着こなしている若者が多くなっているのです。世界で発信されるファッション情報をリアルタイムにキャッチし、それをすぐに手に入れられる売場が身近にあり(シンガポールの最大ショッピングゾーンであるオーチャード界隈には500m圏内に世界中のラグジュアリーショップや有名SPAが乱立している。大規模ショッピングセンターは日本よりレベルが高い館がある)、それを買える経済力を持った若者たちが生まれているのです。
また、日本以上にシンガポールではカフェブームが起こっていてセンスのよいカフェがいくつも店開きし、はやっていました。人気のカフェは行列ができるほどの盛況ぶりで、カップルや女の子同士、男の子同士(ここが日本と違うところ)でお茶してます。人気カフェにはスイーツがつきもの。ケーキやマカロン、ペストリーがショーケースで売られていて楽しそうです。
面白いのはカフェの名前。「パリスバゲット」「ルイジアナバーガー」「TOKYOスイーツ」「ミラノカフェ」と憧れの都市名が記されています。中には「セレブリティカフェ」という店名もあり、恥ずかしくてお茶するのは無理だなあと思いました。
こうして若者層も豊かさの中でライフスタイルを変えていますが、シンガポールでは若い男女の独身率が日本と同様に高くなり、20代後半女性の独身割合がこの10年で14ポイントも増え54%になり、晩婚化が進行しています。また結婚しても子供を産まない夫婦が増えて出生率は1.2人と日本以上に少子化が進んでいます。これは経済発展の著しいシンガポールで女性の社会進出が進み、8割の人がフルタイムの正規雇用で働き、キャリア追求型の志向性が強いことや、子供を自分よりよい教育環境におき学歴をつけさせたいとい考える女性が多いため、仕事優先・子育て苦労という子供を産みにくく感じる女性意識が高まっているそうです。
経済力が増し若者を中心とした人々のライフスタイルが成熟を始め女性が経済力を持ち子供を産まなくなる、国が豊かになるということはどこでも似たシナリオが描かれるようですね。
観光立国シンガポール
あるガイドによると全世界で観光客が多い国の4位がシンガポールで、2012年では1,440万人の人々がシンガポール観光を楽しみ、230億シンガポールドル(約1.8兆円)の観光収入をもたらしたそうです。単純に1人当たり12.5万円をシンガポールでつかっていくのですから大きな市場です。ちなみに、日本の外国人観光客は2012年で840万人だったそうです。
観光国家シンガポールは、良くも悪しくも変わりました。チャンギ空港は第3空港まであり立派ですばらしいですし、2010年の国営カジノ開業も大きな呼び水に、また、街中で夜に行われるF1レースも世界初で、観光客にとって魅力的なコンテンツです。
7、8年前のこと、ウォーターフロントのクラークキーを散歩していたら、一瞬空気が変わりました。私のそばで何人かの体格のよい男性が歩道に立ち止まったのです。不思議な気がして何気なく後ろを振り返ると、初代首相でありシンガポールを発展に導いた大政治家のリー・クアンユー氏がジョギングをしており私の前を通り抜けていきました。今では観光スポットで混雑しているクラークキーでの出来事です。のんびりした時代だったのです。
この5月のこと、ウォーターフロントのもう一つの人気スポットであるボートキーに行きました。ここもひと昔前はのんびりとしたナイトスポットで、夕方には近くのビジネス街からビジネスマンが繰り出してきて、ビールを飲んで夜風を楽しむエリアでした。さて食事の前に、夕暮れのウォーターフロントを楽しもうと思った私と主人は、かなり愛想の良い店員に案内され川岸の席へすわり、ビールとつまみ程度の料理を注文したところ、「もっと注文しろ」といわんばかりに様々なメニューをすすめてきます。「これだけで十分」と答えると「チェッ」と舌打ちされ、手にしたメニューをひったくるように持っていきました。長くシンガポールを旅してきた私たちですが、レストランでもブティックでもホテルでも、こんな態度をとられたのは初めてでした。「あー、シンガポールも観光立国になったんだなー」と川を渡る夜風に吹かれ、以前より光が多くなった夜の風景をながめつつ飲んだ苦いビールでした。
この30年間、シンガポールの発展に伴う変化の激しい時を、旅行者として見てきました。特に2010年の国営カジノの開業はシンガポールにおけるエポックメイキングな出来事であったと言えるでしょう。日本より発展し経済力を持つアジア代表国シンガポールは、都会と田舎が混ざった面白い国からまぶしいほどの先進国になりました。人々のくらし方がどう変わるのか!興味は尽きませんが、私のシンガポール通いはそろそろ幕引きとなりそうです。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2013年7月号掲載)