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2011.04.10

不動産フォーラム21

「コンビニ以上でスーパー未満街に生まれた新たなミニスーパーの動き」

 

商店街が街から消えた

 「はじめてのおつかい」というテレビ番組があります。すでに20年間も放映されている人気番組で、生まれて初めて一人でおつかいに行く子供達の大奮闘ぶりを紹介し、子供達の行動や発言に誰もが大笑いし涙する印象深い番組です。

 

 子供の頃のおつかいの失敗談は誰もがもっているもの。私も小学校低学年の頃、従姉妹を連れて茗荷を買いに米屋に行き「茗荷は八百屋」と知らされて恥ずかしい思いをしたことを今でも思い出します。従姉妹にお姉さんぶってみたかったのでしょう。しかし、この茗荷事件の実家近くの商店街は数年前に取り壊され、巨大なマンションに替わってしまいました。年々利用客も減少し、跡継ぎもいない寂れ行く商店街をみて、いつかは・・・と思っていたのですが、子供の頃のおつかい記憶がたくさん詰まった商店街がなくなってしまったのはさみしい出来事です。

 

 では、この街の子供はどこへおつかいに行っているのでしょうか。知人に聞くと「おつかいには行かせたことがない。店もないし、子供の一人歩きは危険だし」とのこと。子供が社会体験をする場がこうして失われてきているのですね。

 

 実は、この商店街消滅は別の意味で街の問題となりました。商店街を頼りにしていたお年寄り達の買物場所がなくなってしまったのです。80代独居老人の母は、やむを得ず徒歩圏のコンビニと無料老人パスで行く駅前スーパーで食卓を支えることになりましたが、母も街の老人たちも苦労が増えました。

 

 一見、何でもあり何でも体験できる都会ぐらしですが、高度化の陰に、“隙間の不便さ”が生まれているのも都会の現実です。

 

コンビニ以上スーパーマーケット未満 ―新展開のミニスーパー

 このごろ都心部で、“コンビニ以上スーパーマーケット未満”の小型スーパーが出店を始めています。

 

 イオングループは2005年より、地域密着型の小型食品スーパーマーケット「まいばすけっと」を首都圏中心に177店舗出店しています。150㎡~250㎡の売場に生鮮食品や総菜や飲料等、2,000~3,000品目を扱い、7時~24時営業、商圏は店の半径300mを想定していて、年間2億円の売上を各店が目指しているそうです。一般のスーパーのようにチラシ配布はなしで特売もせず、地域の基本的な食品ニーズをコンパクトな店舗で安定的に販売するというローコスト運営の小型食品スーパーです。

 

 また対抗馬のセブン&アイ・ホールディングスは2010年秋より、店舗面積が500㎡~700㎡という総合食品スーパーの約5分の1の規模の「イトーヨーカドー」を首都圏に3年間で100店舗出店の計画を立ち上げ、杉並区阿佐ヶ谷に1店舗目を出店しました。この店は、レジ作業や清掃等の運営面でコンビニのセブンイレブンのノウハウを生かし、効率化を図る計画だそうです。

 

 私が住む東京都大田区の街に前述した「まいばすけっと」が今春、店を開きました。実は、私の居住地は極めて利便性の高い街で、徒歩10分圏内に6店の総合スーパーマーケットや食品スーパーがひしめき合う激戦区のため、安さではA店、野菜はB店、精肉・鮮魚はC店というように店の使い分けができるほど住民にとってはハッピーな買物環境にあります。その街に殴り込みをかけるかのように出店したのが「まいばすけっと」で、何と安さと品揃えで人気の高い総合スーパーのまん前に、小さな小さな店を出しました。

 

 さっそく偵察に行ってみると、老人や若者が買物に来ています。弁当や惣菜も十分、酒類は幅広な品揃え、お米各種、歌詞も大袋で種類豊富、冷凍食品も十分に、日配品も、野菜・肉も基本は押さえられていました。魚は種類少なく鮮度は ? ともかく魚以外は食事の買物の基本はそろえることが十分にできる店で、イオンのプライベートブランドの飲料や菓子類も充実しているなあーと思っていると、手押し車を押したおばあちゃんが、一人で入店され買物を始めました。ちょうど目の前の大型店は週末の買物客でごった返す夕刻です。私の母が「安い店や大型店に行きたいとは思うけど、年寄りには人混みがこわいし、何がどこの棚にあるのかもわからないので、買物が難しい」と言っていることを思い出しました。このおばあちゃんをはじめとする街のお年寄りや地域の単身者の人たちに、今までの食品スーパー6店舗が提供してこなかった“コンパクトに食品の基本を押さえた長時間営業店”という“隙間利便”を今後この店が実現することになるはずです。

 

消費変化への対応力

 日本の人口は2005年をピークに減少傾向にある中、前述の小型食品スーパーは各店が将来的に100店~300店の出店計画を発表しています。景気低迷・人口減少の中でなぜそんな発展的な計画を立てられるのでしょうか。

 

 実は、総人口が減少していても大都市への人口流入は多くあり、東京都では2005年から2010年までの6年間で区部・市部の合計が50万人増で、1,290万人。2015年には1,308万人に達すると予想されています。また小売業の売上は、東京・大阪・神奈川などの大都市圏で全国の40%を占める状況となっており、少子高齢化の日本では、弁当や菓子類が中心のコンビニでは拾いきれない消費者が都市部に多数いて、それも単身や2名以下の核家族の比率が極めて高いために、その消費者の食事重要を上手に拾うべく、イオングループやセブン&アイ・ホールディングスが小型食品スーパーという新業態の取組みを始めているというわけです。

 

 2006年に制定されたまちづくり三法により、すでに郊外への大型店出店が困難な時を迎え、さらに2年以上も売上減少が続くスーパー業界で、消費変化により生まれた意外と大きな隙間ニーズに対応するこの新業態が、スーパー業界の救世主になるかもしれません。そして何よりお年寄りやおつかい体験の子供にとって街のホットスポットになることを期待します。

 

 

(記:島村美由紀/不動産フォーラム21 2011年4月号掲載)