MAGAZINE

2016.09.27

販売士

「ややこしい」は不満の入り口

 

 「ややこしい」という言葉があります。わずらわしい、めんどうくさい、やかましい、というような意味合いで、事柄が簡単ではなく心を悩ませている状態であるような場合に使われる言葉です。近頃は関西圏で日常的に使われている言葉がテレビをとおして一般化しているので、この「ややこしい」も時々耳にするようになった気がすると思っていたら、あるとき札幌の百貨店で「あーもうややこしいなー!!」と怒っている女性に遭遇しました。
 

検品は品出しの前では?
 事の成り行きはこうです。その女性は百貨店の化粧品売場で使いつけの商品を複数個買おうとしたところ、商品の箱をすべて開封し、1つずつ中身を取り出して検品をした店員に「いちいちめんどうくさいわね、ああややこしい」となったようです。
この女性の「ややこしい気持ち」には、私も大いに同感です。女性ならこの気持ちがよく分かりますよね。私も毎回店員さんのやるこの儀式に付き合ってきましたが、とても嫌な気分でした。口には出さねど「ややこしー!!」の気分だったのです。
なぜお客様の前で商品をすべて検品するのか?出荷前の工場や店の入荷時にたいがいの商品では当たり前の検品ステップのはず。化粧品だけの不思議な販売方法です。
 そこで私もどのくらいの数だと店員が検品をあきらめるものか、ちょっと意地悪な気持で試してみました。都内百貨店のC社のブランドコーナーで1個800円のアイブロー(まゆ墨)替え芯を6個とマスカラ同種2本を購入しました。どれも私が長年使いつけている商品です。
 「お客様、商品はこちらです。念のため中を開けて間違いがないか確認をいたします」と、店員さんのいつもの儀式が始まりました。ペーパーナイフのような用具を取り出し、小さな箱を開け中身を出し、見ては戻し、2つ目の箱を手にとり同じ動作を繰り返す店員さんに3つ目を手に取った時「それって全部同じことやるの?」と声をかけると、「もし、間違いがあったら困りますので」と手を止めず、3つ目4つ目とまるで番長皿屋敷のように箱が開けられていきます。「さすがに大手C社さんだから1つ2つやったら間違いなんてないんじゃないの~」とくずくず言っても、「何かあったら」の一点張りの店員さんは手を止めず、全8個の箱を開けて検品ゴールとなりまた。「でもね。検品しているあなたは仕事だけど、私はなんでこんな時間をとられなきゃいかないのかわからないですよ」という私の嫌味にも店員さんは「申し訳ございません、間違いがあったら大変ですから」と真顔で答えます。
 不思議ではないでしょうか。確かに化粧品は細かく、品番も色も多種多様。シーズンごとに新商品がたくさん発売されるので、莫大な種類と量を工場で製造しているはずです。しかし、今の時代に大手化粧品メーカーが生産工程で中身を間違えたり、ダメージ商品を詰めたりするものでしょうか。ちょっと信じられません。
 そこであるメーカーにこのややこしい儀式について問い合わせをしたところ、「万が一、中身が折れたり、割れたり、色が違っている場合にお客様にご迷惑をかけることになるので」という答えが返ってきました。しかし、「万が一」と言うようにまずそのようなことは「滅多にないこと」だそうです。この滅多にない事のために、お客と店員の膨大な時間が消費されているのはいかがなものかと思います。また一般的に検品は店頭に商品を置く前にやっておくべき作業ですよね。なんだか「ややこしい話」です。

 

身近にある「ややこし売場」
 もう1つ、近ごろ「ややこしい」と痛感する売場があります。「ややこし売場」それは食品スーパーです。皆さんは食品スーパーでどの棚に何が陳列されているのか、すぐに分かりますか?私は年々どこに何が置かれているのか見分けが付かなくなってきていて、目的の物を探すために一苦労しています。店員さんが売場にいたらすぐ聞くのですが、近ごろはローコストオペレーションとやらで店員さんの姿を見かけることもなくなりました。「まずい。もっと年をとったら、このややこし売場で買物ができなくなり、私はスーパー難民になるかもしれない」という恐怖心すら湧いてくるこのごろです。
 そこで、どうしてこんなにスーパーはややこしくなったのか考えてみました。まず第1に物流にのせやすく棚にも納めやすいパッケージの進化とサイズやデザインの同質化で、棚が整然としすぎ棚ごとのカテゴリーの個性がなくなっていることです。ぱっと見渡してもスキッとしすぎて商品が目に引っかからなくなっているので、店内を見渡してもみな同じ棚に見えてしまいます。第2に大手スーパーの台頭により、店内の棚のサイズが規格化され高い棚が増えたため、店内サインが上に上にと高くなった結果、客視線からの認知促進が図りにくくなっているのではないでしょうか。
 どちらにしても高齢化する日本においてはこの「ややこし売場」を高齢者のために改善しなくてはならないという気がします。

 

「プチややこし」に毎日遭遇
 これら以外にも、日常生活に潜む「ややこし」「プチややこし」は多くあり、見えないストレスになっていることもよくあるように思います。
 あるコーヒーショップは注文とお代はこちらで、品はあちらで受け取りなさいと、お客様に移動を強要する指示を出します。こうした「プチややこしさ」がみんなの気持ちに溜まってしまったためか、近頃は値段が高くてもフルサービスのコーヒーショップに人気が戻りつつあるようです。
 日々、利便性や合理性が強化されて我慢をせずに生活や買い物ができる時代になっています。わずらわしいことや面倒な事は負担に感じ不満に結びつき、お客様は心を冷ましていきます。「ややこしい」とは感じさせないお客様都合による売場やサービスの在り方は、自分が客目線になるといろいろ見えてくるものです。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第22号(平成28年9月10日発行)女性視点の店づくり⑦掲載)