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2020.04.22

日経MJ

ファッションビル 次代の風 ー「京都BAL」、個性増し存在感放つ ー

 京都の服好きになじみのファッションビルといえば、昔から「京都BAL」が有名だ。1970〜80年代のDCブランド、90年以降は欧米のデザイナーブランドを揃えた館として定評がある。建て替えという大リニューアルから5年を経て、さらに存在感を増している。

 

外観イメージは米西海岸ホテル

 2015年8月、長い休業を経たBALの大胆に生まれ変った姿に来館者から歓喜の声が上がった。計画は敷地に隣接する2ヶ所の土地を買収して敷地面積を350坪(約1,160㎡)から2.4倍の850坪(約2,800㎡)に増やし、2年半の完全休業を経て館を建て替えるというものだった。

 

 「1970年代から高感度ファッションビルを展開してきたが、次の時代に生き残るためには個性を際立たせた強い館づくりが必要と考えた」とプロデュースした中澤ホールディングス(京都市)の中澤勇社長は語る。

  

 新生BALは「あたかも100年前から佇む西海岸のホテル」をハードのイメージに進められた。外観は西海岸にある上質な老舗ホテルを思わせるデザインだが、館内はモダンな軽やかさと清々しさのある空気が流れる。この空気感をもたらしているのは、通路の広さ(5m)と天高(基準階3.8m)に加えて約3,650坪(約1万2,000㎡)の売場面積を30店舗弱のショップが大型店・小型店ともに余裕をもって空間構成されている点にある。

 

 回遊する客の気持ちにもゆとりが生まれどの人も歩調が緩やかだ。さらにこの空気感を象徴しているのが、4階や6階にあるパウダールームで京都の街並みを見下ろす大窓に白・ブルー・木を基調としたクラシカルモダンデザインのリビングルームのような空間は贅沢な心地良さを女性客に提供している。

 
 

ゆとりある空間 居心地よさ演出

 歴史あるBALは1970年当時から最先端の国内外のデザイナーブランドを集積し高感度な館を展開してきた。しかし、百貨店の増床や競合商業ビルの増加、電子商取引(EC)普及という厳しい環境の中、新生BALづくりは始まった。BALは昔からブランドの主張を重視してきた館だが、今回はよりブランドにやりたい事をやらせ、館はそれを包み込む舞台という考え方を徹底した。どのブランドも各分野のトップクラスを集め、トップだからこその世界観を存分に表現してもらい、その集合体を新生BALとして打ち出した。京都・河原町までわざわざ足を運ばせる策として強い個性集合体をつくる事が、効率重視の駅ビルや百貨店にはできないBALだからこその英断だったわけだ。

 

 それを特に表しているのが最上階と地下階だ。最上階6階には「RonHerman」があるが、外部空間の中庭を周遊して吹水や季節の草花を楽しみながら入店するという仕掛けが施されている。中庭がRonHermanの世界に入るプロローグというショップからの申し出を中澤社長が聞いた時、開業日が迫っていたが強い世界観の打ち出しのために即決した。

 

 また、地下階に大型書店を配置したのも「本屋は食品のような存在。誰もが気軽に利用できる場所であるべき」(中澤社長)との考えからで、地下2層1,000坪(約3,300㎡)弱の丸善が誕生した。実は丸善は1907年に京都店ができ100年間地域の人々に愛されてきたが2005年に閉店した。そんな丸善の10年ぶりの再出店とあって老若男女の来店が絶えない。この客が帰りがけにブラブラと館内のショッピングを楽しむ姿を見かけるので“本屋は食品と同じ役割説”はうなずけるものがある。

 

 BALは大リニューアルから4年後の19年春にブランドのブラッシュアップを行った。大人層を主体とした館に間口の広さを加えようと、ラルフローレン、スターバックス、ラルフズコーヒーなど馴染みのあるアメリカンテイストのショップを導入し、若者層の呼び込みに成功している。

 

 そラルフズコーヒーは東京に1店舗だけだったが、米国と交渉し誘致を実現させた。若い女性のグループや母娘など華やかな来店客でいつも満席である。またスターバックスはほかのスタバとは一線を画し、京都のクリエイティブチーム「SANDWICH」が店内をディレクションしたアート空間で、若手アーティストの作品が入れ替わりで配置され鑑賞だけでなく購入もできる。「アートなスタバ」は独自な世界観で知的な若者達が自分時間を楽しむカフェとして人気だ。

 
 

 「BAL」という名は仏語で舞踏会を意味し「パーティーのように人々が集う場所」という思いで50年前に命名された。整えられた空間・個性的なブランド・新しいモノとの出合いなど時間&空間が贅沢に用意された存在は、現代の人の集まり方とショッピングの楽しみ方を示し、京都人の心をつかんだ。

 

 BALのネクストステージは「専門性へのこだわり」をさらに深める事だそうだ。個性の館は次も面白いシーンを見せてくれるに違いない。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2020年(令和2年)4月22日(水)掲載)