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2022.07.20

日経MJ

「2代目」京都に共生の風 -新風館、ホテル併設の複合施設に-

  

 「新風館」(京都市)は、築100年近い旧京都中央電話局を生かした商業施設とコミュニティホテルとして注目される「エースホテル」からなる複合施設だ。NTT都市開発が電話局を改装して2001年に初代の新風館を開業。16年に一時閉館した後、20年に複合施設として再オープンした。

 
 

街と心地よくつながる場に

  初代「新風館」はインパクトある商業施設だった。レンガ建ての旧電話局の保存棟に、青い鉄骨をむき出しにした硬質な増床棟がロの字型で配置された建物だった。

 

 京都の街中に城のような塊が打ち込まれたような印象。外界と隔絶された内部では、しゃれた店舗が並び、にぎやかなイベントが開催される祝祭の空間が広がっていた。それまでの商業ルールにない 「閉ざしつつ、迎え入れる」手法が、斬新で驚きだった。来街者は「京都っぽくない」「まるで東京」「若者向き」との声が上がっていた。

 

 一方、20年に刷新した二代目「新風館」は、「伝統と革新」という同じコンセプトながら、京都の街並みと弾力性をもってつながっていく「しなやかな存在」に生まれ変わっている。設計はNTTファシリティーズ、建築デザイン監修は隈研吾氏が担当した。

  

 「しなやか」と感じる要素を3点挙げてみよう。1つはウエルカム・マインドあふれる雰囲気、2つめは硬そうで柔らかい建物群、3つめは多様な居場所を設定したしつらえだ。

 

 新風館は施設の3方向が外の大通りと接している。「姉小路通り」沿いは保存棟のレンガタイルで組まれたアーチ形のエントランスとエースホテルの正面玄関がある。「東洞院通り」沿いは、店舗が連なる敷地内のパサージュの入り口が面する。「烏丸通り」沿いは木組の軒のような大きなゲートがある。

 

 京都らしい細い路地(辻子)をイメージしており、どの方向から入っても新風館の建物に囲まれた中庭に至る。そして通りと通りをつなぐショートカットの機能も持つ。

 

 例えば姉小路通りから緑豊かな中庭通りに向けて店を楽しみ、東洞院通りに抜けることができる。街の人々が、新風館を寄り道や近道の空間として気軽に使いこなしてもらいたいとの思いがこもっている。中庭はリニューアル前には大型のイベント広場だったが、今は木立の中に紫陽花などが美しく咲き、小川も流れる散策路として人々の心を和やかにさせる。中庭に面したカフェでは、ガラス越しに庭の緑や人の往来が眺めることができ、コーヒーとともに静かな時間を楽しめる。

 

 二代目の新風館の目玉となるのがエースホテルだ。エントランスや中庭に面する外壁は神社仏閣で見るような木組みとなっている。

 

 太い木材の存在感が際立つが、個々の木材は寄木細具のように何本もの細木の組み合わせで形成されているため、不思議なほど重さはなく、繊細な軽さを表現している。

 

 さらに細長い羽板を格子状に隙間を作って並べたルーバーとよばれる目隠しを窓に配置している。ルーバーはそれぞれ羽板の角度がランダムに変えられており、リズム感やカジュアルさを演出している。木組みや格子状ルーバーなど京都の街並みに適したアイテムでありながら、表現の仕方を工夫することでモダンさも兼ね備えている。

 

 またエースホテルのロビーは24時間出入り可能で、新風館を訪れる人の大切な「居場所」の一つとなっている。コーヒーショップが併設されており、仕事の打ち合わせから読書まで自由にくつろげる。ホテル内にはアートギャラリーや複数のレストランとバーもある。ホテルスタッフはカジュアルな私服姿で堅苦しさを感じることはない。

 

 このほか施設内のパサージュにも工夫が込められている。不動産管理を手掛けるNTTアーバンバリューサポートの小林裕之氏によると、「パサージュは雁行(がんこう)型に店舗を並べ、来訪客の目にそれらの店が次々に入ってくるような視覚的な効果がある」と語る。見晴らしのよいパサージュ内のブックカフェやスイーツ店には女性客の来店が絶えない。来館客は幾度も新風館に来ることで、それぞれが最も居心地よく感じるお気に入りの場所を見つけていくという。

 

 新風館内にはアイウエアやファッション衣料、雑貨、本などのほか、高級チョコレート店やギョーザ店など合計約20の店がテナントとして入っている。こだわりの強い店を集めた。新風館の宇佐川昭館長は「お客は唯一無二の建築と中庭の配置、個性的なテナント構成によって醸し出される空間を楽しみにして来訪する」と胸を張る。初代新風館は京都の街に「斬新」の風を吹かせたが、リニューアルした2代目新風館は「共生の優しさ」という清爽な風を吹かせて人々のこころをつかんだようだ。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2022年(令和4年)7月20日(水)掲載)