販売士
ジェンダーニュートラルな香の新世界
●男性の美欲求に火がつく。
近年、メンズコスメ市場が急速に進化しています。多くの国内外化粧品メーカーが男性用スキンケアやメイクアップ商品を開発・販売して売上も好調です。CMや広告でもメンズコスメを扱ったコンテンツが急増し、人気芸能人やミュージシャンの男性たちが奇麗なお肌やプルプルの唇で微笑むシーンが目に留まります。仕事でお会いする男性たちも若い世代を中心にツルンとした色白の奇麗男子が急増してきました。大昔の脂ぎったおじさまも少なくなった気がします。
この男性トレンドの背景には男性の美への意識変化やライフスタイル変化が関わっている事は言うまでもありません。では、どんな男性意識動向が起こっているのでしょうか。
“LGBTQ”今では誰もが意味を理解する言葉になっていますが、1990年代頃から国連関係機関の呼びかけで多様性を認める意識のひろがりが生まれました。職業やファッションや暮らし方についてもジェンダーニュートラルな価値観がひろがり、若い世代ほどジェンダーニュートラルを当たり前に実践するライフスタイルを持つこの頃です。
そこで、以前は美容やスキンケアは「女性のためのもの」という固定概念がありましたが、近年ではジェンダーフリーに美しくなること、清潔感をもつこと、自分が気持ちよくなることが誰でも自由な関心事となり、メンズコスメ市場が活性化してきたわけです。
SNSの役割も大きいですね。男性美容系インフルエンサーや有名アーティストが自分のメイク方法や美容ルーティンをSNSで紹介し効果ある商品を教えたりする動画は、男性の美意識に火を付ける大きなきっかけになったと言われています。
特に日本は気候変動が激しくなり、スキンケアは誰もが美容と言うより健康維持の一部とみなす時代になりました。コスメも男性に特化した使いやすい商品やケアにとどまらず、より奇麗に見えるメンズファンデーションやコンシーラー、アイブロウ等の分野もあり市場の拡大を生んでいます。
先日、渋谷センター街を歩いていたら数名のヤンチャ系ファッションの男子グループが日焼け止めクリームについて会話をしていました。「○○メーカーの○○が焼けにくい。三度塗りくらいして使っている」「ベトベト感が気持ち悪いからサラッと感のクリームはないかな」などの声が聞こえてきて、女子と悩みは同じだなあと微笑ましく感じました。
●ジェンダーフリーな“香ブーム”
男性の意識変化をベースに注目を集める新ショップが“香”の分野です。今までは香りというと女性分野でディオールやエルメス、シャネル等のラグジュアリーブランドが甘い香りをベースにした化粧品っぽい華やかな香水を定番として人気を博していましたが、近年は新しい感覚の調香師による男らしい・女らしいという境界線を越えた新ブランドが立ち上がりZ世代を中心に人気を集めています。「Le Labo」「Aíam」「TAMBURINS」「Jo Malone London」「Aēsop」「BYREDO」等いくつもあり、フランスばかりでなくアルゼンチンやオーストラリア、韓国、日本など多様な国の新感覚香りブランドが出店しています。
どの店も共通に特長的なのがジェンダーニュートラルな店づくりであること。女性目線ではなく男性たちにとっても、とても入店しやすく開放的な店舗デザインです。「ちょっと覗いて、ちょっと試して、スーッと出ていける」が基本ですが、ブランドの風格はしっかり表現されとてもお洒落な新デザインを打ち出しています。そして商品も男らしい・女らしいを超える香りを追求しているためか、お茶、檜木やハーブ、スパイス等のナチュラルエッセンスが特徴的です。中には海の香りもあったりします。
ジェンダーニュートラルな香りの店舗を見ていると女性・男性がそれぞれに来店するだけでなくカップルの来店が目立ちます。二人で来てそれぞれの香りを選んだり、好きな香りを相手にギフトにしたりし若いカップルはデートの目的になっている様子でとても楽しそうです。
また、有名な新宿伊勢丹メンズ館のメインフロア1階では売場の1/3を香りコーナーとし、多様なブランドのフレグランスが揃い老若男女の集客の目玉となるほど圧巻の品揃えです。
役割や性差の囲いを解き放ち“自分を楽しむ”を軸とする新しい消費が香りの世界でも始まっている一例です。
(記:島村 美由紀/販売士 第58号(令和7年9月10日発行)女性視点の店づくり㊸掲載掲載)
