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2019.08.27

繊研新聞

シームレスが街や館の 高価値を生む-時代感覚で都市機能を再構築-

 
 
 近年オフィスビル開発が変わってきた。閉鎖的な館づくりではなく“街に開かれた館づくり”の工夫が積極的になされている。この動きで画一的なオフィス街が開放的な雰囲気となり、街づくりにも変化が生まれている。

 

 

自由な往来が変える

 東京・京橋は大手企業の本社ビルが集積する代表的オフィス街だが、13年東京スクエアガーデン、16年京橋エドグランの開業で街の様子が一変した。変化の要因は、ともに低層階に開放的な店舗を配置し、館を貫通する通路を設けたことにある。
 京橋エドグランは約31mのガレリア空間(貫通道路)が街の広場となり、著名スイーツショップが1階の角地に店を構え、店前テラスではお茶を楽しむマダムの姿でにぎやかだ。ガレリア空間の随所にソファが置かれ、来街者がくつろぐ。32階の巨大オフィスビルだが、どこからでも自由に出入りできる低層部の開放空間が人々を歓待している。  
 東京スクエアガーデンも通り抜け通路を往来する人の姿が街の景色となり、大街区に対し通路が街に密度を醸し出している。このビルは低層を覆う緑と3階に「京橋の丘」という緑の広場を設け開放している。1階には大型アウトドアショップがあり、緑と店舗の相性の良さが楽しげに見え好印象だ。

 

 東京駅を挟んだ丸の内側は、00年代初期に開発が盛んだった。商業施設も立地するが、館の内側に人々を呼び込む視点で開発され、高感度ファッションショップが館のシンボルとして1階に導入され、館の格を表現している。

 

 振り返ると、ファッション業界はこの20年間、売り上げが順調で出店意欲が高く、賃料負担力もあり、通行量が多い立地では複合ビル低層部への出店に積極的だった。しかし近年、消費者のアパレル離れやEC台頭により業態開発力、出店意欲が低迷している。逆にレストランやカフェは、この10年間で新業態が生まれ、カフェブームで事業者が増えた。
 このような商業動向から、内に人を呼み込むタイプの丸の内に対し、街に開かれた京橋の館のあり方は、00年代と10年代後半の経済動向と消費者の価値観の差が垣間見られ興味深い。

 

 同様な開発もある。東京ミッドタウン日比谷(18年開業)は並木を整備し、歩行者専用街路をつくり、ステップ広場で定期的なイベント運営を街ぐるみで行っている。低層階には外に張り出したカフェを配置、6階には大規模な緑のテラスが日比谷公園と一体化するパノラマを提供。この動きが日比谷を大人の街によみがえらせた。
 渋谷ストリーム(18年開業)は大手IT企業が入居するオフィスビルだが、個性的なのはビルを貫通する代官山から渋谷駅に抜ける小路に商店街をつくり、渋谷川を生かした遊び心ある取り組みだ。街から人を招き入れ、自由に楽しませるヒューマンタッチの街接点のあり方が特徴的だ。

 

 

ハイブリッドセンス

 中型ホテル、スポーツジムやフィールド、大浴場やリラクゼーションサービス、医療施設、保育施設、コンベンションホール、シェアオフィス、コワーキングスペース、ポップアップスペース、スクールなどは、今どきの新開発オフィスビルに併設された多様な機能だ。特に、健康増進や癒し機能の充実と多様化する働き方に対応するシェアオフィス、コワーキングスペースなどの登場が新機軸。例えば、本格的なトレーニングジムやフットサルなどがプレーできるスポーツフィールドも登場している。サブスクリプションのヘアサロン、仮眠スタジオやメンズグルーミングサロンの進出も始まっている。都心部ではシェアオフィスニーズが高まり、ターミナル立地のシェアオフィスは高効率で利用されている。これからは異業種や事業協力者とのコミュニケーションがはかれ、ネットワークチャンスがもてるコワーキングスペースが話題になるだろう。

 

 働き方改革が注目されている。気分や利便さで仕事をする場を変え、スポーツやリラクゼーションで気分転換が身近でできれば現代人のワークスタイルは豊かになる。それを実現するハイブリッドなオフィスビル開発がすでに本格化している。
 時代が進み人々のニーズが高度化すれば、都市機能も変化が必要だ。従来の商業・宿泊・業務・文化といった縦割り単機能ではなく、複数用途が複合された進化型都市施設が望まれる。 従来の効率重視の開発計画ではなく、人々が快適に働ける新オフィスビルは「働いてみたい」「借りてみよう」という高評価につながる。街に開かれた館が集積すれば、街に活気が生まれ「訪れたくなる街」としての評価になり、来街者が増え、結果的には館や街の価値が上がる。

 

 20年以降、都市圏では大型開発が計画されている。人々の利便欲・快適欲がより深まるだけに、進化したシームレス都市施設が誕生し、個性ある街が増えることに期待したい。

 

 

(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2019年(令和元年)8月27日(火)掲載)