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2019.08.21

日経MJ

日比谷、大人の劇場都市へ -ミッドタウン発、曲線美の空間-

 

 日比谷の街が変わりつつある。2018年3月に開業した複合施設「東京ミッドタウン日比谷」(東京・千代田)が起爆剤になり、高感度なブランド店やグルメ店が集積。ワインの試飲会のようなイベントも増え「大人がゆっくり街を楽しめるようになった」と評価が高まっている。

 
 

そびえるタワー踊る男女に着想

 東京ミッドタウン日比谷の開業とほぼ同時期に、「日比谷シャンテ」もリニューアルオープンした。晴海通りから入ると、ミッドタウンとシャンテの建物の曲線がシンクロして見える。緑豊かな歩行者専用道路の仲通りが帝国ホテルに向けて伸び、日比谷はシックな大人の劇場都市に進化したことをうかがわせる。

 
 
 日比谷周辺は江戸時代には大名屋敷が連なり、明治時代には鹿鳴館や帝国ホテルが建つなど常に時代をリードしてきた街だ。日本初の近代公園である日比谷公園が整備され、昭和初期には大手企業がオフィスを構える。日生劇場や帝国劇場、複数の映画館も続々と開場。緑豊かな公園を備えつつ、経済、社交、エンターテインメントが交差する都心部でも稀有な土地柄だ。
 ここに1930年に竣工した三信ビルディングと60年竣工の日比谷三井ビルディングの跡地再開発としてミッドタウン日比谷が作られた。地上35階、地下4階の大型複合施設で、商業施設やオフィス街、シネコン等を備える。

 

 設計は英国を代表する建築事務所、ホプキンスアーキテクツが担当した。鹿鳴館からインスピレーションを受け、舞踏会で踊る男女をイメージし、コンセプトを「ダンシングタワー」とした。日比谷通り側の低層部はアールデコ様式の建築物として名高い三信ビルディングの壁面デザインを踏襲。高層部には男女が腕をまわしステップを踏み出すかのように、二面にデザインが異なる曲線の外装がつくられた。
 6階の「パークビューガーデン」は緑あふれるテラスで、来館者を和ませる。「ピープル・イン・ザ・パーク」というキーワードをもとにデザインされ、日比谷公園と皇居を一望できる秀逸な景観。多くの来館者がSNSで発信を競うスポットとなっている。
 商業施設1階の「アトリウム」も3層吹き抜けに、曲線を多用したエレガントな空間だ。開業時のセレモニーイベントではオペラ歌手のミニコンサートを開き、ワインの試飲会なども頻繁に催す。60の高感度な店舗を囲むアトリウムの艶やかな雰囲気がイベントやポップアップショップをより魅力的に演出し、人が集まる好循環を生み出している。
 地下鉄2路線と接続し利便性の高い地下1階の「日比谷アーケード」も印象深い。地下広場にはカフェや食物販店が並ぶ。三信ビルディングの有名なアーケードデザインが踏襲され、華やかさを演出している。

 
 

開かれたカフェ にぎわいを外へ

 東京ミッドタウンの開業後、日比谷では様々なイベントが開催された。昨年秋の「日比谷シネマフェスティバル」では約3週間に140万人もの来街者があり、冬の「日比谷マジックタイムイルミネーション」はクリスマスシーズンだけでも280万人もの来街者があった。

 

 日比谷では周辺企業や商店会、町会が一体となって15年に社団法人「日比谷エリアマネジメント」設立した。地域の環境保全やイベント開催に力を入れている。その中心舞台がミッドタウンの前にある「日比谷ステップ広場」。イベント開催時には階段が座席、広場がステージに変身する。

 

 日比谷では近年、外に向けて開かれた店舗も増えている。ミッドタウン内外の複数のカフェでは、街路や広場に向けたテラス席で寛ぐ女性たちの姿が目立つようになってきた。 にぎわいを館の中だけに閉じ込めるのではなく、外に向けて発信していく姿勢が、日比谷の街を長時間滞在して楽しめる街に変えつつあるのだ。

 

 昭和の日比谷と言えば、日本を代表する劇場街で映画客や観劇客でにぎわっていたが、街はかなり雑然としていた。怪しいプロマイド屋や軒を連ね、狭い道に車の往来もあり決して居心地良いとは言い難く、映画や芝居がはねると客は街から離れていった。令和の時代日比谷ミッドタウンを中心に大人が寛げる街に変貌した。その流れが周辺に波及することを期待したい。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2019年(令和元年)8月21日(水)掲載)