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2024.12.10

販売士

ひかる対応とくもる対応の差とは?

 
 

●くもる気持ちはどこからくるの?
 パスタ屋に行った時の事です。昼の開店5分前に到着し店前で待ち合わせをした友人とも会えました。ガラス越しに見える店内では数人のスタッフが開店の最終準備をしています。

 

 一人のスタッフが外に出て来て一番乗りの私たちに「メニューを見てお待ち下さい」と言いメニューブックを差し出しました。とっさに「なんで??そんな事は嫌です‼」と私の口から言葉が出てスタッフは驚いて一歩後退りしました。私の言葉がきつかったのかも知れませんが、なぜ道端で立ったままメニューを見なければならないのか分かりませんでした。

 

 そこは一般的な価格ですが老舗で美味しく、時々ランチを楽しみに利用します。友人はその店が初めてだったので早めに行きゆっくりランチをしたいと思っていました。友人はその店を「安い蕎麦屋の混雑対応みたいだ」と評していました。

 

 専門誌では行列で待つ客にメニューを渡し注文を決めさせるのは店も客も時間短縮になるばかりでなく「注文したので待とう」という客の離脱防止にもなると記されています。スタバやタリーズでも混雑時に同様の対応体験をしますが、店内に客はゼロで一番乗りの私たちに路上で注文を決めさせる必要があるのでしょうか。

 

 店内で着席し、ゆっくりメニューを楽しみながら注文を決めるのもレストランの楽しみ方のひとつではないかと思います。この時は美味しいパスタを味わう前に気持ちがくもってしまいました。

 

 都内アパレルショップに行った時の事です。セットアップで楽しめるジャケットとパンツを見つけました。しかし、パンツのサイズが合わないためスタッフが小サイズの在庫を確認してくれました。「当店にはないが全国で1点だけ新潟店にあります」との答えにマニアックなブランドなので意外な都市に店があるのだなという思いで「えっ新潟なの」と言うと「取り寄せはできますが購入が前提です」とスタッフは返してきました。

 

 まだ取り寄せを頼んでいないのに購入前提と制限をかけられるのは感じのよい会話ではありません。しかし、そこはグッと堪え別の用足しをして2時間後に店へ戻ると「色違いで小サイズがあるので試着しますか」と同じスタッフの気遣いのひと言があり気持ちが緩みます。

 

 試着後、丈が長めだったので裾上げをしてくれるか尋ねると「お客様でお願いをしています」との返事で意味を理解するのに数秒かかりました。「自分で直すか、直し屋に持っていきなさいということ?」と聞くと「そうです」との答え。本当に驚きました。

 

 安価なブランドではありません。パンツは3万円弱。小売専門店業界では20位以内にランクされるアパレル企業のアッパーブランド店のお話です。何とも世知辛い話で、楽しいはずの買物もパッとしないくもる気持ちになりました。 

 
 

●ひかるスイッチの押し方
 なにげに入店したスポーツアパレルショップで気分良いスタッフの対応に出会いました。その店はフランスのスポーツブランドで日本でもお馴染みの店です。このスタッフの商品説明が丁寧で「他には?」との私の問いかけに「新商品ではこれは似合うけれどこれはタイプが違います」と客にマッチする提案をしてくれます。

 

 気分が良くなった私は高額なポロシャツを買ってしまいました。「あなたの接客はとても良い」と褒めると「たいへん光栄です」との言葉!!20代の若者から“光栄”という言葉がきけるとは思ってもいなかった私は紙袋を下げた帰り道で頬がゆるみました。

 

 実は前段のアパレルショップには後日談があります。あの数日後、新潟から荷が届いたという連絡を受けて商品を取りに店へ出向くと別のスタッフが対応してくれました。

 

 取り寄せパンツを試着する時「お客様、この数日で新作が入ってきたので店内を一度ご覧になってお気に入りを一緒に試着してみては」とこのスタッフが言うのです。その人は入店した時も「雨に遭いませんでしたか」と気の利いた言葉からコミュニケーションをスタートさせた人です。特別なやり取りではないのですが何気ない大人の会話ができる人に会えて爽やか気分になりました。

 

 大人の会話ではありませんが面白くて笑ってしまう出来事もあります。F1層を狙ったアパレルショップでスカートを試着しました。

 

 自分好みで購入を決めていましたが、外から若いスタッフに「いかがですか」と声掛けをされたので申し訳ないと思い、そのスカート姿で試着室の外へ出て「どう?」ときくと「私よりすごくお似合いです」とのフレーズが返ってきました。子供世代以上の若い女性からのひと言に面喰らって言葉に詰まりましたが何だか面白い気分になり、こんなやり取りも悪くないなと思えました。

 
 

 “自分の常識は他人の非常識”という言葉があります。「メニューを見て待て」「取り寄せは購入前提」「裾上げはご勝手に」のエピソードはおそらくその店やその会社のルールで決められ守ろうとするスタッフのまじめな働き方なのだと思いますが、そこにはそれをその時に実行したら相手が何を感じるかのシミュレーションが不足・欠落しているのではないでしょうか。

 

 シミュレーションができていれば同じ内容でも「よろしければ」や「たいへん申し訳ございませんが」の枕詞(前置きの言葉)をつける事で人間関係を円滑にし、くもる気分を止める事ができたはずです。

 

 後半のひかる対応エピソードは、どの人も自分の言葉で私とコミュニケーションをしてくれた結果、人がパッとひかって私の気持ちが明るくなったのだと思います。

 
 

 人と人のコミュニケーションはむずかしい場面が多々ありますが、パッとひかるスイッチを常にタッチできるよう応用力を身に付けたいものです。

 
 

(記:島村 美由紀/販売士 第55号(令和6年12月10日発行)女性視点の店づくり㊵掲載掲載)