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2024.09.02

不動産フォーラム21

シニアでてんやわんや 名古屋・大阪の新グルメゾーン

 
 

 この10年、商業施設開発の数はめっきり減りましたが、大都市部では再開発事業でいくつかの新ステージが誕生しています。中でも特徴的なことは、以前は華やかなファッションブランドやジュエリーショップが並び若い女性たちが押し寄せていたものですが、コロナ禍以降はファッションへの関心が薄らぎアパレル業界の低迷から、新ビルオープンの目玉がファッションではなくなりました。代わりに人々の関心を集め集客を図っているのがグルメゾーン‼それも平日の開業時間から列をなしているのがシニア層で、各都市の新ビルではてんやわんやの大騒ぎが起こっています。

 
 

●名古屋のシニアは太っ腹 
 4月23日に名古屋栄に開業した「中日ビル」は、ホテル・オフィス・ホールと地下1階から5階までの商業施設が複合された33階建ての高層ビルで街の新ランドマークになっています。行ってみて驚いたのは93店舗中29店舗がカフェやレストラン、10店舗が食物販店で、4割強がグルメステージになっていて大勢のシニア層で押すな押すなの大騒ぎになっていたのです。

 

 地下1階はフードホールで立ち食い寿司やラーメン、天婦羅きしめんやおにぎり屋、そして名古屋名物あんかけパスタ店等が集まり、おいしそう・楽しそうが上手に同居する空間です。1階には世界的に有名なハンドドリップコーヒーの中部1号店を筆頭に好茶屋や洋菓子屋さんがおしゃれに並んでいます。3階奥には5店舗のフードコート、手前には洋食・うなぎ・そば・カフェ等のレストランが軒を連ねています。

 

 様子を見ていると、地下1階は値段もお手軽庶民派な定番飲食、3階フードコートはボリューミーな満腹タイプとアルコール、その他の3階レストランはランチでも3,000円~5,000円のリッチな正統派飲食店がずらりと並び、シニア層のカップルやグループのお客様でウェイティングがかかっています。どの人も期待に満ちた笑顔で来館している様子が手に取るようにわかりました。若い層を見かけたのは1階のカフェぐらい。きっとご近所にある老舗百貨店のレストランフロアはガラスキになってしまったでしょう。

 
 

●大阪新くいだおれ名所にシニアの行列
 さて場所はかわり大阪駅前に7月31日オープンの「KITTE大阪」です。元の大阪中央郵便局のあった跡地再開発で、JR大阪駅に直結した好立地です。ここも地下3階、地上39階のホテル・オフィス・ホールからなる大型ビルですが、地下1階から6階までが商業施設で、底層は全国物産店や名品店が集約されています。

 

 4階、5階が34店舗で構成されるレストランフロアですが、オープン以来、カツレツ・寿司・うなぎ・洋食・ラーメンと人気店はすさまじい行列ができ場内整理係が人の列をさばくほどになっていました。ここでも集客の中心層はシニア層。それも元気シニアで瞳をランランと輝かせおしゃべりをしながら順番を根気よく待っています。

 

 大阪には地元に安くておいしい店がたくさんあるはずですが、新しい・美味・めずらしいというキーワードに敏感に反応し、すぐに行動にうつせるのもグルメタウン大阪人の証なのでしょうか。地下には「うめよこ」という22店舗がギュウギュウに詰まった横丁がありランチ時のオフィスワーカーですし詰め。低層階の地方物産店も全国のうまいものを楽しむシニア層でにぎわっていました。

 
 

 「新商業トレンドに反応する若い女性層を狙う」の定説はすでに昔のセオリーで、若年層が物の消費に無関心になった今の新ターゲットは「“時間とお金と好奇心”を持つ元気なシニア層の食欲」に訴えることがストライクになっているようです。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2024年9月号掲載)