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「商業革命」 -求められるサードプレイスとしての役割-
成長続くネットショッピング
日本国内のネットショッピング(EC)市場規模は16.5兆円(2017年度)と拡大の一途をたどり、ECは私たちの生活様式や価値観を大きく変える存在となっています。
例えば私の場合―昨年末、コンビニの店頭で“ネット注文のおせち料理”のポスターに興味を持ち「コンビニおせちはどんな物か?」とネット注文。安価商品は売り切れで三段重16,000円を奮発したところ、大みそかに近所のコンビニで受け取った品は予想外の立派さで味も良く家族に好評でした。主婦としてはお手軽でコスパの良いEC体験でした。
例をもうひとつ―愛用するスポーツブランドはなじみの店員もいて百貨店内の店に立ち寄るのを楽しみにしていますが、サイズ在庫が十分ではなく購入を諦めることがあります。ところが最近、ブランドサイトで注文をした品を店頭受け取りが可能となり、百貨店ポイントも貯まるという有り難い買物ができるようになりました。店舖にも行きたい顧客としてはECと店舖がリンクした気の利いたオムニチャンネル(多様なメディアで顧客との接点をつくり購入経路を意識させない販売戦略)です。
金曜日に注文した本は土曜日に届き、週末は読書ざんまい。乾物やお酒や日用雑貨もECでと、私の生活はこの数年でEC依存率が急上昇しています。
私の周辺でも若手スタッフはフリマアプリやネットオークション(CtoC-EC)で不用な服や化粧品をさばいています。また話題のサブスクリプション型のファッションレンタルサービスで月に9,800円で借りたい放題のスタイリストが選んだ洋服を仕事や遊びに活用しています。ゴルフ好きの友人は5年前からゴルフに行く時だけカーシェアリングを活用しています。このように、私たちはECが生活に浸透しECのある生活を当たり前として日常が展開されるようになりました。
ところで私が初めてECの記事を書いたのは13年前で「携帯電話による買物が注目され市場規模が8,000億円になっているが、こんな小さな画面(当時はガラケーが主流)で女性は洋服を買うものだろうか」と懐疑的な文章を書いていました。今の自分はまさにその小さな画面上で迷いなく“注文”をクリックしています。時代は変わり人も変わるものですが、野村総合研究所が3年ごとに実施するアンケート(図1 )でその人々の変化が見られ、2015年と18年の3年間だけでもEC利用は1.6倍に伸びECが暮らしに欠かせない存在となっていることが確認できます。
今、リアルな消費の場で何が起こっているのか?
ECの対極にあるのはリアルショップと呼ばれる実店舗です。私は商業コンサルタントとして長く百貨店やショッピングセンター(SC)や商業系の街づくりに関わりリアルをつくってきた専門家ですので、消費者としてはECユーザーですが仕事ではECの快進撃に危機意識を持ってきました。
改めて現状のリアルショップ動向を見ると日本の小売業の代表である百貨店(全国219店舗)は2018年度売上が5兆8,870億円(前年比マイナス0.8%)、ショッピングセンター(全国3,252施設)は2018年度売り上げ32兆6,344億円(前年比プラス1.9%)、総合スーパー(全国1,841店)は2018年度売り上げ12兆9,883万円(前年比マイナス0.2%)という実績でECの影響を受けて伸び悩み傾向です。
その内訳を分析すると興味深い傾向が読み取れます。不調カテゴリーと好調カテゴリーの二極化が表れているのです。
不調カテゴリーを挙げてみましょう。衣料品、服飾雑貨、インテリア等です。衣料品の不調は深刻な落ち込みで、特に衣料品を売り上げの主軸としてきた百貨店では、2008年~18年の10年間で衣料品売り上げが約1兆円も減少し、今では全体売り上げ規模の1/3弱になり売場も縮小しています。SCでも衣料店の全体売り上げが5~10%マイナスになっているSCが多く、アパレルテナントの退店が相次ぎアパレル業界全体に活気がありません。洋服が売れなければアクセサリーや靴等の服飾雑貨も連鎖して売れなくなります。原因は明白で、多くの消費者がファッションの買物をECにシフトさせたことと、外資や国内企業がおしゃれで安価な衣料品店の大型店舗を10年間で全国に出店(ユニクロ・GU・ZARA・H&Mの国内合計は1,414店舗)させ、消費者の衣料品に対する価値観を劇的に変えたことにあります。それはおしゃれをするハードルが低くなり安くて良い物が簡単に手に入る時代になったということです。インテリアの不調は売れないのではなく、質は中程度で低価格のインテリア商品がそろう店が増え商品単価が下がり売上額が低くなったという結果です。
好調カテゴリーを挙げてみましょう。化粧品、食物販、生活雑貨、ペット用品、健康食品、情報家電等です。人生100年時代を迎え、自分磨きや健康管理、こだわりの生活と美食、ペットや他者とのつながりのためにお金と時間を使う時代になったことと、ECでは選べない自分の目や手、舌で確かめたい買物を消費者はリアルショップに求めているのです。
私はこの好調不調カテゴリーの結果からこれからのリアルショップに何が求められているのかのヒントがあると思います。
商業は街の“サードプレイス”
都市には業務・文化・宿泊・交流展示・娯楽等の都市機能があり商業(百貨店・SC・商店街・地下街・個店)も消費者のモノの買い場として主要な役割を担ってきました。しかしモノを買う場はECによりネットで売買が可能な時代です。ではこれから街の商業は何を売れば良いのでしょうか。
近頃、消費者が注目する業態に本屋があります。本こそECで購入できる代表格ですが人々はある本屋に集まってきます。その本屋はカプセルホテルのような泊まれる機能が併設されています。また入場料を払って本好きだけを集めて長時間滞在できたり、別の書店はカフェや雑貨店が併設されたりと家でも会社でもないもう一つの自分の居場所に書店が選ばれています。カフェの人気も同様です。モバイルで音楽・テレビ・映画を見る、本を読む、勉強をする、仕事をする、友達や夫婦で会話をするという街の中の自分の居場所にカフェが選ばれています。商業がモノ売りから街の中で自分の居場所となる“トキを提供する機能”に変わってきているのです。
個の時間だけではありません。人と人がつながる場となる業態が生まれています。例えばクラフトショップやダンススクールや店内で開催するワークショップで知らぬ人同士が集まり、特定テーマの趣味や勉強を通じて仲間になり、その場のコミュニティーを楽しむ“仲間活動”のできる店が人気を呼んでいます。さらにECでは味わえない超専門的販売も注目されています。ひと昔前は商店や百貨店に豊富な商品知識で“うんちくを語れる専門販売員”がいて靴や洋服、そして器、時計に「なるほど!」と深い納得をさせてくれる有り難い存在でした。この語れる人との関係が専門店の魅力であり貴重な買物時間の価値でした。人手不足の時代、もう一度専門店としての真の専門性を商品と人材によって再構築しようという動きが始まっています。
休日の散歩がてらの男性、子どもと息抜きに外出するママ、淋しさで人恋しくなった高齢者、仕事帰りに家までワンクッションを置く女性、どの人にとっても商業が街の中の居場所として機能し不特定多数を受け入れる“サードプレイス”になっていくことが求められています。モノも情報も過剰だからこそ“トキの過ごし方”とそれが用意されている場所へのニーズは高まっています。大型商業施設だけではなく商店街でも個店でもその役割は実現できます。商業が従来の枠を超え、教育機関・コアワーキングスペース・コンベンション機能や宿泊機能を併設したり、その街で食の大きな台所や街食堂になっていくことも想像できます。モノ売り商業の概念を超えた時と場を提供する新しい都市機能としての商業の役割であると私は考えます。
このことはECの発展があるからこそ、従来モノやコトの飽和で虚飾になった商業にリアルが実現できる新たな価値を示唆してくれたのだと私は気付き、商業のネクストステージの計画を2020年以降のプロジェクトで進めています。
(記:島村 美由紀/内外情勢調査会「J²TOP」2019年(平成31年)3月25日(月)掲載)