販売士
女がつくる男の買い場
男性も美肌に関心あり
男性の美肌への関心が高まっています。そのためか男性雑誌で化粧品紹介特集記事が掲載され、メーカーから男性化粧品の新シリーズ発売がリリースされたりと市場は賑やかです。
私が関わるショッピグセンターの店長会では、複数のコスメショップ店長から「1~2年前から徐々に男性客の立ち寄りが増えてきた」という報告があります。従来はバレンタインのお返しで3月になると女性人気のナチュラル系コスメブランド店に男性客が来店し、ボディソープやボディミルク等をギフト用に買っていく姿を見かける程度でした。ところが最近は、ギフトではなく自分用化粧品を買いに来る男性客が確実に増えているという話しです。
そんな男性達の来店の様子を聞くと「初めての時はおずおずと店に入ってきて、お声掛けをすると身だしなみをよくしたい、顔のテカリが気になって、日焼けをしたくない、といった相談から合う化粧品を紹介するが、使い慣れてくると“定番のヤツを”といった感じで短時間でサッと買う顧客になってくれる」そうです。そのショッピングセンターには19店舗のコスメショップがありますが、3割程度の店で男性の来店があるようです。ちなみにそれらの店は男性専用化粧品を扱っているわけではなく、性別関係なしのオーガニックコスメやナチュラルコスメの専門店です。
男性はどこで買い物を?
現在、日本の化粧品市場は約2.7兆円で、年々4~5%の増加傾向にあり好調です。衣料品や宝飾品市場が伸び悩む中では化粧品市場の拡大は注目できるマーケットですね。では、売上増の要因には前述したような様子から男性化粧品も大きく貢献しているのかと思いきや、実態は1180億円程度と全体の5%程度にすぎません。予想外に少ないのですが、見方を変えるとまだまだ伸びしろがあるということになります。
男性たちはどこで化粧品を買っているのでしょうか?私のまわりの都心通勤・在住者の20代~40代の男性達にヒアリングをすると、何も使っていないという男性はわずかで、主力の買い場はドラッグストアでした。専門店に行くという回答は少数派にとどまりました。
たしかにドラッグストアは女性にとっても気軽に化粧品を買えて便利ですが、男性にもドラッグストアが化粧品を買う身近な存在になっているのですね。しかし多くの男性は「何を選んでよいのか分からない。どう使ってよいのか分からない。ドラッグストアで“あてずっぽう買い”をしているので、本当は誰かに自分の肌に合う物を相談したいし、手入れの方法を教えてもらいたい」というニーズを持っています。女性は化粧品の選び方にも扱い方にも慣れていますし、知人や雑誌、ネット等からの情報収集にも長けています。カウンセリング型の百貨店とセルフのドラッグストアの買い場の使い分けをできる人たちですが、コスメビギナーの男性はまだ消費者としてスタートラインに立ったところなのでしょう。
ショッピングセンターの専門店には一部の男性客が来店を始めていますが、百貨店の化粧品売場で買物をする男性客の姿を見かけることは稀です。ヒアリングをした男性たちにたずねると「恥ずかしくて百貨店には行けない」「女性の売場だから変態だと思われる」という反応がありました。う~ん、残念です。百貨店では上級のカウンセリングができる優秀なブランドの美容部員さんがあなたのお悩みに答えてくれるのですが。。。
では、近年破竹の勢いのインターネットショッピングでの買物はどうでしょうか。すでに定番の化粧品を決めている女性たちの中にはネットでの化粧品買いを当たり前にしている人も少なくありません。私自身も長年使い続けている基礎化粧品は大半をネットで注文しています。銘柄や値段が分かっているのでネット利用が便利です。しかし他の本や衣料品はネットで上手に買物できても、何をどのように使えばよいのか分からないコスメビギナーの男性たちはネットで注文するための定番銘柄を持っていないのでネット利用もままならないと言っています。
定番が決まっていれば一番簡単な買物のやり方なのですが。
女性がつくろう、男性の買い場
男性の美肌への関心や身だしなみ意識の向上は、近年女性の社会進出が進み職場やビジネスシーンで女性との接点が多くなってきたこと、またビジネスのグローバル化で外国人との接点が増えたことが要因といわれています。どちらにしろ男性が美しくなることは女性として大歓迎です。
しかし「男性が満足して化粧品を買える場がない」という基本的な課題を解決していかなければなりません。前述のショッピングセンターで男性を集客している店の特長を分析すると
★店舗デザインや商品パッケージ、スタッフユニフォームが女性的ではなくシンプル・クール・モダン等のテイストである
★商品を自由に手に取りやすい陳列が工夫されている
★スタッフが控えめだが客の存在を認知している適切な距離感を心得ている
という共通点があげられます。そして女性の専門的なパーソナルカウンセリングがどの店でも完璧です。件の男性たちも「美容のことだからカウンセリングは女性から受けたい。男性のカウンセラーには親近感がわきにくい。やはり女性にかぎる」という熱い希望が寄せられています。
さてさて、5%しかない男性化粧品市場規模が破竹の勢いで伸びていくには“美容を心得た女性が創る男性化粧品売場”なのではないかと、その潜在力に期待を持った次第です。
(記:島村 美由紀/販売士 第32号(平成31年3月10日発行)女性視点の店づくり⑰掲載)