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2024.08.01

不動産フォーラム21

絶好調の百貨店動向

 
 

●発見の買い場―インバウンド百貨店利用術 
 銀座四丁目交差点は猛暑の中でもインバウンドの往来でにぎわっています。そのうちの多数が百貨店に入店するのはコロナ禍前と同じ光景なのですが、この頃はインバウンドが足を向ける売場に変化が生まれています。例えば地下の食品売場の和菓子・洋菓子ゾーンは、有名店のショーケース前でスイーツをじっくりと品定めする外国人客で混んでいます。

 

 日本人でもデパ地下スイーツは「よくこんなステキなスイーツがつくれるものだ‼」と感心する品々が並ぶ期待度の高い売場ですから、外国人客にとっては多種多様な種類や商品数、パッケージの美しさ、かわいらしさ等、驚愕の連続ではないでしょうか。

 

 欧米系熟年インバウンド夫婦が和菓子屋の前で芸術品のような生菓子を選び満足そうに微笑んでいました。アジアから来たと思われる若い女性は数店のチョコレートショップを歩き回り高級チョコのミニボックスを買っていました。自分へのおみやげかもしれません。中には売場の隅で袋を開いておまんじゅうやケーキをパクリとする外国人の姿も。(すぐに食べてみたくなる衝動は理解できますよね。)年々手が込んだ高級品が増え高嶺の花になるスイーツですが、円安効果が気兼ねなく買えることからも、デパ地下がインバウンドの新注目ゾーンになっているのでしょう。

 

 もうひとつの新注目ゾーンは靴下やハンカチといった服飾雑貨売場です。百貨店1階には化粧品に並んで靴下やハンカチ、スカーフといった服飾類売場が必ずありますが、ここで傘やハンカチや靴下を買物するインバウンドが増えています。「日本製は色や種類が豊富、質が良く長持ちする」「5本指ソックスを初めて見た」という評価が動画に上がっています。「おみやげに1枚ずつ包んでくれた」とうれしそうにする外国人客もいます。私たちにとっては豊富なことが当然のように思っている品揃えですが、他国にはない豊かな商品群をインバウンドが発見して評価しています。

 
 

●27ヶ月連続プラスの好調維持
 近年百貨店が支持力を失い店舗数・売上が激減していたことは周知のとおりですが、コロナ禍明けの昨年よりインバウンド効果で急激な売上アップを果たしています。この5月の全国百貨店売上高(4,692億円)は前年同月対比で14.4%増、入店客数も2%増で27ヶ月連続のプラスでありコロナ前の2019年比でも売上高は8.9%増と絶好調です。その内訳は円安などを追い風にしたインバウンド需要で売上シェア15.8%(718億円)となり過去最高を記録しました。人気の高い商品はラグジュアリーブランドや世界的に知名度あるスポーツアパレルが主力です。

 

 ある百貨店は競合店が増床リニューアルをしたのに対して自店は古い建物で立地もイマイチなためインバウンド効果はさほど期待できないと思っていたら、競合店が地域客で混雑しているため空いている自店にインバウンド来店が増え、思わぬ売上アップで驚いたという話があります。

 

 また老舗百貨店では入店客の動きをしっかりと見極め、失礼にならない時間経過で客に声掛けをするという接客ルールを長らく守ってきたそうですが、インバウンドから「滞在時間のない中で買物に行ったのだから、さっさと声を掛け持っている商品はいっぺんにすべて見せろ」という苦情が多くあったそうです。“観光も、グルメも、お目当ての買物も”というインバウンドにとっては老舗百貨店の手間のかかる接客がお気に召さなかったのでしょう。その店では苦情後にすぐ声掛けをすることに切り替えたそうです。

 
 

 実は、全国百貨店の全てが好調というわけではなく10都市の中でも仙台・横浜・広島の伸びはさほどではありません。また10都市以外の地方百貨店はマイナスが続く実態があります。インバウンドが来日しやすい都市(交通・宿泊等インフラ)+観光目的集積の厚い都市の百貨店はアップしそれ以外の都市や地域百貨店はまだまだアパレル不振・物価高の国内景気に左右されている現状があります。

 

 複数回来日の外国人観光客も増え観光ニーズ・買物ニーズも変化しています。全百貨店ではないものの低迷をしていた百貨店が復活するのは日本経済にとって喜ばしい事。好調が続く事を期待します。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2024年8月号掲載)